アメイジング・ナイト ―王女と騎士の35日―

碧井夢夏

文字の大きさ
上 下
104 / 221

the 17th day 使用人は煩う

しおりを挟む
 朝の食堂で、サラは見知った顔を何人か確認すると、会釈をして朝食を取りに行く。
 使用人向けの食堂はセルフサービスで、基本的に何を食べようが何を飲もうが構わない仕組みになっていた。サラはトーストとミルクを持って席に着く。

 カイとブラッドは日も登らない時間からスウに呼び出され、そのままどうなったのか分からなかった。
 昨日、カイが一人でスウに呼び出された時も、戻るとカイは顔に切り傷を作っていた。あのカイに限って、顔に傷を作ることは珍しい。何か大変な修行をしているのだろうというのは間違いなかった。
 それも、人の力を超えた何かを身に着けようと、カイは必死になっている。

(隊長も、カイも、下手に力があるから苦労するんじゃないかしら……)
 サラは戦場で敵なしだった蒼が気功によって亡くなったことを思い出していた。

「サラさん、どうしたんですか?」
 横からよく知った声がしたので、サラは驚いて飛び上がりそうになる。

「あ、ああ……サーヤさん」
 サーヤはサラを確認すると、他に誰か一緒ではないのかキョロキョロ辺りを確認していた。
「今、おひとりですか?」
 サーヤに聞かれてサラが頷くと、サーヤは、
「じゃ、朝ご飯ご一緒しましょ」
 とサラの隣に座った。サーヤはロールパンとスープを選んだようだった。

「ええ、いいけど。なんであたしがひとりかどうか確認したのよ」
 サラに不思議そうに聞かれ、サーヤはむせていた。
「ああ、ごめんなさい。話しかけちゃいけないところだったかしら」
 サラはサーヤをさすって謝ったが、サーヤは暫くむせた後で、
「サラさんって、口は堅い方ですか?」
 と尋ねる。サラは少しの間「うーん……」と考えて、
「どうかしら、言わないでって言われたら、約束は守ると思うけど」
 と答える。サーヤはそれを聞くと、
「私、ハウザー様に好きですって言ったんです、昨日」
 と、小さな声で告白した。

「ああ、そうなの。知ってたら止めたのに」
 サラは特に動じることもなく、
「結果は分かってるから言わなくてもいいわよ」
 と付け加えてトーストをかじった。

「止めたのにって、どういうことですか……」
 サーヤが眉間に皺を寄せて不満そうな顔をしているのを、サラは、
「だって団長、その辺の感情がすっぽり欠落してるでしょ。相手の気持ちを考えずにキツイ言い方で突き放すと思うから……」
 と言ってサーヤを見ると、
「あの人、綺麗な見た目をしてるから好きになる気持ちも分からなくはないんだけど、団長に告白して成功した子なんて見たことないのよ」
 と、サーヤを気遣った。

「別に、両想いになりたいと思ったからじゃないんです。私のこと、意識してほしくて、ただ気持ちを伝えたかっただけなんです」
 サーヤは複雑な表情でそう言うと、スープに口を付ける。スープの入ったマグカップが湯気を上げ、サーヤは少し熱そうなスープを少しずつ飲んだ。

「それもねえ、通じる人と通じない人がいるんじゃないかしら……。少なくとも団長には通じないからね。あの人、自分のことを好きな女性が苦手なのよ」
 サラがそう言うと、サーヤは目を丸くした。
「逆効果なんですか?」
 サーヤが驚いてサラに聞いたので、サラは気まずそうな顔をしながら頷いた。

「知らなかった……。てっきり、少しは意識してもらえるかもしれないと、希望を持ってしまいました」
 サーヤはそう言ってため息をつくと、食事の手を止める。サラは暫くサーヤから視線を外して朝食を取ることに専念した。

「私、どうしたらいいですかね? まだハウザー様のことを嫌いにはなれないですけど、できればこれまでと同じように接してもらいたいです」
 サーヤが真剣にサラに聞いたので、
「大丈夫よ、あの人、普通に接してれば、何もなかったようにいつも通りにしてくれるわ。仕事中はその辺ちゃんとしてるのよ」

 サラは大きな口を開けて笑った。サーヤはその言葉に救われつつも、好きになったカイ・ハウザーという男性への望みを断ち切る覚悟は、まだできずにいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

あなたが残した世界で

天海月
恋愛
「ロザリア様、あなたは俺が生涯をかけてお守りすると誓いましょう」王女であるロザリアに、そう約束した初恋の騎士アーロンは、ある事件の後、彼女との誓いを破り突然その姿を消してしまう。 八年後、生贄に選ばれてしまったロザリアは、最期に彼に一目会いたいとアーロンを探し、彼と再会を果たすが・・・。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...