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the 25th day 突然の訪問で
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レナが呪いに倒れた翌日の朝、ルリアーナ城は急な来客に翻弄されている。誰が予想したよりも早く、ポテンシアの第四王子は多くの部下を連れて到着した。
突然の要人に、使用人たちは動き回ることになっていた。いつもと同じように応接に通しても、誰がルイスの相手をするべきかでハオルは困り果てる。ハオルが出て行って事情を説明したところで、ルイスの神経を逆なでしない自信がない。ついには、王女の護衛がいる部屋をノックした。
ハオルは、カイにルイスのところに来て欲しい旨を話した。それを聞くと、明らかにカイは不機嫌な顔をして、
「呪いが相手とはいえ守れなかった責任を取れ、と言われたら、差し出すものはないのですが」
と言い放つ。異国人で護衛だけを任された身で、王女の婚約者の前に出て行く義理はないと主張した。
「呪いの件に関しては、私が一切の責任を負うべきことは承知いたしております。どうか、レナ様の側近としての立場でルイス様との席にご同席いただきたいのです……」
ハオルが困り果てながら懇願しているのを、シンとロキは一歩引いた目で眺めていた。
「外国人の雇われを、そんな重要な席に置くのはおかしいだろう」
カイは思わず本音が出た。
(ここの奴らは、王女に頼り切っているじゃないか……)
カイはイライラしながら大きなため息をハオルに聞かせると、
「残された人間がそんなに無能でどうする、と、突っぱねることだって出来るんですよ」
と言いながら、しぶしぶ応接に向かう準備を始めた。
シンとロキは複雑な気持ちを抱えながら、カイと共に急いで身支度をする。ハオルは、ただただ頭を下げるばかりだった。
カイが応接室に着くと、ルイスは椅子に腰を下ろしたばかりのタイミングだった。ルイスの護衛に付いているブラッドがカイを見て軽く会釈をすると、カイは「数日ぶりか」と小さく声をかける。
ルイスは落ち着かない様子で視線が一定にならない。明らかに動揺している姿に、カイはこの王子もここまで取り乱すことがあるのだなと驚いた。
カイとハオルは2人で並ぶと、後ろにシンを連れてまずは頭を下げる。それを見たルイスは、
「謝罪や細かいことは飛ばしてくれ。まず、レナ様がどうなっているのか確認したい。いきなりですまないが連れて行ってくれないか」
と言って立ち上がった。カイは隠しても仕方がないと、頷いてルイスをレナの部屋に案内することに決める。
(本当に、ルイス様は王女殿下を想っていらっしゃったんだな……)
シンはルイスの様子に心が痛んだ。シンにも将来を約束した女性がいる。相手を失うかもしれない痛みが、シンには身近だった。
ルイスとその護衛が3名、それに加えてカイとシンとロキが重苦しい雰囲気の中、廊下を歩いていた。城内には歓迎のムードは消え、まるで喪中のような静かで暗い空気が漂っている。カイはレナの部屋の扉を開けると、ルイスを中に誘導してレナの前まで歩いた。
「ルイス様……ごめんなさい……もう、あなたとの婚姻は難しくなりました……」
レナは部屋で立ち尽くしていたが、ルイスを見て力なくそう言った。
「どうして、そんな後ろ向きなことをおっしゃるんですか。まだ、あなたは以前会ったままの姿で、何も問題ないように見えますよ」
ルイスがそう言うと、レナは首を左右に振った。
「このまま自我がなくなっていくということは、私は徐々に私ではなくなっていくということでしょう。残念ですが、もう私には国を治める資格などありません」
その言葉に、カイは斜め下を向き顔を歪める。
「君のような護衛にも、呪いはお手上げというわけか。まだ私はこの国の者にはなっていないが、彼女を救う方法を探す。異論はないな?」
ルイスがカイに声を掛けると、
「ルイス殿下が動くことで周辺国へは何かしらの影響があるかもしれませんが、正直、他に頼れる先も思い当たりません」
と、カイはルイスを真っ直ぐ見て言った。
「外国人は、さすがに冷静だ。ここにいる他の家臣を見ていると、まるで何をすべきか分かっていないようで心配になるが……一旦そちらの持っている情報を全て出し切ってもらおうか。私は、優秀な部下たちを使ってできることを考えよう」
ルイスは、気持ちを切り替えてブラッドを見た。
「君は、ここの事情にも少し詳しいだろうし、頼むよ」
ブラッドは無言で何度も頷いている。
「では、そこのテーブルで話しましょうか」
