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the 20th night 諦めたくない
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その日の夜、レナはカイを呼び出していた。カイは相変わらず夜に王女と話す羽目になっていることが理解できない。スウに早朝から呼び出されるかもしれないのに、レナはどうしてこうも毎夜のように話したがるのだろうか。
「明日、ルイス様が来るのよね……」
レナが何気なく言った。この日も、カイとレナはお互いの自室の間にある中間の部屋にいる。レナはいつものソファに身体を預けており、カイはその近くに立っていた。
「ああ、今回、どの位の人数で来るんだろうな」
カイは何の感動もなく答えた。ルイスが来ること自体は2週間前から決まっていたことだ。
「私、ルイス様との婚約については納得してるんだけど……どうしても諦めたくないことがあって」
レナが話し始めたことに、カイは何か聞きたくないことを告白されるのだろうかと少し構えた。
「王女としてじゃなく、ひとりの人間として、向き合われたいの。今、あなたに」
レナがポツリと口にした言葉に、カイは言葉の真意を汲み切れずにいた。王女としてではないというのは、どういう意味なのかを考えてみる。
「どうしたって、殿下は王女としての立場を求められるだろう?」
カイが当たり前のように尋ねると、
「だからなのよ」
とレナは寂しそうに言った。
「私の性格や、私の気持ちは、レナ・ルリアーナという個人の物よ。カイは、それでも王女としての私としか、向き合ってくれないの?」
レナに真剣に言われると、カイはそれがそんなに重要なことなのだろうかと不思議だった。
「王女としての殿下も、個人としてのその性格も、別に切り離して考えたことは無いぞ」
カイが当たり前のように言うと、レナは不思議そうにカイを見た。
「それって、どういうこと?」
「いや、レナ・ルリアーナという個人が、王女だというだけではないのか」
カイの見解は、レナにとって意外なものだった。
自分の周りにいる誰もが、『王女としてのレナ』にしか向き合ってくれていないはずが、カイはもともとレナ個人と向き合っているかの言い方をしている。
「じゃあ、あなたから見て、私ってどういう人間?」
レナは自分の鼓動が早くなるのを、必死に意識しないように努めた。カイにどう思われているのか、この際ハッキリと聞いておきたかった。
「レナ・ルリアーナという人間は、強いな。当初思っていたよりも、ずっと……芯が強い。気が強いのは、まあ最初から気付いていたが……」
カイがそう言ってレナの方をじっと見た。暗がりの中で立ったままのカイに見つめられると、レナは自分の鼓動がますます早く大きくなった気がする。
「強いなんて、カイに言われると変な感じね……強がりなだけよ」
自分の鼓動の音を誤魔化すようにレナはそう言って笑った。芯が強いと言われたのは、人生で初めてだ。
「自分の弱さを知っていることも、それを認めて強がるのもまた、強さのひとつだ。少なくとも俺は、そう思う」
カイが当然のように言ったので、レナは息をするのを忘れそうになった。
「あなたが強いと思っている私は、自分の運命に絶望しそうよ?」
レナはそう言って力なく笑う。明日、ルイスと正式に婚約をしたら何とか保っている精神が壊れてしまうのではないかと、不安でたまらなかった。
「運命に絶望はつきものだ。俺だって何度も絶望してきたが、しぶとく生きている」
カイがそう言うと、レナはソファから立ちあがってカイの方を見た。
「あなたは絶望の中にいた時、どんなことを考えていたの?」
レナは思いつめたような表情をしている。カイはそれを見てニヤリと笑うと、
「なるべく何も考えていなかったかもしれないな。その時が過ぎれば過去の話だ」
とレナに得意気に言った。
「何も考えないなんて、解決でもなんでもない気がするけれど……。そうね、過ぎれば、過去、ね。でも、これから訪れる絶望は、そんな簡単に過ぎてくれない気がするわ」
レナはそう言うと、カイの近くまで歩いた。
「あなたにとって、私が強いってことは……良い事なのよね?」
確認するように尋ねたレナに、
「当たり前だ」
と、カイは腕を組んで言った。
「じゃあ、弱音を吐いたらダメ?」
「……吐きたくて呼ばれたんじゃないのか?」
カイが少し面倒くさそうに首に手を当てながら答えると、レナは小さく何度も頷いた。
「好きにしろ」
カイは強さの割に繊細な王女が、側近の自分に弱音を吐くのは、ある種仕方のないことだと理解していた。
「国がどうとか、政治のことを考えずに……相手を選びたかった」
