アメイジング・ナイト ―王女と騎士の35日―

碧井夢夏

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the 17th day 昨日の友は今日の仇

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 レナはその日に訪れていたクリストファーと現状の貿易について情報交換をしていた。パースから見合いの場を利用してまで貿易についての情報をくれただけあり、クリストファーは情報交換に熱心だ。

「貿易担当大臣が捕まってから、今のところ貿易面でパースが不利益を被ったという情報は入っていませんが、ルリアーナからの輸入量は減っていますね。どうしてなのか、分かりませんが」
 クリストファー曰く、貿易が正常化したというのにルリアーナ側の商品はいまだに戻っていないということらしい。

「そう……。パースの方たちが抱えていた、ルリアーナへの不満は大分減ったのかしら?」
 レナはクリストファーにお茶を勧めながら、気になっている同盟国の国民感情について尋ねる。
「完全に無くなるのは難しいでしょうね。かくいう私も実は少し不満を抱えているくらいですから」

 クリストファーに言われ、レナは困っていた。
「そう、ですよね」
 レナはクリストファーの貿易に影響を与えてしまったことは変わらない事実なのだと、改めて思い知る。

「いや、貿易のことじゃないですよ。王女殿下がポテンシアの第四王子と親密にお付き合いをされているというのは、パース人にとっては残念なことですから」
 クリストファーの言葉に、レナは何と言っていいか分からなくなった。沈黙が続き、レナが上手く切り出せずにいると、
「それでも、これからも友人として話をする機会を設けていただけたら、私は嬉しく思います」
 と、クリストファーは穏やかに言った。
「勿論です。わざわざそう言っていただけるなんて、思いませんでした」
 レナはそう言って頭を下げた。

「何故、そこまで恐縮なさるんですか。ポテンシアの王族とパースのイチ貴族の私では、あなたに与えられるものが全く違うでしょう。殿下の判断は間違っていないと思いますよ」
 とクリストファーは言うと、出されたお茶を飲んだ。その顔は穏やかで、落ち着いている。

「こちらに見合いに来て、初めてレナ様を見た時に、あなたはこの国のための婚姻をされる方なのだろうと思いました。パースは王族に権限も無ければ、私のような貴族が分散して地方をそれぞれ治めているような国です。ポテンシアのような、王族の規律で全てが動く国で育った王子殿下には敵うはずがないですね」

 クリストファーはそう言って立ち上がり、レナに握手を求めた。レナは戸惑いながら立ち上がってクリストファーと握手を交わす。
「それでも、こうやって時間を作っていただけたのが、とてもありがたかったです。こうしてレナ様と話をすることで、ルリアーナという国のことをこれからも応援することができそうですから」
 クリストファーはそう言って微笑んだ。

「私こそ、パースの方から貿易のことをうかがわなければ、国の改革について考えることもできませんでした。クリストファー様は、とても親切でご自身の仕事に責任をもって携われている方なのだと、いつも感心していたのです」
 レナは深々と頭を下げた。
「お顔を上げてください。心から、あなたの幸せを願っています」
 クリストファーの言葉に、レナはなかなか顔を上げることが出来なかった。


 ブラッドはクリストファーを見送った後でカイに声を掛けた。
「なあ、ハウザー殿はどう思った?」
 カイは突然の質問に怪訝な顔をして、
「何がだ」
 と答える。
「先ほどの話、恐らくパースはルリアーナの輸入を制限し始めているということじゃないか? 王女殿下がポテンシアと親戚関係になれば、パースとはこれまで通りとは行かないだろう」
 ブラッドはそう言うと、クリストファーの様子を思い出していた。

「ああ、これまで通りにはいかないだろうが、そんなにすぐに関係が悪化するかと言われると、分からないな」
 カイは特に興味もなさそうに答える。ブラッドは釈然としない様子で、
「これは、あくまでも仮の話だぞ……ポテンシアの国王陛下がパースに攻め込んだとすると、ルリアーナはこれまで通りパースとの関係を維持することは難しいだろ? それは、ルリアーナにとっては痛手なんじゃないか?」
 と言うと、パースとルリアーナの関係を心配していた。

「ポテンシアがパースに攻め込む、か。現実的だな。その時、お前はポテンシアの兵としてパースに攻め込み、恐らく俺はパースの貴族に雇われてパースを護る側に回るんだろう。そう考えると、俺たちは敵同士か。戦場で会いたくないものだな」
 カイが何の感情も込めずにそう言ったので、ブラッドは血の気が引いて行った。

(そうか、ハウザー殿は、雇われればパースの兵にもなり得るのだ……)

「冗談じゃない、あんなわけの分からない術を使うハウザー殿と戦うなど、勘弁してくれ」
 ブラッドはそう言ってなるべく平静を装う。カイの言葉は、妙に現実味を帯びているのだった。
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