カイは、ルイスをテーブル席に案内した。
「ああ……」
ルイスは、その席で4日前にレナと昼食を取っていたことを思い出し、すっかり静かになっているレナに視線を移した。
突然の要人に、使用人たちは動き回ることになっていた。いつもと同じように応接に通しても、誰がルイスの相手をするべきかでハオルは困り果てる。ハオルが出て行って事情を説明したところで、ルイスの神経を逆なでしない自信がない。ついには、王女の護衛がいる部屋をノックした。
ハオルは、カイにルイスのところに来て欲しい旨を話した。それを聞くと、明らかにカイは不機嫌な顔をして、
「呪いが相手とはいえ守れなかった責任を取れ、と言われたら、差し出すものはないのですが」
と言い放つ。異国人で護衛だけを任された身で、王女の婚約者の前に出て行く義理はないと主張した。
「呪いの件に関しては、私が一切の責任を負うべきことは承知いたしております。どうか、レナ様の側近としての立場でルイス様との席にご同席いただきたいのです……」
ハオルが困り果てながら懇願しているのを、シンとロキは一歩引いた目で眺めていた。
「外国人の雇われを、そんな重要な席に置くのはおかしいだろう」
カイは思わず本音が出た。
(ここの奴らは、王女に頼り切っているじゃないか……)
カイはイライラしながら大きなため息をハオルに聞かせると、
「残された人間がそんなに無能でどうする、と、突っぱねることだって出来るんですよ」
と言いながら、しぶしぶ応接に向かう準備を始めた。
シンとロキは複雑な気持ちを抱えながら、カイと共に急いで身支度をする。ハオルは、ただただ頭を下げるばかりだった。
カイが応接室に着くと、ルイスは椅子に腰を下ろしたばかりのタイミングだった。ルイスの護衛に付いているブラッドがカイを見て軽く会釈をすると、カイは「数日ぶりか」と小さく声をかける。
ルイスは落ち着かない様子で視線が一定にならない。明らかに動揺している姿に、カイはこの王子もここまで取り乱すことがあるのだなと驚いた。
カイとハオルは2人で並ぶと、後ろにシンを連れてまずは頭を下げる。それを見たルイスは、
「謝罪や細かいことは飛ばしてくれ。まず、レナ様がどうなっているのか確認したい。いきなりですまないが連れて行ってくれないか」
と言って立ち上がった。カイは隠しても仕方がないと、頷いてルイスをレナの部屋に案内することに決める。
(本当に、ルイス様は王女殿下を想っていらっしゃったんだな……)
シンはルイスの様子に心が痛んだ。シンにも将来を約束した女性がいる。相手を失うかもしれない痛みが、シンには身近だった。
ルイスとその護衛が3名、それに加えてカイとシンとロキが重苦しい雰囲気の中、廊下を歩いていた。城内には歓迎のムードは消え、まるで喪中のような静かで暗い空気が漂っている。カイはレナの部屋の扉を開けると、ルイスを中に誘導してレナの前まで歩いた。
「ルイス様……ごめんなさい……もう、あなたとの婚姻は難しくなりました……」
レナは部屋で立ち尽くしていたが、ルイスを見て力なくそう言った。
「どうして、そんな後ろ向きなことをおっしゃるんですか。まだ、あなたは以前会ったままの姿で、何も問題ないように見えますよ」
ルイスがそう言うと、レナは首を左右に振った。
「このまま自我がなくなっていくということは、私は徐々に私ではなくなっていくということでしょう。残念ですが、もう私には国を治める資格などありません」
その言葉に、カイは斜め下を向き顔を歪める。
「君のような護衛にも、呪いはお手上げというわけか。まだ私はこの国の者にはなっていないが、彼女を救う方法を探す。異論はないな?」
ルイスがカイに声を掛けると、
「ルイス殿下が動くことで周辺国へは何かしらの影響があるかもしれませんが、正直、他に頼れる先も思い当たりません」
と、カイはルイスを真っ直ぐ見て言った。
「外国人は、さすがに冷静だ。ここにいる他の家臣を見ていると、まるで何をすべきか分かっていないようで心配になるが……一旦そちらの持っている情報を全て出し切ってもらおうか。私は、優秀な部下たちを使ってできることを考えよう」
ルイスは、気持ちを切り替えてブラッドを見た。
「君は、ここの事情にも少し詳しいだろうし、頼むよ」
ブラッドは無言で何度も頷いている。
「では、そこのテーブルで話しましょうか」
カイは、ルイスをテーブル席に案内した。
「ああ……」
ルイスは、その席で4日前にレナと昼食を取っていたことを思い出し、すっかり静かになっているレナに視線を移した。
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