アメイジング・ナイト ―王女と騎士の35日―

碧井夢夏

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the 21st day 王子様の計画

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 帰り道の馬車の中で、ルイスはその日のレナの様子を振り返っていた。レナから婚約の意志をハッキリと聞けたため、本来ならば浮かれているはずの帰路だった。
 気になることが多すぎて、宿に着き次第ブラッドを呼びつけて色々尋ねなければ気が収まりそうにない。レオナルドは未だに修道院に潜伏中だが、ブラッドはどこまでレナのことを把握しているのか気になった。

(宗教戦争と、呪術の繁栄した国か……)

 ルイスはルリアーナで起こっていることも、今一度整理したい。レナの姿は相変わらず麗しかったが、今日に関して言えば意識がどこか遠くに行った抜け殻のようだった。

「ブラッド、少し良いか?」
 ルイスは宿に着くと自分の部屋にブラッドを呼んだ。ブラッドは久しぶりにルイスとゆっくり話せるのだと嬉しくなり、明るく返事をして向かう。

「単刀直入に聞こう。殿下の様子がおかしかったのは、何が原因だ?」
 ルイスにハッキリ聞かれてブラッドは少し考え込んだので、ルイスはまさかそんな変化にも気づいていないのかとブラッドをレナの傍に置いたのは人選を誤った気がしていた。

「私がルリアーナに来て、最初の印象は……レナ様は外から見た印象と全く違うお方なのだということでした。とにかく仕事漬けの毎日を送られていて、今朝の早朝も呪術師への対策のために呪術を学んでいたはずです」
 ブラッドの言葉に、ルイスは興味深げに頷いた。

「どうやら、あの方は国内の呪術師に狙われているようなのですが、ご自身も呪術師としての才能がおありだとかで、対抗するつもりのようでしたよ」

 ルイスは、ブラッドがレナに気を使ってフォローをしているのだろうかと思ったが、呪術師として修行をしていたことは意外だったので、そんなことがあったのかと冷静に聞いていた。

「あの黒髪の護衛は、レナ様とはどういう関係だ? 彼女の方からあの男を指名して護衛として雇った経緯があるらしいが」
 ルイスが尋ねると、ブラッドが、
「ああ、ハウザー殿と王女の間には、主従関係以上のものはありませんでしたね。ですが、仕事のパートナーとしての相性は良さそうです」
 と言ったので、ルイスは何故昼間にカイがレナを庇ったのか分からなかった。

「そうか、てっきりあの男のことが好きなのかと思ったが」
「ハウザー殿と恋仲だという話は、ありませんでしたね」

 ルイスは、レナが自分のことを好きでなかったとしても構わないと思っていた。もし他に好きな男がいるようなら、愛人として正式に認めることも考えるつもりだった。
 今日のあの態度が、自分の未来に対する絶望から来ていたのだとすると、これから先もルイスはあの姿を見続けなければならないのだろうか。


 ルイスは久しぶりにブランデーをグラスに注ぐ。昼間に飲んだレモネードの香りに比べ、強いアルコールの香りが鼻につく。一気に口に含んで飲み干すと、ルイスは身体の芯にアルコールが火をつけるようになったのを確かめ、天井を仰いだ。

(考えろ……。彼女の幸せを壊さずに、私たちが共に歩める未来を……)
 ルイスは以前に見た、すぐに恥ずかしがって赤くなるレナを思い出しながら、今日はあの顔が見られなかったなと寂しく目を瞑った。このまま、彼女の心が壊れていくのを黙って見ているつもりなどなかったが、解決策がなかなか思い浮かばない。

 ルイスはもう1杯ブランデーを飲み干すと、そのまま祈るようにレナを想う。彼女を母のようにはしたくないとルイスはこれから先のレナを案じていた。
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