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the 20th day 食堂にて
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ブラッドが朝食を物色していると、ちょうどそこにサラがやってきた。
「あら、あんた1人?」
使用人の食堂で、2人は一緒に朝食を取ることにする。
「あとの3人は、部屋食にしてますよ」
ブラッドは、そう言って周囲をキョロキョロと見回した。
「誰か探してるの?」
サラに尋ねられ、
「サーヤさんが居たら、今日こそは誘おうかと……」
とブラッドは王女付の侍女を探していた。
「わざわざサーヤさん目当てで、あんただけここに朝食食べに来たってわけ?」
サラはブラッドの情熱に少し呆れていたが、若い男性の関心事などそんなものかという気もしていた。
「いや、サーヤさんだけではなく、できるだけこういった業務時間外のところで話をしたいと思ったまでで……」
ブラッドの言い分に、サラは「ああそう」とだけ返事をして、スープをゆっくりと飲んだ。
「今日は、王女様も一緒に早朝から特訓だったんでしょう? 大丈夫なのかしらね、睡眠時間を削ってしまって……」
サラはレナやカイの身体を心配していた。サラだけが夜勤から外されたのはカイの配慮だと分かっていたが、こういう時に力になれないのはもどかしい。
「そうだな、王女殿下は、どうも睡眠不足のようだった。夜、眠れていないらしい」
ブラッドが何気なく言うと、
「あんたのところの王子様が、もうすぐ来るからかしらね」
とサラは悪気なく言ってパンをちぎった。隣国の王子が訪ねてくるなど、レナにとっては負担になるとしか思えない。
「もし、ルイス様がそこまで王女の負担になっているようなら、私からルイス様に進言しておく。あの方は、王女の迷惑になるようなことをしてまで、お近づきになろうなどとは考えないだろう」
ブラッドも、これまでのやり取りを見ている限り、ルイスのような王子はレナには刺激が強いのかもしれないと、レナを気遣う姿勢を見せていた。
「果たして、ルイス様が来ることが負担になっているのかしらね。王女殿下にとっては、政略結婚自体が負担なんじゃないのかしら」
サラは、ブラッドにはあまり伝えたくなかったことを口にしながら、サーヤの姿を何気なく探した。
「年頃の女性に、政略結婚など良いはずがないのは分かっている。あの王女が恋愛を知らないのが、余計に心配だ」
ブラッドは、過去に王族で不貞を働いた妃や側室の話を思い出していた。
「感情を殺して結婚生活をすると、人というのは渇きを満たすために外にそれを求めるようになるらしい。ポテンシア王家は、歴史でそれをよくわかっておいでだが……」
ブラッドの話に、サラはため息をついた。
「人の感情を抑制することなんて、誰にもできないのよ」
サラは、カイの両親である蒼とホーリーを思い出した。病弱な子爵令嬢と駆け落ちをした東洋人の傭兵隊長も、結局妻の最期を止めようとして命を落としている。
「なんだか意味深な言い方ですね。亡くなった旦那さんのことでも思い出していたんですか?」
ブラッドがサラに尋ねると、
「冗談止めてよ。あの人とあたしにそんなエピソードなんてないわ。思い出していたのはね、団長のご両親のことよ」
と、サラは過去を懐かしんで言った。
「団長のところは、駆け落ちだったからね」
サラの言葉に、
「両親が駆け落ちすると、子どもはあんな風に冷めてしまうものなのか……」
とブラッドが驚いたので、
「いや、そういうことじゃないと思うけど」
とサラは冷静に否定した。
食堂から戻ったブラッドが、カイとシンとロキの姿を見て、
「明日、ルイス様と共にポテンシアに戻るかもしれないから、短ければあと2日間だな。よろしく頼む」
と言ったので、カイは不意を突かれてうまく反応できなかった。
「そうか、期間限定でこちらの欠員に入ってくれていたから、そうなるのか」
カイが驚いていたので、ブラッドは思わず笑った。
「そんなに寂しがってくれるなんて思わなかったな。ルリアーナでの仕事は、楽しかったよ。延長になるかもしれないが……まあ、普通に考えたら、そちらもようやく人員が揃ったようだし、ルイス様の護衛をこれ以上空けるわけにもいかないしな」
ブラッドは前にいるカイの横を通り過ぎる際に、
「大事な王女様を、今後もよろしく頼む」
と視線も向けずにカイに言う。
「ああ、何でブラッドに言われなきゃいけないのか分からないが、まだ契約期間はあるからな」
