上 下
109 / 221

the 17th day こちら、接触あり

しおりを挟む
 レオナルドは修道院で毎日の礼拝を済ませた。
 次々に修道士が礼拝堂を出て行く中、人の流れに逆らうように近付いてくる影がある。レオナルドは相手の雰囲気や殺気を読んでいたが、は少し距離を置いた場所に止まった。

「リオ、あなたの評判はよく聞こえてきますよ。祈りの言葉を一度読んだだけで覚え、毎日の礼拝では綺麗な発声と発音で周りを驚かせているとか」
 レオナルドは修道院で自分の愛称「リオ」を自分の名として使っていた。家族に呼ばれ慣れた名であれば反応が遅れることもない。声を掛けてきたその人物を見て、レオナルドはふと、どこかで会ったような気がした。

(綺麗な女性だな。ここには本来、女性はいないはずだけど……)
 レオナルドが調べた限り、女性が入る女子修道院は男子禁制で、修道女が集まっている。同じ敷地の現在いる場所は、男性の修道士だけが入る修道院だ。

 修道士も修道女もフードを深く被り、全身を覆う黒いマントで身体を隠す。フードを被ってしまうと男性も女性も人種も分からないようになっており、レオナルドはレジスタンスと呼ばれるルリアーナ信教が人種や階級を否定していることを修道士の格好からも感じていた。
 だが、その場にいた修道女は、フードを脱いで金髪の少し癖のある髪を露出させ、整った顔を見せながらレオナルドに接近してきたのである。

「どうもありがとうございます。僕、昔から祈りの言葉に興味があって、修道士として修行するのが夢だったからだと思うんですけど」
 レオナルドは、目の前の女性に対して違和感を持ちながら自分の作ったキャラクター「リオ」を演じた。何故、修道女が立ち入らない修道院に一人で入って来たのか、フードを脱いでわざわざ接触してきたのはどんな狙いがあるのか。

「そう。優秀な若い人が入ったと聞いて、見に来たのよ。先ほどのあなたの祈りを見学させてもらって想像以上だと感心したから、どんな方かしらと気になったの」
 レオナルドはそう言って笑う女性の目元や口元の皺を見て、思ったよりも年齢が行っているのだと驚いた。雰囲気と声の印象では20代後半くらいの女性かと思ったが、どうもそれは見当違いだったようだ。

「ありがとうございます。わざわざ隣からお越しいただくとは、恐れ入ります」
 レオナルドはそう言いながら相手の様子をじっくりと観察した。何か攻撃してこようという気配は全くないが、足元まで全身を覆い隠す黒いマントが女性を不気味に見せている。間違いなく、目の前の女性には得体の知れない力を感じた。

「ただ……リオ。あなた、嘘つきの空気をまとっているわね」
 女性の言葉に、レオナルドは全く動じずに、
「嘘つきの空気、ですか。それ、面白いですね」
 といつもの笑顔を浮かべる。

 レオナルドは何かあった時のために、マントの中に短剣を1本隠し持っていた。修道院で血を流すようなことは極力したくなかったが、ポテンシアとの国際問題を起こすくらいであれば容赦なく短剣を使用して逃げるつもりだ。

「そうよ、私、リオの周りを取り巻くものが視えるのよ。あなたは嘘つきで、そして、とても優秀。恐らく昔は神童と呼ばれていたのでしょう。そして、何かの理由でここに来たのね」
 女性はそう言ってレオナルドにゆっくりと近づいてくる。レオナルドは相手から殺意がないのを感じると、後ずさりもせずに黙って女性を見つめた。

「リオは、味方ではないわね。でも、利用価値がとても高いわ」
 女性はそう言ってニヤリと笑みを浮かべた。

「利用価値……僕、利用されるためにここに来たんじゃありません」
 レオナルドは女性を持ち前の観察眼で分析した。

「分かっているわよ。今は泳がせておいてあげるから」
 女性はそう言うとフードを被り、レオナルドの横を通り過ぎて礼拝堂の出口に向かって歩いていく。レオナルドはその姿をしっかり記憶した。背丈は決して高くない、小柄な女性だ。きっと近いうちにまた接触を図ってくるのだろう。

(恐らく向こうの修道院で位の高い人なんだろうな。そして、間違いなく呪術が使えて僕の素性を探りにきたらしい。面白くなってきましたよ、国王陛下)

 レオナルドは他に人の気配が無いか神経を研ぎ澄ませるが、近くには誰もいないようだった。女性が単独で乗り込んできたのであれば、それなりの理由があってレオナルドを狙ってきたと考えて間違いがないだろう。恐らくここ数日で何かが起きるに違いない。
 レオナルドは平和な国の暗部に乗り込んだ確信で期待に胸を膨らませていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

二度目の人生は異世界で溺愛されています

ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。 ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。 加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。 おまけに女性が少ない世界のため 夫をたくさん持つことになりー…… 周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...