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the 17th day 傷つく道を選んでも
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シンは、歩き続ける道中でロキに何度も同じことを尋ねていた。
「殿下に、ルイス様との話を進めるって言われたんだろ?」
その度に、ロキは嫌そうな顔をしながら、
「言われたよ。だから?もともと殿下にはルイス様がお似合いだったと思うけど」
と言う羽目になる。
「じゃあ、なんでそんなに喜んでるんだよ? どう考えたって、傷つくだけだろ?」
シンの言うことはもっともで、否定する余地もない。ただ、ロキにとってはそれ以上にレナから頼られることが嬉しかったのだと、何度伝えてもシンには伝わらないのだった。
「もう、いい加減にしてよね……同じこと何回言えばいいんだよ」
ロキは歩きながら少し後ろを歩くシンの方を睨みつけ、そろそろ黙ろうかというところだった。
「ここ数日、ロキを見てきて思うけど、殿下のことを想うのはもう止めた方が良いんじゃないか?」
シンが呆れてそう言ったので、ロキは手に持っていた自分の上着をシンの顔に思い切り投げつけた。
バサっという音と共に「わっ」という声が上がり、シンの歩く足が止まる。
「危ないだろ?!」
シンはロキの上着を顔から剥がすと、ロキに向かって怒ろうとした。
「しつこいよ! 俺が良いって言ってるんだから良いんだよ! 殿下にとって都合のいい相手になることの何がいけないんだよ?」
間髪入れずにロキがそう叫んだので、シンは怒るタイミングを失う。
「ルイス様のことがなくたって、殿下が団長のことを好きなのかもと思ってたからなるべく団長といられるように協力するつもりだったんだし、同じことだろ?」
ロキはシンの手から自分の上着を奪い取ると、そのまま先に歩いて行った。シンは、そんなロキの姿を見ながら、言葉を失っている。無言でロキに付いて行くと、暫く何も言わずに黙っていた。
2人が歩き続けて小さな町に到着すると、シンは、
「あのさあ、俺、殿下のことは可愛いと思うし、やっぱり憧れみたいなものはあるけど、ロキをこれ以上傷つけるようなことはして欲しくないんだよな」
と困ったように呟いた。
「ロキは大事な同僚だし、実業家としても成功してるし、若くて将来も明るいのに、殿下のことを考えている時だけ未来がないんだよ。それが、悔しいっていうかさ……」
シンはロキの方を見ずにそう言うと、町の中を見回して休憩できそうな店を探すことにした。
「…………」
ロキは、黙ってシンに付いて行く。シンが言うことは正しかったが、それでレナの力になりたいという気持ちが揺らぐことはなかった。
「とりあえず、何か飲んで休もうか。ロキのペースが速かったから少し休憩したい」
シンはそう言って町の小さなバールに入ることにしたようだ。ロキは黙ってシンの後を追って店に入った。
2人はテーブルに向かい合って座り、ドリンクを頼む。
「急いで歩くと暑いな」
シンは独り言なのかロキに話しかけているのか、どちらにも取れるような口調で言った。
店内には客はおらず、静かに時間が流れている。少し開いた窓からは外の小川が見えて、せせらぎの音が耳に心地よく響いた。
注文したドリンクが運ばれてくると、シンは、
「俺はさあ、殿下よりロキの方が大事なんだと思う。まあ、殿下を見たり話したりすると心臓が飛び出そうなくらい可愛くて、うわって思うし、やっぱ姿かたちは好きなわけだけど」
と言って冷たい水を飲んでいる。ロキはそんなシンを見ながら、
「ああ、そう。俺だって、シンのことは大事だし、心配してくれてるのは分かるけど……今回に限って言えば、どんなに傷つこうがボロボロになろうが、あの人の近くで仕事をしていられるうちだけは、それでいいんだよ」
と頬杖をついて言った。
「そうか」
シンはそう言って、それ以上は何も言わなかった。ロキは妙に物分かりの良いシンに不満そうな顔をする。何度も同じことをしつこく言っていたくせに、急に静かになられては調子が狂う。
「呆れてる? それとも、軽蔑でもしてる?」
ロキは横を向いてシンと目線を合わせずに聞いた。
「どっちでもないよ。ちょっとざまあみろって思ってる」
シンの言葉を聞いて、ロキは、
「はあ?!」
と声を上げてシンを見た。静かな店内にロキの声が響く。この2人が一緒に居て、ロキの方が声を上げたのは初めてかもしれない。
「ロキってさあ、女の子にいつも騒がれてるし、平民なのに成功者って感じだし、ちょっといけ好かないよなあって思うこともあったんだよ」
シンが初めての告白をすると、ロキは信じられないという顔をしていた。
「だからさあ、たまにはそうやって上手くいかない恋で傷ついたほうが良いのかもな」
シンがそう言ってロキを見て得意げな顔をしたので、ロキの中で何かが切れる音がした。
「本気で悩んで落ち込んだりしてたのに、ざまあみろって結構ひどい話だよね……。まあ、他人の恋路なんてどうでもいいって話だよな、実際」
一呼吸つくと、ロキとシンは窓の外を眺めた。外の小川には、鴨が列をなして浮かんでいる。
明日の夜には城に着き、レナと顔を合わせる日々が始まるのだ。ロキが選んだ道は正しくも美しくもなかったが、その覚悟は本物らしい。
