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the 16th night 身内の存在
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その夜、レナの自室ではレナとカイが昼間に起きたことを振り返っていた。
「殿下がポテンシアの第四王子との見合いを進めることで、パースとの貿易が不利になる可能性については、どうなんだ?」
カイがレナに尋ねると、
「パースがルリアーナはポテンシア寄りになったと考える可能性は否定できないけど。パースからは輸入の方が多いのよ。対してポテンシアには農産物の輸出が多い。だから、そこまでパースとのことを懸念する必要は無いと思うのだけれど……」
と、レナは少し難しい顔をして言った。見合いが国際情勢に絡んでしまうのは仕方がないとはいえ、パースに対して何をすれば良いのかいい考えは浮かばない。
昼間、カイが不躾にフィルリ7世に尋ねたことがある。
『殿下の親族というのは、どなたになるんですか?』
スウが、レナは身内から狙われていると言い切っていた。フィルリ7世がレナの遠縁の親戚であれば、その辺の事情を知っていてもおかしくはない。
カイはフィルリ7世の出方を窺っていたが、さすが政治家というのだろうか、意に介した様子を見せずに、
「王女の護衛が何を聞きたいのか分からないが、王家の生き残りは、そこにおられるレナ・ルリアーナ様、ただひとりですよ」
とハッキリ言い切った。カイはそのフィルリ7世の様子をじっくり観察していたが、嘘をついているようにも、焦っているようにも見えなかった。
「急に王女の親族を気にするなど、何かあったのですか? 婚姻に向けて招待状の必要でも?」
フィルリ7世はそう言って少しカイを馬鹿にしたように笑うと、その話を終わらせてしまったのだった。
(スウの言う『身内』とは、やはり遠縁の親戚筋も知らないところで生存しているということなのだろうか……?)
カイは、フィルリ7世の言っていることも、スウの言っていることも、直感でどちらも嘘はないのだろうという気がしていた。
レナの身内が生きているのであれば、フィルリ7世こそ何かしらの行動をとっていたに違いないし、スウの占術がどれ程信頼できるものなのかは分からないが、かなりの精度がありそうな気がしている。
「カイ……? 急に黙ってどうしたの?」
考え事をしていたカイの前に急にレナの顔があったので、カイは思わず驚いて後ずさりしていた。
「護衛の癖に、私が近付いただけでその動揺っぷりは、おかしいんじゃないかしら……」
レナは少し頬を膨らませて不本意そうにカイを見る。王女に驚いてしまったのは護衛として恥ずべきことかもしれないと、カイはレナの言うことに反論できなかった。
「少し、気になることを思い出しただけだ」
カイはそう言って咳ばらいをして自分の動揺を誤魔化そうとする。なおもカイを覗き込むように見ていたレナに、何か言いたいことでもあるのだろうかとカイは横目でレナを見た。
「昼間、フィルリ7世に聞いていた、私の身内のこと?」
レナはそう言ってカイをじっと見つめる。
「ああ、どういうことなのかと、気になっていた」
カイは、鋭い予想をしたレナに正直に答えた。
「スウは、あの日……私の身内が私を狙っているって言ったわよね……」
レナが寂し気に口にしたことに、カイは何も考えずに身内の話をしてしまったことを反省した。
例えレナに身内がいたとしても、それがレナにとって好ましいことだとは限らない。むしろ、命を狙われているのだとしたら、レナはその存在を知らない方が幸せかもしれないのだ。
「ああ……そうだったな」
カイは気まずそうにそう言うと、すぐ近くにいるレナをじっと見つめる。薄暗い自室で、レナは自分をじっと見つめる護衛の姿をしっかりと目に焼き付けると、
「もしも……その身内が私を狙ったら……あなたはどう行動するの?」
と静かにカイに尋ねた。
「殿下を狙う者は、誰であろうと排除するつもりだが」
カイはそう言って迷いのない目でレナをまっすぐ見る。レナは、少し自分の胸の奥が揺さぶられたような気がしたが、
「そう。ハッキリしているのね」
と表情を変えずにカイを見つめ返した。
