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the 17th night あなたの好きなもの
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ひとりで眠れない時間を持て余したレナは、隣の部屋で護衛に入っているカイの元に行こうと、扉の前を行ったり来たりしていた。
普段から護衛の範疇を超えて力になってくれるカイに対し、理不尽なクレームを入れてしまったことを、ちゃんと謝りたい。
上手く謝れるだろうかと思いながら、レナは扉の前まで歩く。事前にサラからカイの護衛シフトを確認していた。
「カイ、そこに居るの?」
レナは扉の向こうに話しかけた。
「ああ、居ますが」
相変わらずぶっきらぼうな印象の返事が返ってくる。レナは内鍵を開けると扉を開き、いつも通りのカイの姿を視界に入れた。
「いつも、寝る時間を削って待機してくれて、どうもありがとう。随分これが当たり前になってしまったけど、改めてお礼を言わないとならないわね」
レナはそう言ってカイのいる部屋に入ろうとする。が、カイは、
「正直、殿下との距離感の正解が分からないでいるので、ここで夜に話すのが良いのか分からない」
と言って扉の前をどこうとしなかった。レナは、日中に言ったことを受け止めているらしいカイに、自分の行動の過ちを思い知る。
「ごめんなさい、私が言ったことを気にしているんでしょう……? 私も、あの時の発言を謝りたくてここにいるのよ」
レナは精一杯謝ろうと真剣な表情で伝えたが、カイの表情は硬いままだった。
「いや、俺は女性の気持ちというやつには、とことん疎い自覚がある」
カイはそう言って聞く耳を持たないで扉の前に立ちふさがると、レナを部屋に帰そうと扉を閉めようとした。
「そんなの今更じゃないの。女心が分からないのがカイだってことは、分かっているわよ」
レナが反論して何とか部屋に入ろうとすると、
「そこは分かってもらえているのか……」
とカイが更に複雑な表情をしたので、レナはそのカイを押しのけて強引に部屋に入った。
「殿下との接し方の正解が、さっぱり分からん」
カイはそう言ってしぶしぶテーブルの席に腰かけた。レナはいつも通りソファに座ると、
「あなたは、そうやって普段通りの話し方で私に接してくれるでしょ?それが正解なのよ。腫れ物に触るようなコミュニケーションにはウンザリしているの。私はあなたに自然体で接してもらっていたから、少し誤解をしてしまったんだわ。私のことを特別扱いしてくれているんじゃないかって……」
と言ってため息をついた。
カイは少し何かを考えながらうーんと唸ると、
「特別扱いの捉え方なのかもしれないな。俺にとって殿下は気兼ねなく話が出来る雇用主で、そういった意味では特別なのかもしれないが……。特別扱いというよりは、ある種、諦めているような……。素で行かないと余計面倒なのだろうなと……」
と困ったように言ったのでレナは思わず笑った。
「ごめんなさい。でも、私、あなたのその素の態度はとても好きよ。あと、この間も言ったけど……ずっと小説がきっかけであなたに憧れていたから、少し特別な感じがしただけで舞い上がってしまったのよね……。それは私に原因があったのに、あなたを責めるのは違ったわ」
レナにそう謝られると、カイは暫く考え、
「そもそも、特別とか特別じゃないとか、一体何を言っているのか……」
と難しい顔をしている。レナはますますおかしくなり、
「その見た目から想像もつかなかったけれど、あなたってそういうところが真面目ね」
と言って嬉しそうに笑っていた。
「真面目をからかうな。人を何だと思ってるんだ」
カイはそう言ってレナをしらけた表情で見ると、
「最初は、殿下の態度にムカついて、この仕事を放棄しようとすらしたんだがな」
と言って少し笑った。初めてレナに会った日、そこへ座れと命令された椅子に座っている。カイは懐かしくなっていた。
「そうねえ、ほんと、私も失礼の連続ね。改めて聞いてもいいかしら? カイって、花火以外に何か好きなものはないの?」
レナは、カイがお酒を好きだと言っていた以外には花火が好きらしいこと以外、何を好むのか知らなかった。もう少しカイの趣味や好みを把握していても良いかもしれない。
「好きなものか……。あまり考えたことがないな……」
カイは好きなものと聞かれても、ぱっと思いつくものがない。
「そうなの……。じゃあ、やっぱり……お金好きってことでいいのかしら……?」
レナがそれまでのカイの様子や評判から尋ねると、
「いや、金が嫌いな奴はいないだろう。……何だその目は……ああ、悪かったな、金の亡者で」
