150 / 221
the 24th day 死闘の末
しおりを挟む
朝日が昇って辺りが明るくなってきた。徹夜で戦い続けたリオ(レオナルド)は、アウグス家の救世主として新しい神のように崇められ始めていた。
最初は恐怖の目でリオを見ていたフィリップも、外で起きている外国人の襲撃が他人事ではないと分かり始める。次第にリオに自分たちの運命を委ねるしかないことに気付き、その圧倒的な能力にひれ伏すことになった。
リオが担ぐように着ていた真っ白な法衣は何人かの血で黒く染まり、家の近くや入口の中にはレジスタンスを狙ってやってきた外国人兵の死体の数々が転がっている。残念ながら、市民も数名犠牲になっていた。
何故、リオがここまでの力を持っているのか、そして、正確に短剣を投げて次々に敵を撃退してしまったのか、初めは気になったことがとても些細なことに思われた。イリアは、リオが収穫祭に神が寄越した救世主に違いないと考えを改め、夜を徹して戦い続けるリオにホットミルクやホットココアを差し入れて、血で汚れた身体を拭くためのタオルを何度も運んだ。
「先輩は……あの女……ミリーナ様の術を受けて何ともないんですか?」
リオは大方の兵は片付いたのだろうかと思いながら、イリアの差し入れてくれたタオルで顔を拭きながら、近くにいるフィリップに質問した。
「ミリーナ様の術か……実は記憶にないから、何の術を掛けられているかちゃんとは分からないけど、あの礼拝堂で全員に掛けたものであれば、暗示の類だろうな」
フィリップは自分の命を何度も救ってくれたことになるリオが、ミリーナの術からひとり逃れていたのだという事を知った。
「そうなんですね。てっきり、もっと邪悪なものなのかと思ってました。皆さんの様子が怪しかったから……」
リオは朝になって少し疲れが見え始めていたが、頭はハッキリと動いているようだ。
「いや、今迄こんな風に、人が殺されるようなことは起きなかったんだよ。平和に慣れ過ぎていたんだね。信教(レジスタンス)が狙われたんだから、正教会の誰かの差し金なんだろうか……王族がこんなことまでするとしたら、恐ろしいな……」
フィリップは肩を落としていた。折角の収穫祭が、神聖な祭りから凄惨な祭りになってしまったこと、自分は聖職者の端くれとして、何もできなかったことがこたえている。
「先輩にだけは教えてあげますけど、僕、とある方の差し金でここにいるんです。ここまで殺人事件が起こるとは思わなかったけど、怪しいと確信があったから修道士に紛れたんですよ。結果的に、罪もない人の命が守れた気がします」
リオがそう言ってホットココアを飲み干すと、フィリップは、
「いや、リオがいなかったら、今ごろ僕は生きていない。その、誰かの差し金というのは聞かなかったことにするから、君は僕の恩人として長生きしてくれ……」
と力なく言った。
「良かった。先輩がそう言ってくれて助かります。実は、僕の中ではミリーナ様って人が、まだ信用しきれていないんです。だから、あの人のことをもう少し追うつもりです」
リオがそう言うと、フィリップは無言で頷いた。
「この黒い宝石、もらっても良いですか? 使い方が分かったから、ちょっと借りたいんですけど」
リオは昨日の兵士が持っていた呪術の掛けられた黒い宝石を出すと、フィリップは、
「ああ、そんなものが近くにあったら熟睡できなくなりそうだ。リオが使いたいなら自由にしたらいい」
と何の疑問も持たずに言った。
「先輩ってほんと、理解のある人だなあ」
リオはそう言って黒い宝石を服の内ポケットにしまった。
(ほんと、危機感が無くて笑えるよ)
リオは結果的に命を救うことになってしまったアウグス一家とフィリップに、今後どんな働きをしてもらおうかと考えを巡らせる。
それにしても、この程度の外国人兵を撃退する術を持たないとは、ルリアーナという国にはつくづく失望したなとリオは残念に思っていた。
最初は恐怖の目でリオを見ていたフィリップも、外で起きている外国人の襲撃が他人事ではないと分かり始める。次第にリオに自分たちの運命を委ねるしかないことに気付き、その圧倒的な能力にひれ伏すことになった。
