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the 17th day 面倒な女
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レナの元に、速達でルイスから書簡が届いた。4日後に訪ねたいという内容と、これからのことを楽しみにしているという内容だった。
(ルイス様がわざわざ来て下さるのに楽しみに思えないなんて、これから大丈夫なのかしら……)
レナはため息をつくと、すぐ側にいたカイに話しかけた。
「ルイス様が、4日後にいらっしゃるそうよ。お昼でもご一緒したほうが良いかしらね。あなたとブラッドも同席する?」
カイは少しの間考えて、
「それは遠慮する。というか、護衛は護衛らしく後ろに控えている」
と答えた。レナはそれを、
「そうよねえ……」
と言いながら難しい顔をしている。
「なんで護衛とは普通にできることが、ルイス殿下が相手だとできないのか不思議だな」
カイがそう言って少し意地悪な顔でレナを見る。
「護衛の俺と城下町を一緒に歩けたんだ。ルイス様とだって一緒に歩くとか、食事を共にするくらいのことはできるだろう」
当然のように言うカイに、レナは、
「カイみたいに普通にコミュニケーションが取れる相手ならともかく、ルイス様は唐突に褒めて来たり、触れられたり……どこか押しが強いし……」
と言い訳を言いながら、はっと以前の出来事を思い出した。
「そういうものか?」
カイがそう言って首をかしげている。
「でも、カイはカイで問題があったわね。私があなたに憧れていたのを知りながら、思わせぶりだったというか」
とレナはカイに詰め寄った。
「何とも思っていない雇用主にペンダントを贈ったのは、どういう意図だったのかしら?」
と城下町に行った日のことを思い出して責めた。
「いや、雇用主が無一文だったら、あそこで金を出すのは当然だろう。この仕事の報酬はそれなりにもらっているわけだし、高い物でも無かったし……」
カイが何の疑問も持たずにそう言ったので、レナは大きくため息をついた。
「私、ペンダントを異性からもらったのなんて、生まれて初めてだったのよ。あなたはあなたで問題があるわ。もう、いいけれど……」
レナは美しいガラス玉のネックレスをプレゼントされた日のことを、ここぞとばかりに追及したくなった。実は毎日お守りのように首から下げているのに、カイにその事実を知られても何とも思われないのだろう。
「あの時は業務とはいえ、行動を共にするのに不自然にならないようにという意識もあったし、殿下に対してはそれなりに信頼と信用を持って接しているつもりだったんだがな」
カイがそう言ってレナからの文句を一旦受け止めるが、
「あなたは、ただでさえ見た目が素敵なのだから、優しくされたら女性はみんな誤解するわよ」
とレナは堂々と言い切った。完全な言いがかりだ。
「いや、メイソンの来訪で落ち込んでいた殿下の気分転換になればと、俺なりに頑張ったんだぞ……」
とカイは不本意そうに言ってムスッとしていた。
「やはり女は面倒くさいな」
カイがそう言って一緒に歩くブラッドに不機嫌に言うと、
「女性というのは、少し面倒なくらいが丁度いいんじゃないのか? まあ、どんな面倒なのかはあえて聞きたくないが」
とブラッドはカイの指す『面倒』については深く尋ねないことにした。どうせ、この男特有の贅沢な悩みなのだろうと予想がつく。
「面倒が丁度良いなど、一生言えないな」
カイはブラッドを訝しげに見ながら言った。ブリステの隣国であるポテンシアは、情熱の国だと言われている。そう思えば、ルイスがレナに積極的なところも納得がいくのだった。
「逆に言うが、そんなに簡単な女性を口説いて何になるんだ?」
ブラッドが当然のように言ったので、カイはポテンシア人とは女性への価値観に関しては一生分かり合えないに違いないと確信した。
「女を口説くものだと思っている時点で理解不能だ」
カイが当然のように言ったので、
「ハウザー殿は、そういうところが本当に感じ悪いな……。女性は口説かずとも向こうから寄ってくるということか」
とブラッドはイラついている。カイはブラッドとの認識の違いを正すことさえ面倒になっていた。
「いや、殿下も女性なのだなと今更思い知った。雇用主の面倒なところを知ってしまった」
カイはレナに言われたことを思い出す。まさか親切にしたことにクレームを言われるとは、何が正解なのか全く分からなかった。
「あれで雇用主として面倒だというなら、ハウザー殿はどんな女性でも面倒なんだろう。俺は、あんなに純粋でまっすぐな女性は知らないぞ」
ブラッドはカイが想像以上に女性嫌いなのかもしれない、と驚いた。
