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the 24th day 呪詛
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朝起きてレナが自室で着替えていると、手伝いにサーヤが駆け付けた。
「おはよう、サーヤ」
レナが声を掛けると、サーヤが青い顔で落ち込んだ様子を隠さずに、
「おはようございます」
と暗い調子で言ったので、レナは何があったのか尋ねる。
「実は……私、レナ様に仕えているのに……ルリアーナ信教の信者なんですが……昨夜、私の友人が……」
と、サーヤは震えている。
「どの宗教を信じているかは自由よ。あなたが王政を否定していても構わないわ。で、何があったの?」
レナのハッキリした口調にサーヤは少し落ち着くと、
「亡くなったそうです、それも、誰かに殺されたんじゃないかって……」
と言って涙を流した。レナはとうとう市民の犠牲者が出たのだと唇を噛んだ。
「その事件、私の耳にまだ入って来ていないわね……。それは、どうやって知ったの……?」
「ハオル様が……。城下町に来ている修道士から呪術で連絡を受けたと……」
サーヤは涙をボロボロこぼして言った。
(ハオルもサーヤも、レジスタンスだったのね……)
レナは事件と同じ程度に、使用人の信仰する宗教に動揺していた。
「それは、辛いわね。もう少し詳しく知りたいから、着替えたらハオルを呼んでくれる?」
レナが優しく声を掛けると、サーヤはレナの着替えを手伝いながら「はい」と返事をし、ハオルを呼びに行った。
サーヤに呼ばれたハオルがレナの所にやってきた。レナの隣にはカイが並んで立っている。
「ハオル、あなたの知っていることを、できるだけ詳しく、正直に話してもらいたいの」
レナの言葉にハオルは肩を落とし、
「レナ様に、レジスタンスのことを知られたくは無かったのですが……」
と前置きをしてゆっくり話し始めた。
「城下町に、修道士が2名、収穫祭のために滞在しています。そのうちの1名も私が知った者です。呪術を使って、事の次第を報告してくれました。
昨日、外国人兵と思われる集団がレジスタンスのパレード一行を襲い、無差別殺人を行ったとのこと、そして、その外国人兵を撃退したのは、1名の新人修道士だそうです」
ハオルの言葉に、レナとカイは言葉を失った。
(1名の新人修道士……?)
カイは、サラには歯が立たなかった外国人兵を、1人で撃退した修道士がいたという事実に驚きを隠せない。
「ハオル、レジスタンスであることを隠していたのは、私への配慮からなの?」
レナがハオルに尋ねると、ハオルは項垂れた。
「私は、正教会のしていることが許せないという気持ちだけで、レジスタンスに入信しました。私がレジスタンスを拠り所にしたのは、先王とその周りの正教会のこと、レナ様のこと、そして……レジスタンスへ逃げ場を求めたミリーナ様のことがきっかけです」
レナは初めて聞く内容に全く理解が付いて行けず、どこから尋ねようかと戸惑った。
「ハオル殿、その登場人物についてこちらにも分かるように頼みます」
カイがレナの代わりに聞き返したので、レナはほっとする。
「はい……。先王は、それまでの王家の習慣を踏襲し、正教会が先導士として育てた『ミリーナ』という少女に手を掛けました。王妃がおかしくなられたのはそれからのことです」
ハオルの言葉にレナは何も言えなくなっている。
「一応、確認しておくが……その手を掛けたというのは……」
カイが言いにくそうにハオルに尋ねると、
「女性を穢す意味のことです」
とハオルは悔しそうに言った。
「ミリーナ様は、レナ様を一人で育てておりましたが、レナ様に呪術師としての才があると分かると、正教会と先王はミリーナ様からレナ様を取り上げ、王妃の娘として育て始めます。絶望されたミリーナ様は、ご自身の呪術をもって、レナ様以外の王家を滅ぼし、レジスタンスに入信しました」
ハオルの言葉に、レナは頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
「私のお母様は……生きているの……?」
レナの言葉にハオルはゆっくり頷いた。
「レジスタンスの第一呪術師、ミリーナ・トゥルノン様が、レナ様の産みのお母様です。と言っても、もうミリーナ様は復讐に駆られて、あまり周囲の声を聞き入れることができなくなっているらしいのですが」
