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the 19th night 進捗は
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カイは、相変わらず寝つきが悪いと言って部屋から出てくる王女と、その日の夜も話す羽目になっている。
「これからは呪術と宗教問題に向き合って……まあ、やることは多いな」
カイが呟くと、レナは表情を曇らせてカイを見た。
「前進しているはずなのに、釈然としないわね」
カイは、ルイスとの婚約を決めたレナの選択は決して間違ってはいないように見ていたが、感情面で納得をしているとはいえない様子に、どう声を掛けて良いのか分からなかった。
「カイは、呪術修行の進捗はどうなの?」
レナがスウと共に毎日修行をしているというカイの様子を気にして尋ねた。明日はレナも合流することになっている。
「スウに気功術の本質を教わっているというのが、不思議な気分だ。本当は父親に教わっていればもっと自在に力を使えていたのかもしれないが、どうも術のことを大して理解せずに使っていたことが分かった」
カイは、最初にスウが城に来た日から、随分と「気」を操る技術が上がった実感がある。それを聞いたレナは、カイの亡くなった父親の話を思い出していた。
「カイのお父様……その術でお母様を救おうとして、亡くなってしまったんだったわね。そう考えると、あなたのことが心配だわ」
以前、カイと城下町に行った日に、レナはカイの両親の話とカイの気功の話を聞いたのだった。それから日数が経過したが、まだカイの能力を実際に見たことが無いのだと改めて気付く。
「そうだな。どんなものでも力に溺れるというのは怖い事なのかもしれない。毎日スウと向き合って思う」
カイがポツリとこぼした言葉に、レナは頷いた。
「私もね……呪術師の素質があると言われて……どう考えて良いのか複雑だったの。誰かのためになるのであれば、私の力は生かした方がいいのかもしれないけど、そんな単純な話でもないんでしょうね」
レナは、宗教や先祖が使って来た呪術のことが頭に過った。
「あなたは、その術を使っている時、辛くなったりしないの?」
レナがカイをまっすぐ見つめて尋ねた。
「辛い……か」
カイはレナに聞かれるまで、術を使うことについて辛いとかそうでないかなど、考えたこともなかった。父親から譲り受けた能力は、自分が継ぎ、使うことが当たり前だとごく自然に受け入れていたのだ。
「あまり、そういった気持ちになったことはないな」
カイがハッキリと言い切ったので、
「そう、良かった」
とレナは嬉しそうに笑っている。
「良かった、とはどういう意味だ?」
カイが不思議に思ってレナに尋ねる。
「そのままの意味よ。あなたが無理をしていたら、嫌だもの」
レナが当たり前のように言うと、
「王女殿下も言うようになったな」
とカイはため息をつく。
レナは言葉に詰まっていたカイの顔を覗き込んだ。暗い部屋で立ったまま話していたカイのすぐそばのテーブルで、レナは見上げるようにカイを見つめる。
「……ありがとう」
殆ど声にならない声でカイは呟くように言った。
「いいのよ。たまには、主人らしいこともしたくなったの」
レナがそう言って微笑む。カイは「そうか」と小さな声で返事をした。
「これからは呪術と宗教問題に向き合って……まあ、やることは多いな」
カイが呟くと、レナは表情を曇らせてカイを見た。
「前進しているはずなのに、釈然としないわね」
カイは、ルイスとの婚約を決めたレナの選択は決して間違ってはいないように見ていたが、感情面で納得をしているとはいえない様子に、どう声を掛けて良いのか分からなかった。
「カイは、呪術修行の進捗はどうなの?」
レナがスウと共に毎日修行をしているというカイの様子を気にして尋ねた。明日はレナも合流することになっている。
「スウに気功術の本質を教わっているというのが、不思議な気分だ。本当は父親に教わっていればもっと自在に力を使えていたのかもしれないが、どうも術のことを大して理解せずに使っていたことが分かった」
カイは、最初にスウが城に来た日から、随分と「気」を操る技術が上がった実感がある。それを聞いたレナは、カイの亡くなった父親の話を思い出していた。
「カイのお父様……その術でお母様を救おうとして、亡くなってしまったんだったわね。そう考えると、あなたのことが心配だわ」
以前、カイと城下町に行った日に、レナはカイの両親の話とカイの気功の話を聞いたのだった。それから日数が経過したが、まだカイの能力を実際に見たことが無いのだと改めて気付く。
「そうだな。どんなものでも力に溺れるというのは怖い事なのかもしれない。毎日スウと向き合って思う」
カイがポツリとこぼした言葉に、レナは頷いた。
「私もね……呪術師の素質があると言われて……どう考えて良いのか複雑だったの。誰かのためになるのであれば、私の力は生かした方がいいのかもしれないけど、そんな単純な話でもないんでしょうね」
レナは、宗教や先祖が使って来た呪術のことが頭に過った。
「あなたは、その術を使っている時、辛くなったりしないの?」
レナがカイをまっすぐ見つめて尋ねた。
「辛い……か」
カイはレナに聞かれるまで、術を使うことについて辛いとかそうでないかなど、考えたこともなかった。父親から譲り受けた能力は、自分が継ぎ、使うことが当たり前だとごく自然に受け入れていたのだ。
「あまり、そういった気持ちになったことはないな」
カイがハッキリと言い切ったので、
「そう、良かった」
とレナは嬉しそうに笑っている。
「良かった、とはどういう意味だ?」
カイが不思議に思ってレナに尋ねる。
「そのままの意味よ。あなたが無理をしていたら、嫌だもの」
レナが当たり前のように言うと、
「王女殿下も言うようになったな」
とカイはため息をつく。
レナは言葉に詰まっていたカイの顔を覗き込んだ。暗い部屋で立ったまま話していたカイのすぐそばのテーブルで、レナは見上げるようにカイを見つめる。
「……ありがとう」
殆ど声にならない声でカイは呟くように言った。
「いいのよ。たまには、主人らしいこともしたくなったの」
レナがそう言って微笑む。カイは「そうか」と小さな声で返事をした。
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