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the 17th day こちら、接触あり
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レオナルドは修道院で毎日の礼拝を済ませた。
次々に修道士が礼拝堂を出て行く中、人の流れに逆らうように近付いてくる影がある。レオナルドは相手の雰囲気や殺気を読んでいたが、その修道士は少し距離を置いた場所に止まった。
「リオ、あなたの評判はよく聞こえてきますよ。祈りの言葉を一度読んだだけで覚え、毎日の礼拝では綺麗な発声と発音で周りを驚かせているとか」
レオナルドは修道院で自分の愛称「リオ」を自分の名として使っていた。家族に呼ばれ慣れた名であれば反応が遅れることもない。声を掛けてきたその人物を見て、レオナルドはふと、どこかで会ったような気がした。
(綺麗な女性だな。ここには本来、女性はいないはずだけど……)
レオナルドが調べた限り、女性が入る女子修道院は男子禁制で、修道女が集まっている。同じ敷地の現在いる場所は、男性の修道士だけが入る修道院だ。
修道士も修道女もフードを深く被り、全身を覆う黒いマントで身体を隠す。フードを被ってしまうと男性も女性も人種も分からないようになっており、レオナルドはレジスタンスと呼ばれるルリアーナ信教が人種や階級を否定していることを修道士の格好からも感じていた。
だが、その場にいた修道女は、フードを脱いで金髪の少し癖のある髪を露出させ、整った顔を見せながらレオナルドに接近してきたのである。
「どうもありがとうございます。僕、昔から祈りの言葉に興味があって、修道士として修行するのが夢だったからだと思うんですけど」
レオナルドは、目の前の女性に対して違和感を持ちながら自分の作ったキャラクター「リオ」を演じた。何故、修道女が立ち入らない修道院に一人で入って来たのか、フードを脱いでわざわざ接触してきたのはどんな狙いがあるのか。
「そう。優秀な若い人が入ったと聞いて、見に来たのよ。先ほどのあなたの祈りを見学させてもらって想像以上だと感心したから、どんな方かしらと気になったの」
レオナルドはそう言って笑う女性の目元や口元の皺を見て、思ったよりも年齢が行っているのだと驚いた。雰囲気と声の印象では20代後半くらいの女性かと思ったが、どうもそれは見当違いだったようだ。
「ありがとうございます。わざわざ隣からお越しいただくとは、恐れ入ります」
レオナルドはそう言いながら相手の様子をじっくりと観察した。何か攻撃してこようという気配は全くないが、足元まで全身を覆い隠す黒いマントが女性を不気味に見せている。間違いなく、目の前の女性には得体の知れない力を感じた。
「ただ……リオ。あなた、嘘つきの空気をまとっているわね」
女性の言葉に、レオナルドは全く動じずに、
「嘘つきの空気、ですか。それ、面白いですね」
といつもの笑顔を浮かべる。
レオナルドは何かあった時のために、マントの中に短剣を1本隠し持っていた。修道院で血を流すようなことは極力したくなかったが、ポテンシアとの国際問題を起こすくらいであれば容赦なく短剣を使用して逃げるつもりだ。
「そうよ、私、リオの周りを取り巻くものが視えるのよ。あなたは嘘つきで、そして、とても優秀。恐らく昔は神童と呼ばれていたのでしょう。そして、何かの理由でここに来たのね」
女性はそう言ってレオナルドにゆっくりと近づいてくる。レオナルドは相手から殺意がないのを感じると、後ずさりもせずに黙って女性を見つめた。
「リオは、味方ではないわね。でも、利用価値がとても高いわ」
女性はそう言ってニヤリと笑みを浮かべた。
「利用価値……僕、利用されるためにここに来たんじゃありません」
レオナルドは女性を持ち前の観察眼で分析した。
「分かっているわよ。今は泳がせておいてあげるから」
女性はそう言うとフードを被り、レオナルドの横を通り過ぎて礼拝堂の出口に向かって歩いていく。レオナルドはその姿をしっかり記憶した。背丈は決して高くない、小柄な女性だ。きっと近いうちにまた接触を図ってくるのだろう。
(恐らく向こうの修道院で位の高い人なんだろうな。そして、間違いなく呪術が使えて僕の素性を探りにきたらしい。面白くなってきましたよ、国王陛下)
レオナルドは他に人の気配が無いか神経を研ぎ澄ませるが、近くには誰もいないようだった。女性が単独で乗り込んできたのであれば、それなりの理由があってレオナルドを狙ってきたと考えて間違いがないだろう。恐らくここ数日で何かが起きるに違いない。