ハオルの声がどんどん遠くなっていくようで、レナは愕然とした。
「そのレジスタンスに危害を加えるとしたら、正教会の手の者と考えるのが妥当なのか?」
カイがハオルに確認するように聞くと、
「分かりませんが……正教会か、怪しいのはメイソンの周りでしょう」
とハオルは悔しそうに言った。
「メイソンは、地下牢の住人だと思っていたが」
カイが言うとハオルは首を振った。
「呪術師が、捕らわれていても外に連絡を取れることは私の例からもご存じのはず。牢に閉じ込めただけではメイソンの行動は制御できないかもしれません」
ハオルの言葉にカイは苛立ちを隠さずに、
「それでは、捕らえている意味がないだろう……。今から行って俺が息の根を止めてやってもいいぞ」
と掌をテーブルに叩きつけて言ったので、ハオルは下を向いて参っていた。
「話してくれたのは有難いけど、情報が多くて頭が痛いわ。レジスタンスに居るのが私の本当のお母様で、王家と正教会の癒着は過去から問題だったと……」
レナは立つ気力を失い、その場に座り込んだ。
「話だけ聞いていると、本当にこの国には、王家など必要ないわね……」
レナが顔を真っ青にしながら茫然としているのを見て、ハオルは急に焦りだす。
「ダメです、レナ様! ご自身と王家を否定すると、レナ様に掛けられた眠った術が作用しはじめてしまいます!」
ハオルの言葉にカイはハッとした。
「呪術か?!」
ハオルは何度も頷いたが、座り込んだレナはそのまま動かない。カイがしゃがんでレナを覗き込むと、レナは気を失っているようだった。
「どういうことだ?! 殿下はどうなる?!」
カイがハオルの胸倉を掴んで事情を把握しようとすると、
「申し訳ございません……この呪いは、ミリーナ様の作った呪いで……仕上げの部分だけ私が担当し、レナ様に掛けたものです……」
ハオルは涙を流して謝り続けた。
「……呪いの内容は……」
カイが顔を歪めてハオルに尋ねた。
「このまま、徐々に自我を失い……息絶えます」
カイは歯を食いしばり、ハオルを開放してレナに視線を移す。
「殿下が何をした……そこまで、呪われるほどの……ことをしてはいないだろう……」
日が昇ったレナの部屋に、カイの悲痛な声が静かに響く。ハオルはレナの前で静かに頭を床に付け、泣いていた。
「おはよう、サーヤ」
レナが声を掛けると、サーヤが青い顔で落ち込んだ様子を隠さずに、
「おはようございます」
と暗い調子で言ったので、レナは何があったのか尋ねる。
「実は……私、レナ様に仕えているのに……ルリアーナ信教の信者なんですが……昨夜、私の友人が……」
と、サーヤは震えている。
「どの宗教を信じているかは自由よ。あなたが王政を否定していても構わないわ。で、何があったの?」
レナのハッキリした口調にサーヤは少し落ち着くと、
「亡くなったそうです、それも、誰かに殺されたんじゃないかって……」
と言って涙を流した。レナはとうとう市民の犠牲者が出たのだと唇を噛んだ。
「その事件、私の耳にまだ入って来ていないわね……。それは、どうやって知ったの……?」
「ハオル様が……。城下町に来ている修道士から呪術で連絡を受けたと……」
サーヤは涙をボロボロこぼして言った。
(ハオルもサーヤも、レジスタンスだったのね……)
レナは事件と同じ程度に、使用人の信仰する宗教に動揺していた。
「それは、辛いわね。もう少し詳しく知りたいから、着替えたらハオルを呼んでくれる?」
レナが優しく声を掛けると、サーヤはレナの着替えを手伝いながら「はい」と返事をし、ハオルを呼びに行った。
サーヤに呼ばれたハオルがレナの所にやってきた。レナの隣にはカイが並んで立っている。
「ハオル、あなたの知っていることを、できるだけ詳しく、正直に話してもらいたいの」
レナの言葉にハオルは肩を落とし、
「レナ様に、レジスタンスのことを知られたくは無かったのですが……」
と前置きをしてゆっくり話し始めた。
「城下町に、修道士が2名、収穫祭のために滞在しています。そのうちの1名も私が知った者です。呪術を使って、事の次第を報告してくれました。
昨日、外国人兵と思われる集団がレジスタンスのパレード一行を襲い、無差別殺人を行ったとのこと、そして、その外国人兵を撃退したのは、1名の新人修道士だそうです」
ハオルの言葉に、レナとカイは言葉を失った。
(1名の新人修道士……?)