とカイは明らかに嫌そうな顔で答えた。
「悪くないわよ。あなたを安く雇えるなんて、それはそれで気に入らないもの」
レナが嬉しそうに言ったのを、カイは複雑な表情で受け止めていた。
普段から護衛の範疇を超えて力になってくれるカイに対し、理不尽なクレームを入れてしまったことを、ちゃんと謝りたい。
上手く謝れるだろうかと思いながら、レナは扉の前まで歩く。事前にサラからカイの護衛シフトを確認していた。
「カイ、そこに居るの?」
レナは扉の向こうに話しかけた。
「ああ、居ますが」
相変わらずぶっきらぼうな印象の返事が返ってくる。レナは内鍵を開けると扉を開き、いつも通りのカイの姿を視界に入れた。
「いつも、寝る時間を削って待機してくれて、どうもありがとう。随分これが当たり前になってしまったけど、改めてお礼を言わないとならないわね」
レナはそう言ってカイのいる部屋に入ろうとする。が、カイは、
「正直、殿下との距離感の正解が分からないでいるので、ここで夜に話すのが良いのか分からない」
と言って扉の前をどこうとしなかった。レナは、日中に言ったことを受け止めているらしいカイに、自分の行動の過ちを思い知る。
「ごめんなさい、私が言ったことを気にしているんでしょう……? 私も、あの時の発言を謝りたくてここにいるのよ」
レナは精一杯謝ろうと真剣な表情で伝えたが、カイの表情は硬いままだった。
「いや、俺は女性の気持ちというやつには、とことん疎い自覚がある」
カイはそう言って聞く耳を持たないで扉の前に立ちふさがると、レナを部屋に帰そうと扉を閉めようとした。
「そんなの今更じゃないの。女心が分からないのがカイだってことは、分かっているわよ」
レナが反論して何とか部屋に入ろうとすると、
「そこは分かってもらえているのか……」
とカイが更に複雑な表情をしたので、レナはそのカイを押しのけて強引に部屋に入った。
「殿下との接し方の正解が、さっぱり分からん」
カイはそう言ってしぶしぶテーブルの席に腰かけた。レナはいつも通りソファに座ると、
「あなたは、そうやって普段通りの話し方で私に接してくれるでしょ?それが正解なのよ。腫れ物に触るようなコミュニケーションにはウンザリしているの。私はあなたに自然体で接してもらっていたから、少し誤解をしてしまったんだわ。私のことを特別扱いしてくれているんじゃないかって……」
と言ってため息をついた。
カイは少し何かを考えながらうーんと唸ると、
「特別扱いの捉え方なのかもしれないな。俺にとって殿下は気兼ねなく話が出来る雇用主で、そういった意味では特別なのかもしれないが……。特別扱いというよりは、ある種、諦めているような……。素で行かないと余計面倒なのだろうなと……」
と困ったように言ったのでレナは思わず笑った。
「ごめんなさい。でも、私、あなたのその素の態度はとても好きよ。あと、この間も言ったけど……ずっと小説がきっかけであなたに憧れていたから、少し特別な感じがしただけで舞い上がってしまったのよね……。それは私に原因があったのに、あなたを責めるのは違ったわ」
レナにそう謝られると、カイは暫く考え、
「そもそも、特別とか特別じゃないとか、一体何を言っているのか……」
と難しい顔をしている。レナはますますおかしくなり、
「その見た目から想像もつかなかったけれど、あなたってそういうところが真面目ね」
と言って嬉しそうに笑っていた。
「真面目をからかうな。人を何だと思ってるんだ」
カイはそう言ってレナをしらけた表情で見ると、
「最初は、殿下の態度にムカついて、この仕事を放棄しようとすらしたんだがな」
と言って少し笑った。初めてレナに会った日、そこへ座れと命令された椅子に座っている。カイは懐かしくなっていた。
「そうねえ、ほんと、私も失礼の連続ね。改めて聞いてもいいかしら? カイって、花火以外に何か好きなものはないの?」
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「好きなものか……。あまり考えたことがないな……」
カイは好きなものと聞かれても、ぱっと思いつくものがない。
「そうなの……。じゃあ、やっぱり……お金好きってことでいいのかしら……?」
レナがそれまでのカイの様子や評判から尋ねると、
「いや、金が嫌いな奴はいないだろう。……何だその目は……ああ、悪かったな、金の亡者で」
とカイは明らかに嫌そうな顔で答えた。
「悪くないわよ。あなたを安く雇えるなんて、それはそれで気に入らないもの」
レナが嬉しそうに言ったのを、カイは複雑な表情で受け止めていた。
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