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the 20th day 果てない野望
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ルリアーナ城の地下牢で、メイソンは時が来るのを静かに待っていた。
(もうすぐ……もうすぐ願いは果たされる……)
身柄を捕らわれてなお、メイソンは自分の計画の成功を確信していた。ポテンシアの第4王子によって自分の身体はすっかり不完全になってしまったが、あと数日の辛抱だと思えば地下牢の中でも苦痛から解放された気分になる。
(あんなポテンシアの小僧になど、くれてやるつもりはない)
メイソンの裁判は着々と進み、このままでは終身刑になりかねない状況だったが、死刑制度のないルリアーナの司法で裁かれることなど何の恐怖もなかった。
(生きてさえいられれば、何度でも挑戦できる)
ポテンシア兵に捕まった日から、一番憎い敵はポテンシアになった。本来であれば異端のレジスタンスを叩き、国を操ることに目標を置いていたのが、レジスタンスなど市民の塊でしかないと考えを改めるに至った。
(レジスタンスは呪術を使ってなにかこざかしいことを考えているんだろうが、寄せ集めの集団に負ける気はしない。だが、相手がポテンシア兵となると少々骨が折れる)
メイソンは、牢の中からその日も通信を行った。
「聞こえているか? 私だ。恐らく、レジスタンスは明日の収穫祭をきっかけに市民に紛れて呪いをするつもりだろう」
「で、どうすればいい?」
向こう側の声の主に、メイソンは細く笑いながら、
「なあに、大したことは出来ない。レジスタンスを信じる者をどうしてくれても構わないし、修道士や修道女は手段を問わずに始末してもらえると助かる。但し、王女は生きたまま捕らえろよ」
と命令する。
「分かったが、王女は捕らえることにしたのか。当初、その予定はなかった」
向こう側の声が驚いているので、
「仕方ないだろう。レジスタンスが王女を消して王政を否定したいのだろうから、置いておくわけにはいかない」
とメイソンは舌打ちをしながらイライラしていた。
「それに、憎きポテンシア兵は、王女を捕らえればすぐに動くだろうからな」
「おい、どんどん話が膨らんでいるぞ。檻の中にいるくせに、ちゃんと報酬は払えるんだろうな……随分と厄介な仕事になった。対象が多くなればなるほど、こちらの兵は敵が識別できなくなる」
声の主はメイソンに恨み節を言い始めた。
「まあ、この際、無差別でも良いんだがな。王女さえ、殺さずにいてくれれば。ここから出してもらえれば、王女の精神は私が崩壊させてやる」
メイソンはそう言って愉快に笑った。
「それができるなら、なぜ今までやらなかったのだ」
「それは最終手段にしたかったからな。本当は、別の手段で王女を追い詰めて私の物にしたかったんだが、その線は諦める」
メイソンが頭の中で思い浮かべていたのは、最後に会った19歳のレナだ。最初に手をかけようとした時に比べ随分女らしくなったものだと、見合いの時には感心したのだ。
「つくづく悪趣味な男だ」
「誉め言葉だろうな。礼を言う」
メイソンはそう言って、通信を切った。
(あの気に食わないポテンシアの王子も、私を傷付けるのは手だけにしてくれて有難いな。一番支障がないかもしれない)
そう思いながら、メイソンはあの日の痛みと屈辱を思い出す。いよいよ動き出した計画に、身体中から力が漲るのだった。
(もうすぐ……もうすぐ願いは果たされる……)
身柄を捕らわれてなお、メイソンは自分の計画の成功を確信していた。ポテンシアの第4王子によって自分の身体はすっかり不完全になってしまったが、あと数日の辛抱だと思えば地下牢の中でも苦痛から解放された気分になる。
(あんなポテンシアの小僧になど、くれてやるつもりはない)
メイソンの裁判は着々と進み、このままでは終身刑になりかねない状況だったが、死刑制度のないルリアーナの司法で裁かれることなど何の恐怖もなかった。
(生きてさえいられれば、何度でも挑戦できる)
ポテンシア兵に捕まった日から、一番憎い敵はポテンシアになった。本来であれば異端のレジスタンスを叩き、国を操ることに目標を置いていたのが、レジスタンスなど市民の塊でしかないと考えを改めるに至った。
(レジスタンスは呪術を使ってなにかこざかしいことを考えているんだろうが、寄せ集めの集団に負ける気はしない。だが、相手がポテンシア兵となると少々骨が折れる)
メイソンは、牢の中からその日も通信を行った。
「聞こえているか? 私だ。恐らく、レジスタンスは明日の収穫祭をきっかけに市民に紛れて呪いをするつもりだろう」
「で、どうすればいい?」
向こう側の声の主に、メイソンは細く笑いながら、
「なあに、大したことは出来ない。レジスタンスを信じる者をどうしてくれても構わないし、修道士や修道女は手段を問わずに始末してもらえると助かる。但し、王女は生きたまま捕らえろよ」
と命令する。
「分かったが、王女は捕らえることにしたのか。当初、その予定はなかった」
向こう側の声が驚いているので、
「仕方ないだろう。レジスタンスが王女を消して王政を否定したいのだろうから、置いておくわけにはいかない」
とメイソンは舌打ちをしながらイライラしていた。
「それに、憎きポテンシア兵は、王女を捕らえればすぐに動くだろうからな」
「おい、どんどん話が膨らんでいるぞ。檻の中にいるくせに、ちゃんと報酬は払えるんだろうな……随分と厄介な仕事になった。対象が多くなればなるほど、こちらの兵は敵が識別できなくなる」
声の主はメイソンに恨み節を言い始めた。
「まあ、この際、無差別でも良いんだがな。王女さえ、殺さずにいてくれれば。ここから出してもらえれば、王女の精神は私が崩壊させてやる」
メイソンはそう言って愉快に笑った。
「それができるなら、なぜ今までやらなかったのだ」
「それは最終手段にしたかったからな。本当は、別の手段で王女を追い詰めて私の物にしたかったんだが、その線は諦める」
メイソンが頭の中で思い浮かべていたのは、最後に会った19歳のレナだ。最初に手をかけようとした時に比べ随分女らしくなったものだと、見合いの時には感心したのだ。
「つくづく悪趣味な男だ」
「誉め言葉だろうな。礼を言う」
メイソンはそう言って、通信を切った。
(あの気に食わないポテンシアの王子も、私を傷付けるのは手だけにしてくれて有難いな。一番支障がないかもしれない)
そう思いながら、メイソンはあの日の痛みと屈辱を思い出す。いよいよ動き出した計画に、身体中から力が漲るのだった。
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