レオナルドは平和な国の暗部に乗り込んだ確信で期待に胸を膨らませていた。
次々に修道士が礼拝堂を出て行く中、人の流れに逆らうように近付いてくる影がある。レオナルドは相手の雰囲気や殺気を読んでいたが、その修道士は少し距離を置いた場所に止まった。
「リオ、あなたの評判はよく聞こえてきますよ。祈りの言葉を一度読んだだけで覚え、毎日の礼拝では綺麗な発声と発音で周りを驚かせているとか」
レオナルドは修道院で自分の愛称「リオ」を自分の名として使っていた。家族に呼ばれ慣れた名であれば反応が遅れることもない。声を掛けてきたその人物を見て、レオナルドはふと、どこかで会ったような気がした。
(綺麗な女性だな。ここには本来、女性はいないはずだけど……)
レオナルドが調べた限り、女性が入る女子修道院は男子禁制で、修道女が集まっている。同じ敷地の現在いる場所は、男性の修道士だけが入る修道院だ。
修道士も修道女もフードを深く被り、全身を覆う黒いマントで身体を隠す。フードを被ってしまうと男性も女性も人種も分からないようになっており、レオナルドはレジスタンスと呼ばれるルリアーナ信教が人種や階級を否定していることを修道士の格好からも感じていた。
だが、その場にいた修道女は、フードを脱いで金髪の少し癖のある髪を露出させ、整った顔を見せながらレオナルドに接近してきたのである。
「どうもありがとうございます。僕、昔から祈りの言葉に興味があって、修道士として修行するのが夢だったからだと思うんですけど」
レオナルドは、目の前の女性に対して違和感を持ちながら自分の作ったキャラクター「リオ」を演じた。何故、修道女が立ち入らない修道院に一人で入って来たのか、フードを脱いでわざわざ接触してきたのはどんな狙いがあるのか。
「そう。優秀な若い人が入ったと聞いて、見に来たのよ。先ほどのあなたの祈りを見学させてもらって想像以上だと感心したから、どんな方かしらと気になったの」
レオナルドはそう言って笑う女性の目元や口元の皺を見て、思ったよりも年齢が行っているのだと驚いた。雰囲気と声の印象では20代後半くらいの女性かと思ったが、どうもそれは見当違いだったようだ。
「ありがとうございます。わざわざ隣からお越しいただくとは、恐れ入ります」
レオナルドはそう言いながら相手の様子をじっくりと観察した。何か攻撃してこようという気配は全くないが、足元まで全身を覆い隠す黒いマントが女性を不気味に見せている。間違いなく、目の前の女性には得体の知れない力を感じた。
「ただ……リオ。あなた、嘘つきの空気をまとっているわね」
女性の言葉に、レオナルドは全く動じずに、
「嘘つきの空気、ですか。それ、面白いですね」
といつもの笑顔を浮かべる。
レオナルドは何かあった時のために、マントの中に短剣を1本隠し持っていた。修道院で血を流すようなことは極力したくなかったが、ポテンシアとの国際問題を起こすくらいであれば容赦なく短剣を使用して逃げるつもりだ。
「そうよ、私、リオの周りを取り巻くものが視えるのよ。あなたは嘘つきで、そして、とても優秀。恐らく昔は神童と呼ばれていたのでしょう。そして、何かの理由でここに来たのね」
女性はそう言ってレオナルドにゆっくりと近づいてくる。レオナルドは相手から殺意がないのを感じると、後ずさりもせずに黙って女性を見つめた。
「リオは、味方ではないわね。でも、利用価値がとても高いわ」
女性はそう言ってニヤリと笑みを浮かべた。
「利用価値……僕、利用されるためにここに来たんじゃありません」
レオナルドは女性を持ち前の観察眼で分析した。
「分かっているわよ。今は泳がせておいてあげるから」
女性はそう言うとフードを被り、レオナルドの横を通り過ぎて礼拝堂の出口に向かって歩いていく。レオナルドはその姿をしっかり記憶した。背丈は決して高くない、小柄な女性だ。きっと近いうちにまた接触を図ってくるのだろう。
(恐らく向こうの修道院で位の高い人なんだろうな。そして、間違いなく呪術が使えて僕の素性を探りにきたらしい。面白くなってきましたよ、国王陛下)
レオナルドは他に人の気配が無いか神経を研ぎ澄ませるが、近くには誰もいないようだった。女性が単独で乗り込んできたのであれば、それなりの理由があってレオナルドを狙ってきたと考えて間違いがないだろう。恐らくここ数日で何かが起きるに違いない。
レオナルドは平和な国の暗部に乗り込んだ確信で期待に胸を膨らませていた。
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