アメイジング・ナイト ―王女と騎士の35日―

碧井夢夏

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the 18th night 部下の帰還

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 深夜遅く、カイが部屋で休んでいると誰かが扉をノックした。
「何か?」
 扉に向かって声を掛けると、
「ハウザー様の部下を名乗る方が2名、門にお越しとのことです」
 と扉の外から返事があった。

「ああ、そうか。こんな夜分に対応いただき、恐れ入ります」
 カイはそう言いながら部屋の扉を開ける。そこにいた城の使用人らしい男性が一礼し、
「こちらでは中にお通しして良いものか分からなかったので、対応をお願いしても宜しいでしょうか?」
 とカイに尋ねた。

 カイは頷いて、
「あとは、私の方で対応します。どうもありがとうございます」
 と軽く礼をすると、扉の前にいた男性も礼をして、自分の持ち場に戻って行ったようだった。カイは部屋に戻って着替えると、城門に急いだ。深夜で静まった城内を、足音をなるべく立てずに走る。外は肌寒く、待たせている2人を案じた。


「団長~!」
 真っ暗な中、城門の向こう側に立つ2人の姿がぼんやり見えたが、向こうからはカイが良く見えるらしい。シンの明るい声がハッキリ聞こえると、カイは久しぶりに聞いた声にホッとした。

 門番の担当者に自分の部下であることを伝えると、2人はこちら側に歩いてくる。徐々に姿が目に入ると2人の足元が泥だらけになっていることに気付き、
「とりあえず、その恰好は何とかしないとならないな。とにかく、無事でよかった」
 と言い、シンとロキをねぎらった。

「山を越えてここまで来たんですけど、想像以上に難所で……小川を渡ったり、ぬかるみにはまったり、無事に戻ってこられたのが不思議なくらいです」
 シンがそう言って泥だらけの姿で言うと、
「山自体は荒らされていないし、景色は綺麗だったんですけどね」
 とロキが付け加えた。

「2人とも、今日は汚れと汗を流してゆっくり休んでいろ。過酷な登山の後ともなれば、普段使わない神経を使っただろう」
 カイが部下の様子を見て言うと、シンとロキは嬉しそうに、
「はい」
 と言って久しぶりの城に入る。カイは、一度は呼び寄せたハンが任務から外れたことを軽く伝えると、2人は「あの人のことだから仕方ないですね」といった反応で特に驚いてもいない様子だった。
 シンは、隣にいるロキがこれから王女の近くで過ごすことを案じながら、それでもルリアーナ城に戻ってこられたことを喜んだ。

「ああーこの部屋! やっぱり広くて良いですね……って、あれ? ベッドが1つ増えてる」
 シンが自室の変化に気付くと、
「ポテンシアの近衛兵に居たブラッドを覚えているか?今、殿下の護衛を一緒にしている」
 とカイは言った。

「ああ、あのなんかモテなさそうな人ですか」
 ロキがブラッドを思い出してそう言うと、
「ロキ、恐らくそれはブラッドには禁句だと思うぞ。本人には言うなよ」
 と、カイが珍しく他人に気を使っている。シンはその様子に少し吹き出しそうになりながら、
「団長、ブラッドさんと仲良くなったんですね」
 と笑った。カイは少し考えてから、
「仲良く……か。あいつのことは、嫌いじゃないかもしれないな」
 としみじみ言った。

「ブラッドさんが来ているのは、その、やっぱり殿下の婚約に関わることなんですか?」
 ロキが尋ねたのを聞いて、シンは少し胸の奥が痛んだ。
(なんで、そんなことをわざわざ……)

「いや、それ以前にこちらの人手不足にルイス殿下が部下を寄越してくれたんだ。ルイス殿下付き、筆頭だぞ。ちなみに、ポテンシア王族の間諜が今、レジスタンスの修道院に潜伏している」
 カイの言葉に、ロキは、
「そうなんですね。護衛の筆頭と間諜が来ているなんてすごいな。ルイス様の本気と誠意ということですか」
 と納得している。
 シンはロキの選んだ道と、その覚悟を知った気がした。
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