カイが皮肉も含めて言うと、背を向けた者同士、お互いの表情が確認できないまま口元を緩めた。
「あら、あんた1人?」
使用人の食堂で、2人は一緒に朝食を取ることにする。
「あとの3人は、部屋食にしてますよ」
ブラッドは、そう言って周囲をキョロキョロと見回した。
「誰か探してるの?」
サラに尋ねられ、
「サーヤさんが居たら、今日こそは誘おうかと……」
とブラッドは王女付の侍女を探していた。
「わざわざサーヤさん目当てで、あんただけここに朝食食べに来たってわけ?」
サラはブラッドの情熱に少し呆れていたが、若い男性の関心事などそんなものかという気もしていた。
「いや、サーヤさんだけではなく、できるだけこういった業務時間外のところで話をしたいと思ったまでで……」
ブラッドの言い分に、サラは「ああそう」とだけ返事をして、スープをゆっくりと飲んだ。
「今日は、王女様も一緒に早朝から特訓だったんでしょう? 大丈夫なのかしらね、睡眠時間を削ってしまって……」
サラはレナやカイの身体を心配していた。サラだけが夜勤から外されたのはカイの配慮だと分かっていたが、こういう時に力になれないのはもどかしい。
「そうだな、王女殿下は、どうも睡眠不足のようだった。夜、眠れていないらしい」
ブラッドが何気なく言うと、
「あんたのところの王子様が、もうすぐ来るからかしらね」
とサラは悪気なく言ってパンをちぎった。隣国の王子が訪ねてくるなど、レナにとっては負担になるとしか思えない。
「もし、ルイス様がそこまで王女の負担になっているようなら、私からルイス様に進言しておく。あの方は、王女の迷惑になるようなことをしてまで、お近づきになろうなどとは考えないだろう」
ブラッドも、これまでのやり取りを見ている限り、ルイスのような王子はレナには刺激が強いのかもしれないと、レナを気遣う姿勢を見せていた。
「果たして、ルイス様が来ることが負担になっているのかしらね。王女殿下にとっては、政略結婚自体が負担なんじゃないのかしら」
サラは、ブラッドにはあまり伝えたくなかったことを口にしながら、サーヤの姿を何気なく探した。
「年頃の女性に、政略結婚など良いはずがないのは分かっている。あの王女が恋愛を知らないのが、余計に心配だ」
ブラッドは、過去に王族で不貞を働いた妃や側室の話を思い出していた。
「感情を殺して結婚生活をすると、人というのは渇きを満たすために外にそれを求めるようになるらしい。ポテンシア王家は、歴史でそれをよくわかっておいでだが……」
ブラッドの話に、サラはため息をついた。
「人の感情を抑制することなんて、誰にもできないのよ」
サラは、カイの両親である蒼とホーリーを思い出した。病弱な子爵令嬢と駆け落ちをした東洋人の傭兵隊長も、結局妻の最期を止めようとして命を落としている。
「なんだか意味深な言い方ですね。亡くなった旦那さんのことでも思い出していたんですか?」
ブラッドがサラに尋ねると、
「冗談止めてよ。あの人とあたしにそんなエピソードなんてないわ。思い出していたのはね、団長のご両親のことよ」
と、サラは過去を懐かしんで言った。
「団長のところは、駆け落ちだったからね」
サラの言葉に、
「両親が駆け落ちすると、子どもはあんな風に冷めてしまうものなのか……」
とブラッドが驚いたので、
「いや、そういうことじゃないと思うけど」
とサラは冷静に否定した。
食堂から戻ったブラッドが、カイとシンとロキの姿を見て、
「明日、ルイス様と共にポテンシアに戻るかもしれないから、短ければあと2日間だな。よろしく頼む」
と言ったので、カイは不意を突かれてうまく反応できなかった。
「そうか、期間限定でこちらの欠員に入ってくれていたから、そうなるのか」
カイが驚いていたので、ブラッドは思わず笑った。
「そんなに寂しがってくれるなんて思わなかったな。ルリアーナでの仕事は、楽しかったよ。延長になるかもしれないが……まあ、普通に考えたら、そちらもようやく人員が揃ったようだし、ルイス様の護衛をこれ以上空けるわけにもいかないしな」
ブラッドは前にいるカイの横を通り過ぎる際に、
「大事な王女様を、今後もよろしく頼む」
と視線も向けずにカイに言う。
「ああ、何でブラッドに言われなきゃいけないのか分からないが、まだ契約期間はあるからな」
カイが皮肉も含めて言うと、背を向けた者同士、お互いの表情が確認できないまま口元を緩めた。
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