シンは、それ以上、何かを言うことは無かった。
「殿下に、ルイス様との話を進めるって言われたんだろ?」
その度に、ロキは嫌そうな顔をしながら、
「言われたよ。だから?もともと殿下にはルイス様がお似合いだったと思うけど」
と言う羽目になる。
「じゃあ、なんでそんなに喜んでるんだよ? どう考えたって、傷つくだけだろ?」
シンの言うことはもっともで、否定する余地もない。ただ、ロキにとってはそれ以上にレナから頼られることが嬉しかったのだと、何度伝えてもシンには伝わらないのだった。
「もう、いい加減にしてよね……同じこと何回言えばいいんだよ」
ロキは歩きながら少し後ろを歩くシンの方を睨みつけ、そろそろ黙ろうかというところだった。
「ここ数日、ロキを見てきて思うけど、殿下のことを想うのはもう止めた方が良いんじゃないか?」
シンが呆れてそう言ったので、ロキは手に持っていた自分の上着をシンの顔に思い切り投げつけた。
バサっという音と共に「わっ」という声が上がり、シンの歩く足が止まる。
「危ないだろ?!」
シンはロキの上着を顔から剥がすと、ロキに向かって怒ろうとした。
「しつこいよ! 俺が良いって言ってるんだから良いんだよ! 殿下にとって都合のいい相手になることの何がいけないんだよ?」
間髪入れずにロキがそう叫んだので、シンは怒るタイミングを失う。
「ルイス様のことがなくたって、殿下が団長のことを好きなのかもと思ってたからなるべく団長といられるように協力するつもりだったんだし、同じことだろ?」
ロキはシンの手から自分の上着を奪い取ると、そのまま先に歩いて行った。シンは、そんなロキの姿を見ながら、言葉を失っている。無言でロキに付いて行くと、暫く何も言わずに黙っていた。
2人が歩き続けて小さな町に到着すると、シンは、
「あのさあ、俺、殿下のことは可愛いと思うし、やっぱり憧れみたいなものはあるけど、ロキをこれ以上傷つけるようなことはして欲しくないんだよな」
と困ったように呟いた。
「ロキは大事な同僚だし、実業家としても成功してるし、若くて将来も明るいのに、殿下のことを考えている時だけ未来がないんだよ。それが、悔しいっていうかさ……」
シンはロキの方を見ずにそう言うと、町の中を見回して休憩できそうな店を探すことにした。
「…………」
ロキは、黙ってシンに付いて行く。シンが言うことは正しかったが、それでレナの力になりたいという気持ちが揺らぐことはなかった。
「とりあえず、何か飲んで休もうか。ロキのペースが速かったから少し休憩したい」
シンはそう言って町の小さなバールに入ることにしたようだ。ロキは黙ってシンの後を追って店に入った。
2人はテーブルに向かい合って座り、ドリンクを頼む。
「急いで歩くと暑いな」
シンは独り言なのかロキに話しかけているのか、どちらにも取れるような口調で言った。
店内には客はおらず、静かに時間が流れている。少し開いた窓からは外の小川が見えて、せせらぎの音が耳に心地よく響いた。
注文したドリンクが運ばれてくると、シンは、
「俺はさあ、殿下よりロキの方が大事なんだと思う。まあ、殿下を見たり話したりすると心臓が飛び出そうなくらい可愛くて、うわって思うし、やっぱ姿かたちは好きなわけだけど」
と言って冷たい水を飲んでいる。ロキはそんなシンを見ながら、
「ああ、そう。俺だって、シンのことは大事だし、心配してくれてるのは分かるけど……今回に限って言えば、どんなに傷つこうがボロボロになろうが、あの人の近くで仕事をしていられるうちだけは、それでいいんだよ」
と頬杖をついて言った。
「そうか」
シンはそう言って、それ以上は何も言わなかった。ロキは妙に物分かりの良いシンに不満そうな顔をする。何度も同じことをしつこく言っていたくせに、急に静かになられては調子が狂う。
「呆れてる? それとも、軽蔑でもしてる?」
ロキは横を向いてシンと目線を合わせずに聞いた。
「どっちでもないよ。ちょっとざまあみろって思ってる」
シンの言葉を聞いて、ロキは、
「はあ?!」
と声を上げてシンを見た。静かな店内にロキの声が響く。この2人が一緒に居て、ロキの方が声を上げたのは初めてかもしれない。
「ロキってさあ、女の子にいつも騒がれてるし、平民なのに成功者って感じだし、ちょっといけ好かないよなあって思うこともあったんだよ」
シンが初めての告白をすると、ロキは信じられないという顔をしていた。
「だからさあ、たまにはそうやって上手くいかない恋で傷ついたほうが良いのかもな」
シンがそう言ってロキを見て得意げな顔をしたので、ロキの中で何かが切れる音がした。
「本気で悩んで落ち込んだりしてたのに、ざまあみろって結構ひどい話だよね……。まあ、他人の恋路なんてどうでもいいって話だよな、実際」
一呼吸つくと、ロキとシンは窓の外を眺めた。外の小川には、鴨が列をなして浮かんでいる。
明日の夜には城に着き、レナと顔を合わせる日々が始まるのだ。ロキが選んだ道は正しくも美しくもなかったが、その覚悟は本物らしい。
シンは、それ以上、何かを言うことは無かった。
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