カイは、サラには歯が立たなかった外国人兵を、1人で撃退した修道士がいたという事実に驚きを隠せない。
「ハオル、レジスタンスであることを隠していたのは、私への配慮からなの?」
レナがハオルに尋ねると、ハオルは項垂れた。
「私は、正教会のしていることが許せないという気持ちだけで、レジスタンスに入信しました。私がレジスタンスを拠り所にしたのは、先王とその周りの正教会のこと、レナ様のこと、そして……レジスタンスへ逃げ場を求めたミリーナ様のことがきっかけです」
レナは初めて聞く内容に全く理解が付いて行けず、どこから尋ねようかと戸惑った。
「ハオル殿、その登場人物についてこちらにも分かるように頼みます」
カイがレナの代わりに聞き返したので、レナはほっとする。
「はい……。先王は、それまでの王家の習慣を踏襲し、正教会が先導士として育てた『ミリーナ』という少女に手を掛けました。王妃がおかしくなられたのはそれからのことです」
ハオルの言葉にレナは何も言えなくなっている。
「一応、確認しておくが……その手を掛けたというのは……」
カイが言いにくそうにハオルに尋ねると、
「女性を穢す意味のことです」
とハオルは悔しそうに言った。
「ミリーナ様は、レナ様を一人で育てておりましたが、レナ様に呪術師としての才があると分かると、正教会と先王はミリーナ様からレナ様を取り上げ、王妃の娘として育て始めます。絶望されたミリーナ様は、ご自身の呪術をもって、レナ様以外の王家を滅ぼし、レジスタンスに入信しました」
ハオルの言葉に、レナは頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
「私のお母様は……生きているの……?」
レナの言葉にハオルはゆっくり頷いた。
「レジスタンスの第一呪術師、ミリーナ・トゥルノン様が、レナ様の産みのお母様です。と言っても、もうミリーナ様は復讐に駆られて、あまり周囲の声を聞き入れることができなくなっているらしいのですが」
ハオルの声がどんどん遠くなっていくようで、レナは愕然とした。
「そのレジスタンスに危害を加えるとしたら、正教会の手の者と考えるのが妥当なのか?」
カイがハオルに確認するように聞くと、
「分かりませんが……正教会か、怪しいのはメイソンの周りでしょう」
とハオルは悔しそうに言った。
「メイソンは、地下牢の住人だと思っていたが」
カイが言うとハオルは首を振った。
「呪術師が、捕らわれていても外に連絡を取れることは私の例からもご存じのはず。牢に閉じ込めただけではメイソンの行動は制御できないかもしれません」
ハオルの言葉にカイは苛立ちを隠さずに、
「それでは、捕らえている意味がないだろう……。今から行って俺が息の根を止めてやってもいいぞ」
と掌をテーブルに叩きつけて言ったので、ハオルは下を向いて参っていた。
「話してくれたのは有難いけど、情報が多くて頭が痛いわ。レジスタンスに居るのが私の本当のお母様で、王家と正教会の癒着は過去から問題だったと……」
レナは立つ気力を失い、その場に座り込んだ。
「話だけ聞いていると、本当にこの国には、王家など必要ないわね……」
レナが顔を真っ青にしながら茫然としているのを見て、ハオルは急に焦りだす。
「ダメです、レナ様! ご自身と王家を否定すると、レナ様に掛けられた眠った術が作用しはじめてしまいます!」
ハオルの言葉にカイはハッとした。
「呪術か?!」
ハオルは何度も頷いたが、座り込んだレナはそのまま動かない。カイがしゃがんでレナを覗き込むと、レナは気を失っているようだった。
「どういうことだ?! 殿下はどうなる?!」
カイがハオルの胸倉を掴んで事情を把握しようとすると、
「申し訳ございません……この呪いは、ミリーナ様の作った呪いで……仕上げの部分だけ私が担当し、レナ様に掛けたものです……」
ハオルは涙を流して謝り続けた。
「……呪いの内容は……」
カイが顔を歪めてハオルに尋ねた。
「このまま、徐々に自我を失い……息絶えます」
カイは歯を食いしばり、ハオルを開放してレナに視線を移す。
「殿下が何をした……そこまで、呪われるほどの……ことをしてはいないだろう……」
日が昇ったレナの部屋に、カイの悲痛な声が静かに響く。ハオルはレナの前で静かに頭を床に付け、泣いていた。
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