王女でなければ叶ったかもしれないその願いは、そのまま夜の闇の中に飲み込まれて行く。カイはレナに何も言うことができなかったが、その日はレナの気が済むまで、ずっと側で弱音を聞いていた。
「明日、ルイス様が来るのよね……」
レナが何気なく言った。この日も、カイとレナはお互いの自室の間にある中間の部屋にいる。レナはいつものソファに身体を預けており、カイはその近くに立っていた。
「ああ、今回、どの位の人数で来るんだろうな」
カイは何の感動もなく答えた。ルイスが来ること自体は2週間前から決まっていたことだ。
「私、ルイス様との婚約については納得してるんだけど……どうしても諦めたくないことがあって」
レナが話し始めたことに、カイは何か聞きたくないことを告白されるのだろうかと少し構えた。
「王女としてじゃなく、ひとりの人間として、向き合われたいの。今、あなたに」
レナがポツリと口にした言葉に、カイは言葉の真意を汲み切れずにいた。王女としてではないというのは、どういう意味なのかを考えてみる。
「どうしたって、殿下は王女としての立場を求められるだろう?」
カイが当たり前のように尋ねると、
「だからなのよ」
とレナは寂しそうに言った。
「私の性格や、私の気持ちは、レナ・ルリアーナという個人の物よ。カイは、それでも王女としての私としか、向き合ってくれないの?」
レナに真剣に言われると、カイはそれがそんなに重要なことなのだろうかと不思議だった。
「王女としての殿下も、個人としてのその性格も、別に切り離して考えたことは無いぞ」
カイが当たり前のように言うと、レナは不思議そうにカイを見た。
「それって、どういうこと?」
「いや、レナ・ルリアーナという個人が、王女だというだけではないのか」
カイの見解は、レナにとって意外なものだった。
自分の周りにいる誰もが、『王女としてのレナ』にしか向き合ってくれていないはずが、カイはもともとレナ個人と向き合っているかの言い方をしている。
「じゃあ、あなたから見て、私ってどういう人間?」
レナは自分の鼓動が早くなるのを、必死に意識しないように努めた。カイにどう思われているのか、この際ハッキリと聞いておきたかった。
「レナ・ルリアーナという人間は、強いな。当初思っていたよりも、ずっと……芯が強い。気が強いのは、まあ最初から気付いていたが……」
カイがそう言ってレナの方をじっと見た。暗がりの中で立ったままのカイに見つめられると、レナは自分の鼓動がますます早く大きくなった気がする。
「強いなんて、カイに言われると変な感じね……強がりなだけよ」
自分の鼓動の音を誤魔化すようにレナはそう言って笑った。芯が強いと言われたのは、人生で初めてだ。
「自分の弱さを知っていることも、それを認めて強がるのもまた、強さのひとつだ。少なくとも俺は、そう思う」
カイが当然のように言ったので、レナは息をするのを忘れそうになった。
「あなたが強いと思っている私は、自分の運命に絶望しそうよ?」
レナはそう言って力なく笑う。明日、ルイスと正式に婚約をしたら何とか保っている精神が壊れてしまうのではないかと、不安でたまらなかった。
「運命に絶望はつきものだ。俺だって何度も絶望してきたが、しぶとく生きている」
カイがそう言うと、レナはソファから立ちあがってカイの方を見た。
「あなたは絶望の中にいた時、どんなことを考えていたの?」
レナは思いつめたような表情をしている。カイはそれを見てニヤリと笑うと、
「なるべく何も考えていなかったかもしれないな。その時が過ぎれば過去の話だ」
とレナに得意気に言った。
「何も考えないなんて、解決でもなんでもない気がするけれど……。そうね、過ぎれば、過去、ね。でも、これから訪れる絶望は、そんな簡単に過ぎてくれない気がするわ」
レナはそう言うと、カイの近くまで歩いた。
「あなたにとって、私が強いってことは……良い事なのよね?」
確認するように尋ねたレナに、
「当たり前だ」
と、カイは腕を組んで言った。
「じゃあ、弱音を吐いたらダメ?」
「……吐きたくて呼ばれたんじゃないのか?」
カイが少し面倒くさそうに首に手を当てながら答えると、レナは小さく何度も頷いた。
「好きにしろ」
カイは強さの割に繊細な王女が、側近の自分に弱音を吐くのは、ある種仕方のないことだと理解していた。
「国がどうとか、政治のことを考えずに……相手を選びたかった」
王女でなければ叶ったかもしれないその願いは、そのまま夜の闇の中に飲み込まれて行く。カイはレナに何も言うことができなかったが、その日はレナの気が済むまで、ずっと側で弱音を聞いていた。
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