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the 20th day 王女の才能

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 まだ陽の登らない暗い時間、レナの部屋の隣にはシンが護衛に入っていた。辺りは真っ暗だというのに、修行の時間だとカイがシンに声を掛けた。早朝に行われることは聞いていたが、あまりにも早いことに心配をしながら、シンは隣の部屋のレナにもその旨を伝える。
 自室ではカイを始めブラッドとロキも軽装に着替え、少し眠そうな顔のまま準備を終えていた。

「王女を、こんな早朝から連れ出すなんてどうかしてますよ……」
 ロキがそう言うと、カイも、
「いや、俺がそう思っていないとでも?」
 と複雑な顔で支度を終えた。4人はレナの部屋の扉の前に待機し、レナの声が掛かるのを待っていた。

「本当に、朝が早いのね」
 レナの声が中からすると、
「先に、城門へ行ってスウを呼んできます」
 とカイは声を掛けて一人でスウの元に向かった。シンとロキも慌てて続こうとしたのを、ブラッドが制する。
 暫くしてレナが扉を開けて部屋からそっと出てきた。邪魔にならないように髪をポニーテールにまとめ、綿のひざ下丈の簡素なドレスを着てヒールの無い靴を履いている。
 ブラッドは普段よりも足の露出しているレナの格好に少し驚いたが、3人をスウのところまでゆっくり誘導した。

 辺りはまだ暗く、城門近くの場所にスウとカイが立っているところを見つけると、
「お連れしましたよ、王女殿下と……こちらがハウザー殿の部下です」
 とブラッドはスウに3人を紹介した。

「王女殿下は、恐らくご自分の呪術師としての才能にお気づきの頃かと思いますが……」
 スウはそう言ってレナを見ると、後ろに控えていたシンとロキを眺め、
「劉淵の部下も、また面白そうな人材だ」
 と楽しそうに言ったので、カイは部下もブラッドのように弄ばれるのだなと何となく理解した。

 その日の修行は、主にレナに向かって行われた。そのため、他の全員にレナの呪術が見守られる形になり、レナはプレッシャーの中で呪術を試す羽目になってしまった。

 まずは、姿を消す術について習う。
 レナは、スウに言われたとおりに自分の存在をその場から消すための術式を頭の中で完成させ、念じてみた。少し呼吸を整えると、ふっと自分の身体が軽くなったような感覚があったので、周囲を見渡してみる。

「消えた?」
 シンが驚いたので、レナは術が上手くいったのだと思い、その場を動こうとすると、
「でも、気配が残ったままだな」
 とカイに指摘されてがっくりする。

「あのなあ、普通の人間は気配なんて消せないんだよ」
 ブラッドがカイに向かって言うと、レナは姿を消したまま、
「気配を消すのって、呪術でもコントロール可能なの?」
 とスウに尋ねる。

「教えてやっても良いが、色々と都合が悪いんでな……。明日、王女と劉淵の2名だけでこの場に来るんだ。他の人間にはあまり見せない方が良い」
 スウがそう言ったので、ブラッドは複雑な顔をして、シンは残念そうにうなだれ、ロキは明らかに不満そうな顔をした。

「私が契約しているのは劉淵1名だけだ。そして、今回は劉淵を雇っている王女に特別に指導をしてやろうとしている。文句あるか?」
 スウが言うと、3人はしぶしぶ了承したようにしていた。


「それにしても、王女殿下は簡単に姿を消せるようになりましたね」
 自室に戻る途中でブラッドがしみじみと言うと、
「意外に、誰にでもできる術なのかもしれないわよ」
 とレナが明るく言ったので、
「いやいや、そんな簡単に人が消えたら大問題ですよ」
 とロキが思わず突っ込んでいる。

「明日、ルイス王子が来る日ですけど……早朝から大変ですね」
 ブラッドがレナの身体を気遣うと、
「今朝早かった分だけ、早く眠れるようになれば何も変わらないかもしれないわ」
 と、レナが何でもないように笑ってみせたので、ブラッドはルイスの訪問がレナにそこまで負担ではないのかもしれない、と少し安心していた。
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