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the 24th day 死闘の末
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朝日が昇って辺りが明るくなってきた。徹夜で戦い続けたリオ(レオナルド)は、アウグス家の救世主として新しい神のように崇められ始めていた。
最初は恐怖の目でリオを見ていたフィリップも、外で起きている外国人の襲撃が他人事ではないと分かり始める。次第にリオに自分たちの運命を委ねるしかないことに気付き、その圧倒的な能力にひれ伏すことになった。
リオが担ぐように着ていた真っ白な法衣は何人かの血で黒く染まり、家の近くや入口の中にはレジスタンスを狙ってやってきた外国人兵の死体の数々が転がっている。残念ながら、市民も数名犠牲になっていた。
何故、リオがここまでの力を持っているのか、そして、正確に短剣を投げて次々に敵を撃退してしまったのか、初めは気になったことがとても些細なことに思われた。イリアは、リオが収穫祭に神が寄越した救世主に違いないと考えを改め、夜を徹して戦い続けるリオにホットミルクやホットココアを差し入れて、血で汚れた身体を拭くためのタオルを何度も運んだ。
「先輩は……あの女……ミリーナ様の術を受けて何ともないんですか?」
リオは大方の兵は片付いたのだろうかと思いながら、イリアの差し入れてくれたタオルで顔を拭きながら、近くにいるフィリップに質問した。
「ミリーナ様の術か……実は記憶にないから、何の術を掛けられているかちゃんとは分からないけど、あの礼拝堂で全員に掛けたものであれば、暗示の類だろうな」
フィリップは自分の命を何度も救ってくれたことになるリオが、ミリーナの術からひとり逃れていたのだという事を知った。
「そうなんですね。てっきり、もっと邪悪なものなのかと思ってました。皆さんの様子が怪しかったから……」
リオは朝になって少し疲れが見え始めていたが、頭はハッキリと動いているようだ。
「いや、今迄こんな風に、人が殺されるようなことは起きなかったんだよ。平和に慣れ過ぎていたんだね。信教(レジスタンス)が狙われたんだから、正教会の誰かの差し金なんだろうか……王族がこんなことまでするとしたら、恐ろしいな……」
フィリップは肩を落としていた。折角の収穫祭が、神聖な祭りから凄惨な祭りになってしまったこと、自分は聖職者の端くれとして、何もできなかったことがこたえている。
「先輩にだけは教えてあげますけど、僕、とある方の差し金でここにいるんです。ここまで殺人事件が起こるとは思わなかったけど、怪しいと確信があったから修道士に紛れたんですよ。結果的に、罪もない人の命が守れた気がします」
リオがそう言ってホットココアを飲み干すと、フィリップは、
「いや、リオがいなかったら、今ごろ僕は生きていない。その、誰かの差し金というのは聞かなかったことにするから、君は僕の恩人として長生きしてくれ……」
と力なく言った。
「良かった。先輩がそう言ってくれて助かります。実は、僕の中ではミリーナ様って人が、まだ信用しきれていないんです。だから、あの人のことをもう少し追うつもりです」
リオがそう言うと、フィリップは無言で頷いた。
「この黒い宝石、もらっても良いですか? 使い方が分かったから、ちょっと借りたいんですけど」
リオは昨日の兵士が持っていた呪術の掛けられた黒い宝石を出すと、フィリップは、
「ああ、そんなものが近くにあったら熟睡できなくなりそうだ。リオが使いたいなら自由にしたらいい」
と何の疑問も持たずに言った。
「先輩ってほんと、理解のある人だなあ」
リオはそう言って黒い宝石を服の内ポケットにしまった。
(ほんと、危機感が無くて笑えるよ)
リオは結果的に命を救うことになってしまったアウグス一家とフィリップに、今後どんな働きをしてもらおうかと考えを巡らせる。
それにしても、この程度の外国人兵を撃退する術を持たないとは、ルリアーナという国にはつくづく失望したなとリオは残念に思っていた。
最初は恐怖の目でリオを見ていたフィリップも、外で起きている外国人の襲撃が他人事ではないと分かり始める。次第にリオに自分たちの運命を委ねるしかないことに気付き、その圧倒的な能力にひれ伏すことになった。
リオが担ぐように着ていた真っ白な法衣は何人かの血で黒く染まり、家の近くや入口の中にはレジスタンスを狙ってやってきた外国人兵の死体の数々が転がっている。残念ながら、市民も数名犠牲になっていた。
何故、リオがここまでの力を持っているのか、そして、正確に短剣を投げて次々に敵を撃退してしまったのか、初めは気になったことがとても些細なことに思われた。イリアは、リオが収穫祭に神が寄越した救世主に違いないと考えを改め、夜を徹して戦い続けるリオにホットミルクやホットココアを差し入れて、血で汚れた身体を拭くためのタオルを何度も運んだ。
「先輩は……あの女……ミリーナ様の術を受けて何ともないんですか?」
リオは大方の兵は片付いたのだろうかと思いながら、イリアの差し入れてくれたタオルで顔を拭きながら、近くにいるフィリップに質問した。
「ミリーナ様の術か……実は記憶にないから、何の術を掛けられているかちゃんとは分からないけど、あの礼拝堂で全員に掛けたものであれば、暗示の類だろうな」
フィリップは自分の命を何度も救ってくれたことになるリオが、ミリーナの術からひとり逃れていたのだという事を知った。
「そうなんですね。てっきり、もっと邪悪なものなのかと思ってました。皆さんの様子が怪しかったから……」
リオは朝になって少し疲れが見え始めていたが、頭はハッキリと動いているようだ。
「いや、今迄こんな風に、人が殺されるようなことは起きなかったんだよ。平和に慣れ過ぎていたんだね。信教(レジスタンス)が狙われたんだから、正教会の誰かの差し金なんだろうか……王族がこんなことまでするとしたら、恐ろしいな……」
フィリップは肩を落としていた。折角の収穫祭が、神聖な祭りから凄惨な祭りになってしまったこと、自分は聖職者の端くれとして、何もできなかったことがこたえている。
「先輩にだけは教えてあげますけど、僕、とある方の差し金でここにいるんです。ここまで殺人事件が起こるとは思わなかったけど、怪しいと確信があったから修道士に紛れたんですよ。結果的に、罪もない人の命が守れた気がします」
リオがそう言ってホットココアを飲み干すと、フィリップは、
「いや、リオがいなかったら、今ごろ僕は生きていない。その、誰かの差し金というのは聞かなかったことにするから、君は僕の恩人として長生きしてくれ……」
と力なく言った。
「良かった。先輩がそう言ってくれて助かります。実は、僕の中ではミリーナ様って人が、まだ信用しきれていないんです。だから、あの人のことをもう少し追うつもりです」
リオがそう言うと、フィリップは無言で頷いた。
「この黒い宝石、もらっても良いですか? 使い方が分かったから、ちょっと借りたいんですけど」
リオは昨日の兵士が持っていた呪術の掛けられた黒い宝石を出すと、フィリップは、
「ああ、そんなものが近くにあったら熟睡できなくなりそうだ。リオが使いたいなら自由にしたらいい」
と何の疑問も持たずに言った。
「先輩ってほんと、理解のある人だなあ」
リオはそう言って黒い宝石を服の内ポケットにしまった。
(ほんと、危機感が無くて笑えるよ)
リオは結果的に命を救うことになってしまったアウグス一家とフィリップに、今後どんな働きをしてもらおうかと考えを巡らせる。
それにしても、この程度の外国人兵を撃退する術を持たないとは、ルリアーナという国にはつくづく失望したなとリオは残念に思っていた。
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