排除、とは恐らく穏やかではないことなのだろう。レナは、この先にどんな試練が待っていても、この目の前の護衛の判断を信じようと思う。カイはレナの強い目を見て、軽く口角を上げた。
「殿下がポテンシアの第四王子との見合いを進めることで、パースとの貿易が不利になる可能性については、どうなんだ?」
カイがレナに尋ねると、
「パースがルリアーナはポテンシア寄りになったと考える可能性は否定できないけど。パースからは輸入の方が多いのよ。対してポテンシアには農産物の輸出が多い。だから、そこまでパースとのことを懸念する必要は無いと思うのだけれど……」
と、レナは少し難しい顔をして言った。見合いが国際情勢に絡んでしまうのは仕方がないとはいえ、パースに対して何をすれば良いのかいい考えは浮かばない。
昼間、カイが不躾にフィルリ7世に尋ねたことがある。
『殿下の親族というのは、どなたになるんですか?』
スウが、レナは身内から狙われていると言い切っていた。フィルリ7世がレナの遠縁の親戚であれば、その辺の事情を知っていてもおかしくはない。
カイはフィルリ7世の出方を窺っていたが、さすが政治家というのだろうか、意に介した様子を見せずに、
「王女の護衛が何を聞きたいのか分からないが、王家の生き残りは、そこにおられるレナ・ルリアーナ様、ただひとりですよ」
とハッキリ言い切った。カイはそのフィルリ7世の様子をじっくり観察していたが、嘘をついているようにも、焦っているようにも見えなかった。
「急に王女の親族を気にするなど、何かあったのですか? 婚姻に向けて招待状の必要でも?」
フィルリ7世はそう言って少しカイを馬鹿にしたように笑うと、その話を終わらせてしまったのだった。
(スウの言う『身内』とは、やはり遠縁の親戚筋も知らないところで生存しているということなのだろうか……?)
カイは、フィルリ7世の言っていることも、スウの言っていることも、直感でどちらも嘘はないのだろうという気がしていた。
レナの身内が生きているのであれば、フィルリ7世こそ何かしらの行動をとっていたに違いないし、スウの占術がどれ程信頼できるものなのかは分からないが、かなりの精度がありそうな気がしている。
「カイ……? 急に黙ってどうしたの?」
考え事をしていたカイの前に急にレナの顔があったので、カイは思わず驚いて後ずさりしていた。
「護衛の癖に、私が近付いただけでその動揺っぷりは、おかしいんじゃないかしら……」
レナは少し頬を膨らませて不本意そうにカイを見る。王女に驚いてしまったのは護衛として恥ずべきことかもしれないと、カイはレナの言うことに反論できなかった。
「少し、気になることを思い出しただけだ」
カイはそう言って咳ばらいをして自分の動揺を誤魔化そうとする。なおもカイを覗き込むように見ていたレナに、何か言いたいことでもあるのだろうかとカイは横目でレナを見た。
「昼間、フィルリ7世に聞いていた、私の身内のこと?」
レナはそう言ってカイをじっと見つめる。
「ああ、どういうことなのかと、気になっていた」
カイは、鋭い予想をしたレナに正直に答えた。
「スウは、あの日……私の身内が私を狙っているって言ったわよね……」
レナが寂し気に口にしたことに、カイは何も考えずに身内の話をしてしまったことを反省した。
例えレナに身内がいたとしても、それがレナにとって好ましいことだとは限らない。むしろ、命を狙われているのだとしたら、レナはその存在を知らない方が幸せかもしれないのだ。
「ああ……そうだったな」
カイは気まずそうにそう言うと、すぐ近くにいるレナをじっと見つめる。薄暗い自室で、レナは自分をじっと見つめる護衛の姿をしっかりと目に焼き付けると、
「もしも……その身内が私を狙ったら……あなたはどう行動するの?」
と静かにカイに尋ねた。
「殿下を狙う者は、誰であろうと排除するつもりだが」
カイはそう言って迷いのない目でレナをまっすぐ見る。レナは、少し自分の胸の奥が揺さぶられたような気がしたが、
「そう。ハッキリしているのね」
と表情を変えずにカイを見つめ返した。
排除、とは恐らく穏やかではないことなのだろう。レナは、この先にどんな試練が待っていても、この目の前の護衛の判断を信じようと思う。カイはレナの強い目を見て、軽く口角を上げた。
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