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the 21st day 行動開始
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礼拝堂に、女性の声が響いた。
いつもの祈りが、異様な緊張感に包まれている。黒いフードとマントに包まれて姿は見えないが、その女性の唱える祈りは何か特別な力を持っているようだった。
「神々の祝福と怒り、その声をもって――」
レオナルドは、それが以前自分に接触をしてきた小柄の女性であることが分かる。先日会った修道女の特徴を基に修道院で聞き込みをしてみると、呪術師として一番の実力を持つ『ミリーナ・トゥルノン』ではないかと言われたのだった。
(何をしているんだ……)
修道院の礼拝堂がざわついている。ただ、彼女が居る場所を中心に、徐々にそのざわつきが収まっていくのをレオナルドは気配で察する。
(これは……声を聴かない方が良いのかな)
レオナルドはフードの中で耳を塞いで周囲の様子をうかがっていた。徐々に礼拝堂に静寂が戻り、辺りはまた静けさに包まれた。レオナルドは耳を塞いでいた手を外して耳を澄ませる。
暗い礼拝堂には、静かな水の音だけが響いていた。レオナルドは、なぜ礼拝堂がわざわざ湧き水の沸く井戸を中心に配しているのか、改めて不思議に思う。
「時は来ました。私たちは、今こそ既存の不都合な仕組みを壊して、新しい時代に向かいます」
女性の声に、ざわつく者はもういない。
「明日から、私たちは収穫祭に回ります。それぞれ、持ち場での活躍を期待していますよ」
礼拝堂の修道士が、一斉に頭を下げた。
(異様だな……)
機械的な動作で一糸乱れない修道士たちに、レオナルドは何かの力が働いていることを悟る。これまで潜入してきたこの修道院は、自由で堅苦しさとは無縁で、一斉に同じ動作を求めるような規律は存在していなかった。
(あの女が、呪術師か)
レオナルドは、少し前に接触してきた女性がレジスタンスの呪術師で、恐らく『ミリーナ・トゥルノン』なのだろうと理解する。明日から収穫祭で修道士が各地を回る際に、何かが起きるように催眠をかけたようだった。
(僕は、まだ新米だから先輩について回るはずだったな)
いよいよ、何かが動き出している。この宗教がポテンシア王国を脅かすような力を持っているのかは全く分からなかったが、一瞬でその場にいる者を操る力を持っているとすれば、あの呪術師は危険な人物だ。
(名簿か何かに、僕の配置が書いてあるかもしれない。地方の何もないところに飛ばされても仕方ないし、なるべく城の近くに行きたいな……改ざんするか……)
レオナルドは修道院のリストをいじり、明日からの収穫祭にはルリアーナの中心地に向かうグループに紛れようと決めた。
例の女性は、ゆっくりと礼拝堂から立ち去っていく。レオナルドは後を付けようか迷っていると、後ろから殺気を感じ素早く横に避ける。
そこには、修道院で自分をよく世話してくれた修道士が立っていた。フードで顔はハッキリ見えないが、レオナルドにはその人物がよく分かる。周りの修道士はまるで他のことが視界に入っていないようで、それぞれ礼拝堂を出て行くだけだった。
「操られているんですか、それとも、最初から僕を始末するつもりだったんですか」
レオナルドは自分の首を絞めようとした男にハッキリと尋ねた。答えはない。
(まあ、どちらでも、構わないけどね)
レオナルドは懐にしまっていた短剣を出し、柄の部分を男の頭にぶつけると怯んだ隙に腹部に膝を入れた。
(殺さないでおいてあげよう、今は、ね)
レオナルドは、うずくまる修道士を背に、女性が消えた方に急いで走った。
いつもの祈りが、異様な緊張感に包まれている。黒いフードとマントに包まれて姿は見えないが、その女性の唱える祈りは何か特別な力を持っているようだった。
「神々の祝福と怒り、その声をもって――」
レオナルドは、それが以前自分に接触をしてきた小柄の女性であることが分かる。先日会った修道女の特徴を基に修道院で聞き込みをしてみると、呪術師として一番の実力を持つ『ミリーナ・トゥルノン』ではないかと言われたのだった。
(何をしているんだ……)
修道院の礼拝堂がざわついている。ただ、彼女が居る場所を中心に、徐々にそのざわつきが収まっていくのをレオナルドは気配で察する。
(これは……声を聴かない方が良いのかな)
レオナルドはフードの中で耳を塞いで周囲の様子をうかがっていた。徐々に礼拝堂に静寂が戻り、辺りはまた静けさに包まれた。レオナルドは耳を塞いでいた手を外して耳を澄ませる。
暗い礼拝堂には、静かな水の音だけが響いていた。レオナルドは、なぜ礼拝堂がわざわざ湧き水の沸く井戸を中心に配しているのか、改めて不思議に思う。
「時は来ました。私たちは、今こそ既存の不都合な仕組みを壊して、新しい時代に向かいます」
女性の声に、ざわつく者はもういない。
「明日から、私たちは収穫祭に回ります。それぞれ、持ち場での活躍を期待していますよ」
礼拝堂の修道士が、一斉に頭を下げた。
(異様だな……)
機械的な動作で一糸乱れない修道士たちに、レオナルドは何かの力が働いていることを悟る。これまで潜入してきたこの修道院は、自由で堅苦しさとは無縁で、一斉に同じ動作を求めるような規律は存在していなかった。
(あの女が、呪術師か)
レオナルドは、少し前に接触してきた女性がレジスタンスの呪術師で、恐らく『ミリーナ・トゥルノン』なのだろうと理解する。明日から収穫祭で修道士が各地を回る際に、何かが起きるように催眠をかけたようだった。
(僕は、まだ新米だから先輩について回るはずだったな)
いよいよ、何かが動き出している。この宗教がポテンシア王国を脅かすような力を持っているのかは全く分からなかったが、一瞬でその場にいる者を操る力を持っているとすれば、あの呪術師は危険な人物だ。
(名簿か何かに、僕の配置が書いてあるかもしれない。地方の何もないところに飛ばされても仕方ないし、なるべく城の近くに行きたいな……改ざんするか……)
レオナルドは修道院のリストをいじり、明日からの収穫祭にはルリアーナの中心地に向かうグループに紛れようと決めた。
例の女性は、ゆっくりと礼拝堂から立ち去っていく。レオナルドは後を付けようか迷っていると、後ろから殺気を感じ素早く横に避ける。
そこには、修道院で自分をよく世話してくれた修道士が立っていた。フードで顔はハッキリ見えないが、レオナルドにはその人物がよく分かる。周りの修道士はまるで他のことが視界に入っていないようで、それぞれ礼拝堂を出て行くだけだった。
「操られているんですか、それとも、最初から僕を始末するつもりだったんですか」
レオナルドは自分の首を絞めようとした男にハッキリと尋ねた。答えはない。
(まあ、どちらでも、構わないけどね)
レオナルドは懐にしまっていた短剣を出し、柄の部分を男の頭にぶつけると怯んだ隙に腹部に膝を入れた。
(殺さないでおいてあげよう、今は、ね)
レオナルドは、うずくまる修道士を背に、女性が消えた方に急いで走った。
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