アメイジング・ナイト ―王女と騎士の35日―

碧井夢夏

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the 19th day 新しいチーム

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 レナにひと通りの報告を終えて自室に戻った3人を、ブラッドが少し面白くなさそうに迎え入れた。
「よお、長かったな」
 ブラッドは読んでいた本を閉じてベッドの脇に置くと、少し顔の赤いロキが気になった。
「で、色男は、何かあったのか?」
 ブラッドに気付かれると思っていなかったロキは、
「別に。何もない」
 と誤魔化すように否定したが、報告の最後にレナに無事を喜ばれた上に少し泣かれたことが嬉しくて、ロキはその余韻から抜けられずにいたのだった。

「おおかた、殿下の言葉と態度に感動しているか何かだ。放っておいてやれ」
 カイがブラッドにそう告げると、ブラッドはロキを見て、
「はーん……。あんな色男でも、ああいう王女には弱いのか」
 と嬉しそうに言ったので、
「違う。何でもない」
 とロキは否定して逃げるように洗面所へ入っていった。

「怪しいな……」
 ブラッドがロキの態度にニヤニヤしていたので、シンは堪らず、
「ロキは、王族や貴族に虐げられて来た経験が長いから、ああいう優しい権力者に耐性がないんだよ。俺の相棒をあんまりからかわないでやってくれるか」
 とロキを庇った。

「分かったよ。それにしても、あいつは随分とプライドの高い平民様だな」
 ブラッドがそう言ってからかったので、
「貴族様には分からないだろうよ」
 と、シンは珍しく口調を荒げ、ブラッドの正面に立ちはだかる。

「やめろ、シン。お前らしくもない。その貴族様には俺も含まれるのか?」
 とカイが2人の間に割って入った。シンが他人と揉めることは滅多にないため、カイはブラッドとシンは相性が悪いのだろうかと少し心配になっていた。

「平民だとか貴族だとか、そういうことに興味など持ったことはないが……いちいちそんなことで突っかかられるのか」
 ブラッドは面倒くさそうに言うと、ベッドの上に腰かけてカイとシンを見た。
「で、お前らは国内を回って何を掴んできたんだ? 外国人の俺に言えることは何もないっていうのか」
 カイは、ようやくブラッドの苛立ちを理解した。

「ああ……そうか。別に秘密主義なわけでも、隠していたわけでもない」
 これからチームで動くというのに、ここでわだかまりを残して進めるのは得策ではない。カイはシンとロキの報告をブラッドにも共有しようと決めた。その時、洗面から顔を洗って出てきたロキがブラッドとカイのやり取りを理解する。

「何が聞きたいんでしたっけ……? 俺たちはずっとここに居るんだし、これから同僚みたいなもんなんだから、別に隠すことなんてないですよ」
 ロキがそう言ってブラッドを見て不敵な笑みを浮かべた。
「色男、察しが良いな。それにしても……お前が男じゃなかったら、別の形で会ってみたかったね」

 ブラッドは女性にも見えそうなロキの顔をまじまじと見て、美しい顔というのは男女関係なく美しいのだなと思った。近くで見てきたルイスも美男子で有名な王子だったが、ロキのプラチナブロンドのストレートヘアに意志の強そうな顔は、女性であったら間違いなく絶世の美女だろう姿をしている。男のくせに髪が長く美しい顔をしているので、ついそんなことを考えてしまったとブラッドは我に返った。

「さっきから聞いてれば、その呼び方……色男じゃなくて、ロキウィズって名前があるからさ……ここではロキって呼んでもらえますか。あと、俺が女だったらあんたみたいな男とは、どうにもならない自信があるかな。シンみたいなのがタイプだと思いますけど」
 ロキがブラッドにそう言うと、シンは「またそれかよ」と小さく呟いて相変わらずのロキの調子に笑った。

「さて、どこからブラッドに話そうか……。ロキはここに来るまでに2回ほど、呪術を受けている。1回目は何の影響もなく、2回目は精神面が楽になったということで、今のところ悪い影響は出ていない」
 カイがまず初めに呪術のことを話し始める。
「そして、ブラッドは呪術修行で何度か対呪術の特訓に出たが……精神へ関与する呪術をはねのけたり、呪術による攻撃を回避したりと、随分呪術耐性のある兵士だということは分かっている」
 その言葉に、シンとロキは驚いた。
「呪術耐性が……。そんなこと、あるんですか」
 シンは、ルリアーナという国が呪術によって発展したことを確信していたため、対抗する術がまさか他国の兵士にあると思わず、意外な事実に混乱しかけた。

「へえ……。それじゃあ、ルリアーナは呪術耐性のある兵士に攻められたら、相当まずいんですね。で、ブラッドさんはそれを聞いてどう思うんですか?」
 ロキがそう言って鋭い瞳をブラッドに向けた。
「ルイス様が大切に思っているルリアーナを攻めるなど、仮定の話だとしても聞きたくないね。ポテンシアの王族はルイス様を除いたら性格の悪いのが多いが、あの人は別格だ」
 ブラッドはあくまでもルイスを擁護する。
「そうか、じゃあ、国王やその他の王族のことは信用してないんですね」
 ロキがニッコリ笑って言うと、ブラッドは言葉に詰まっていた。
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