アメイジング・ナイト ―王女と騎士の35日―

碧井夢夏

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the 19th day 魔性

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 午後から夕方にかけ、レナが国内の政治家との会談を何件か行うというので、カイは部下を連れてレナの護衛に入ることになる。シンとロキには久しぶりのレナだった。シンはロキを気にしていつもより緊張していたが、ロキは特に変わった様子もない。

「王女殿下、ハウザー騎士団参りました」
 部屋には、カイが駆け付けるまでの間サラとブラッドがレナの護衛についていたが、政治家との席に隣国の護衛を付けるのもどうかというカイの提案で、ブラッドはあえて外されることになった。
 ブラッドは少し面白くない様子で拗ねたようにしていたが、納得できるところもあったらしく了承して席を外す。

「どうぞ、入って」
 レナの声が部屋の中からしたので、カイは扉を開けて部下と共に中に入る。華やかな3人の騎士たちが揃い、レナの周りにいた侍女たちが目を奪われていた。

「久しぶりね。無事に戻って来てくれてありがとう。この後の護衛が終わったら、少し話せるかしら?」
 レナがシンとロキの姿を見て穏やかにそう言うと、
「それでは、そのようにいたします」
 とカイが部下に代わって答えた。シンは盗み見るように隣のロキを見たが、普段と特別変わった様子はない。


 レナと政治家との会談は、予定を押して白熱した。これからの国内政治について、それぞれに主張がある。メイソンの行った不正を防ぐための改革には賛同が得られず、護衛に入っていた3人は時折感情的になる政治家たちの様子を気にしながら、王女の傍についていた。

「分かっていたけど、簡単じゃないわね」
 時間をきっかけに会談を終えたレナが、自分の肩を軽くたたきながら困ったように言うと、
「先は長いな」
 と、カイもレナの言葉に頷いて長い息を吐いた。

「シンとロキに、国内を回った感想や情報を聞こうと思うのだけれど……このままの流れで話すのは癪だから、部屋に戻ってお茶でもしながらどうかしら?」
 レナがそう言ってシンとロキを誘うと、
「あ……殿下の仰せのままにいたします」
 とシンは恐縮し、
「久しぶりにルリアーナ城に帰ってきた感じがしますね」
 とロキは笑顔で答えた。カイは少しため息をつくと、
「まあ、たまには良いのかもしれないが……」
 とレナをエスコートして応接室を後にした。


 長テーブルにハウザー騎士団の4人が座ると、ハオルが食器を並べ小菓子をそれぞれに配った。小さな焼き菓子や砂糖菓子が全員の元に配られると、花の香りが華やかに香る紅茶が淹れられる。

 カイの正面に座ったレナが、
「どうぞ、お茶もお菓子も自信作よ」
 と笑顔で勧めたので、シンとロキは少し照れながら紅茶に口を付けた。

「紅茶に入っているのは、何の花ですか……?」
 一口飲んで、ロキが尋ねたので、
「これは、東洋の花だと思うわ。紅茶も、東洋産のものよ」
 とレナが答える。ロキは不思議そうに香りを再度嗅ぐと、
「紅茶につけられた柑橘の香りは知っているものですが、ブレンドされた花の香りは初めて嗅ぐものかもしれないです」
 と驚いている。

「あら、詳しいのね」
 レナはロキから初めて紅茶のことを尋ねられて嬉しくなった。この紅茶はレナのために特別にブレンドされたオリジナルのものだ。
「ああ、殿下には伝えておりませんでしたが、ロキは騎士の仕事のほかに、商社の社長をやっています」
 カイがそう言ってロキが紅茶に詳しいことを補足すると、
「はは……」
 とロキは気まずそうに作り笑いを浮かべた。

「そうなの? 専門はあるのかしら? 紅茶にも詳しいの?」
 レナが嬉しそうにロキに尋ねたので、ロキは少し恥ずかしそうにしていた。
「専門というか……売れるものを見つけてきて売れる場所で売るのが、主な仕事ですね」
「それじゃあ、ルリアーナの特産を扱う予定は?」
 無邪気な少女のような顔で嬉しそうに尋ねるレナに、ロキは少し困る。

「要望がありそうなら扱うかもしれません」
 ロキは、どんな契約でも結んでしまうかもしれないと危うい気持ちになった。

「おい、話を元に戻すぞ」
 話が脱線していたのを危惧したカイが口を挟んだので、一旦そこで会話は終わることになる。レナは少し残念そうな顔でカイを見つめ、シンはレナに翻弄されるロキを哀れんだ目でずっと見ていた。
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