アメイジング・ナイト ―王女と騎士の35日―

碧井夢夏

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the 18th day 親愛なる、を封印して

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 レナは、前日にルイスから届いた手紙を読みながら、白紙の便せんを拡げたまま大きなため息をついた。
 ルイスの手紙には、見合いに付いてのお礼と、次に会うことを楽しみにしている、という内容が情熱的に綴られている。

(向き合う覚悟はできたつもりなのに、自分のことだと思えない……)
 一旦手紙を書くことを止めて便箋を端に置くと、頬づえをついた。ふと、部屋の隅でハオルが窓の外を気にしているのが見える。

「ハオル、何かあったの?」
 レナが声を掛けると、ハオルは、
「ここから見ると、庭木の手入れが行き届いていないところがよく見えるんですよ。剪定をしたのは1週間ほど前のことなのに、何故か、数日前から庭木の状態が良くないような気がします」
 と、不審がっている。レナも気になってハオルの横まで行くと、確かに庭木のうちのいくつかは剪定を1週間前に終えたとは思えない荒れぶりだ。

「あら、本当ね」
 レナが納得して頷くと、ハオルは大きくため息をついた。
「もうすぐルイス王子がいらっしゃるというのに。こんな庭木の中を歩いていただくなんて、殿下が気にされなくても私が耐えられません。明日にでも、庭師にしっかりと整えさせましょう」
 ハオルはそう言うと首をかしげながら部屋を出て行った。

「庭木ねえ。確かに、行き届いていないと思われるのは、ハオルにとっては不本意でしょうね」
 レナは庭を眺めながら、何故あんな風にところどころ枝が折れたり葉が落ちた跡があったりするのだろうと不思議になった。
(ここ数日で、何かあったかしら……)
 天気のことを思い出してみるが、特に嵐などはなく、比較的穏やかな天気の日が続いていた。

(スウ……あの人が来てからは日が浅いわね……。そういえば、ブラッドも今日は傷だらけだったようだし、カイに聞けば何か分かるかもしれない)
 レナは庭木を見ながらそう思うと、また席に戻って便箋を広げた。

(あの方に、伝えたいこと……)
 ルイスを思い出しながら、レナはうーんと考え込む。これまで積極的に好意をレナに向けてきたルイスに対し、何を伝えれば自分にとって都合が良いのだろうかと考え、
(なるべく触るのは止めて欲しい……それと、あまり人の反応を見て楽しむのは趣味が良いとは思えません、ってことかしら……)
 と、思い浮かぶと、わざわざそんなことを手紙にするのはどうなのだろうかと悩む。
 レナは思い直して手紙を書き始めた。

『親愛なる ルイス様』
 その文字を書いた途端、親愛なるという言葉にも違和感があった。
(違う、私が伝えたいのは……)

『隣国ポテンシアの第四王子、ルイス様』
 改めてよそよそしい書き出しから始めてみる。
『突然ですが、ルイス様のお屋敷にはどんなお庭がありますか?』
 レナは庭木を眺めながら続けた。

『ルリアーナ城では、庭木の剪定を巡ってバトラーが頭を抱えていました。最近、なぜか庭木の数本が荒れていることがあり、ルイス様が来る前に整えることができるかを気にしています。』
 そこまで書いて、また庭の方をみると、早速ハオルが人を呼んで荒れた木を見ながら何かを話しているようだった。

 レナは、庭木のこと、自分は所詮剪定された木のように見繕われた存在であることなどをしたためた。
 明確な意思や意図を持たせない手紙を書いたのは、人生で初めてだ。ルイスからはどんな返事が返ってくるのだろうか。

 レナには、ルイスがなぜ積極的な態度を取るのか理解ができない。
(ポテンシアの王位が見込めないから、ルリアーナに、というタイプにも見えない方なのよね)

 ルイスの態度や振る舞いを思い出してうーんと唸ったが、気を取り直して引き出しから蝋燭とマッチ、印を押すための蝋を取り出した。火をつけた蝋燭に蝋をかざして封筒に垂らし、封蝋印を施す。

 ルリアーナの国旗を円状にした印は、鷹と山脈が描かれている。
(そういえばルイス様は、鷹を飼っているようだったわね)
 今度会った時には、鷹のことでも聞いてみよう。レナはそんなことを考えて気を紛らわせた。
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