「面倒でない女性など、サラ以外知らん」
とカイが堂々と言ったので、ブラッドは、
「……ああ。そうか」
と、それ以上何も言う気が起きなくなっていた。
(ルイス様がわざわざ来て下さるのに楽しみに思えないなんて、これから大丈夫なのかしら……)
レナはため息をつくと、すぐ側にいたカイに話しかけた。
「ルイス様が、4日後にいらっしゃるそうよ。お昼でもご一緒したほうが良いかしらね。あなたとブラッドも同席する?」
カイは少しの間考えて、
「それは遠慮する。というか、護衛は護衛らしく後ろに控えている」
と答えた。レナはそれを、
「そうよねえ……」
と言いながら難しい顔をしている。
「なんで護衛とは普通にできることが、ルイス殿下が相手だとできないのか不思議だな」
カイがそう言って少し意地悪な顔でレナを見る。
「護衛の俺と城下町を一緒に歩けたんだ。ルイス様とだって一緒に歩くとか、食事を共にするくらいのことはできるだろう」
当然のように言うカイに、レナは、
「カイみたいに普通にコミュニケーションが取れる相手ならともかく、ルイス様は唐突に褒めて来たり、触れられたり……どこか押しが強いし……」
と言い訳を言いながら、はっと以前の出来事を思い出した。
「そういうものか?」
カイがそう言って首をかしげている。
「でも、カイはカイで問題があったわね。私があなたに憧れていたのを知りながら、思わせぶりだったというか」
とレナはカイに詰め寄った。
「何とも思っていない雇用主にペンダントを贈ったのは、どういう意図だったのかしら?」
と城下町に行った日のことを思い出して責めた。
「いや、雇用主が無一文だったら、あそこで金を出すのは当然だろう。この仕事の報酬はそれなりにもらっているわけだし、高い物でも無かったし……」
カイが何の疑問も持たずにそう言ったので、レナは大きくため息をついた。
「私、ペンダントを異性からもらったのなんて、生まれて初めてだったのよ。あなたはあなたで問題があるわ。もう、いいけれど……」
レナは美しいガラス玉のネックレスをプレゼントされた日のことを、ここぞとばかりに追及したくなった。実は毎日お守りのように首から下げているのに、カイにその事実を知られても何とも思われないのだろう。
「あの時は業務とはいえ、行動を共にするのに不自然にならないようにという意識もあったし、殿下に対してはそれなりに信頼と信用を持って接しているつもりだったんだがな」
カイがそう言ってレナからの文句を一旦受け止めるが、
「あなたは、ただでさえ見た目が素敵なのだから、優しくされたら女性はみんな誤解するわよ」
とレナは堂々と言い切った。完全な言いがかりだ。
「いや、メイソンの来訪で落ち込んでいた殿下の気分転換になればと、俺なりに頑張ったんだぞ……」
とカイは不本意そうに言ってムスッとしていた。
「やはり女は面倒くさいな」
カイがそう言って一緒に歩くブラッドに不機嫌に言うと、
「女性というのは、少し面倒なくらいが丁度いいんじゃないのか? まあ、どんな面倒なのかはあえて聞きたくないが」
とブラッドはカイの指す『面倒』については深く尋ねないことにした。どうせ、この男特有の贅沢な悩みなのだろうと予想がつく。
「面倒が丁度良いなど、一生言えないな」
カイはブラッドを訝しげに見ながら言った。ブリステの隣国であるポテンシアは、情熱の国だと言われている。そう思えば、ルイスがレナに積極的なところも納得がいくのだった。
「逆に言うが、そんなに簡単な女性を口説いて何になるんだ?」
ブラッドが当然のように言ったので、カイはポテンシア人とは女性への価値観に関しては一生分かり合えないに違いないと確信した。
「女を口説くものだと思っている時点で理解不能だ」
カイが当然のように言ったので、
「ハウザー殿は、そういうところが本当に感じ悪いな……。女性は口説かずとも向こうから寄ってくるということか」
とブラッドはイラついている。カイはブラッドとの認識の違いを正すことさえ面倒になっていた。
「いや、殿下も女性なのだなと今更思い知った。雇用主の面倒なところを知ってしまった」
カイはレナに言われたことを思い出す。まさか親切にしたことにクレームを言われるとは、何が正解なのか全く分からなかった。
「あれで雇用主として面倒だというなら、ハウザー殿はどんな女性でも面倒なんだろう。俺は、あんなに純粋でまっすぐな女性は知らないぞ」
ブラッドはカイが想像以上に女性嫌いなのかもしれない、と驚いた。
「面倒でない女性など、サラ以外知らん」
とカイが堂々と言ったので、ブラッドは、
「……ああ。そうか」
と、それ以上何も言う気が起きなくなっていた。
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