リオが担ぐように着ていた真っ白な法衣は何人かの血で黒く染まり、家の近くや入口の中にはレジスタンスを狙ってやってきた外国人兵の死体の数々が転がっている。残念ながら、市民も数名犠牲になっていた。
何故、リオがここまでの力を持っているのか、そして、正確に短剣を投げて次々に敵を撃退してしまったのか、初めは気になったことがとても些細なことに思われた。イリアは、リオが収穫祭に神が寄越した救世主に違いないと考えを改め、夜を徹して戦い続けるリオにホットミルクやホットココアを差し入れて、血で汚れた身体を拭くためのタオルを何度も運んだ。
「先輩は……あの女……ミリーナ様の術を受けて何ともないんですか?」
リオは大方の兵は片付いたのだろうかと思いながら、イリアの差し入れてくれたタオルで顔を拭きながら、近くにいるフィリップに質問した。
「ミリーナ様の術か……実は記憶にないから、何の術を掛けられているかちゃんとは分からないけど、あの礼拝堂で全員に掛けたものであれば、暗示の類だろうな」
フィリップは自分の命を何度も救ってくれたことになるリオが、ミリーナの術からひとり逃れていたのだという事を知った。
「そうなんですね。てっきり、もっと邪悪なものなのかと思ってました。皆さんの様子が怪しかったから……」
リオは朝になって少し疲れが見え始めていたが、頭はハッキリと動いているようだ。
「いや、今迄こんな風に、人が殺されるようなことは起きなかったんだよ。平和に慣れ過ぎていたんだね。信教(レジスタンス)が狙われたんだから、正教会の誰かの差し金なんだろうか……王族がこんなことまでするとしたら、恐ろしいな……」
フィリップは肩を落としていた。折角の収穫祭が、神聖な祭りから凄惨な祭りになってしまったこと、自分は聖職者の端くれとして、何もできなかったことがこたえている。
「先輩にだけは教えてあげますけど、僕、とある方の差し金でここにいるんです。ここまで殺人事件が起こるとは思わなかったけど、怪しいと確信があったから修道士に紛れたんですよ。結果的に、罪もない人の命が守れた気がします」
リオがそう言ってホットココアを飲み干すと、フィリップは、
「いや、リオがいなかったら、今ごろ僕は生きていない。その、誰かの差し金というのは聞かなかったことにするから、君は僕の恩人として長生きしてくれ……」
と力なく言った。
「良かった。先輩がそう言ってくれて助かります。実は、僕の中ではミリーナ様って人が、まだ信用しきれていないんです。だから、あの人のことをもう少し追うつもりです」
リオがそう言うと、フィリップは無言で頷いた。
「この黒い宝石、もらっても良いですか? 使い方が分かったから、ちょっと借りたいんですけど」
リオは昨日の兵士が持っていた呪術の掛けられた黒い宝石を出すと、フィリップは、
「ああ、そんなものが近くにあったら熟睡できなくなりそうだ。リオが使いたいなら自由にしたらいい」
と何の疑問も持たずに言った。
「先輩ってほんと、理解のある人だなあ」
リオはそう言って黒い宝石を服の内ポケットにしまった。
(ほんと、危機感が無くて笑えるよ)
リオは結果的に命を救うことになってしまったアウグス一家とフィリップに、今後どんな働きをしてもらおうかと考えを巡らせる。
それにしても、この程度の外国人兵を撃退する術を持たないとは、ルリアーナという国にはつくづく失望したなとリオは残念に思っていた。
0
お気に入りに追加
92
あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
あなたが残した世界で
天海月
恋愛
「ロザリア様、あなたは俺が生涯をかけてお守りすると誓いましょう」王女であるロザリアに、そう約束した初恋の騎士アーロンは、ある事件の後、彼女との誓いを破り突然その姿を消してしまう。
八年後、生贄に選ばれてしまったロザリアは、最期に彼に一目会いたいとアーロンを探し、彼と再会を果たすが・・・。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる