アメイジング・ナイト ―王女と騎士の35日―

碧井夢夏

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the 15th day 騎士たちのこだわり

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「レナ様と夕食ですか……? ルイス様ですらご一緒されたことが無いのに、それはちょっと……」
 ブラッドは、ルイスに遠慮して喜ぶことも忘れていた。

「そんなことを言ったら、俺こそイチ護衛で、同盟国でもなんでもない異国の人間だぞ。あの王女は割と頑固で、こちらが断っても理解してくれない」
 カイはそう言ってブラッドに諦めさせようと説得したが、ブラッドは納得いっていないようだった。

「ブラッド、あんたって結構硬いのねえ」
 サラがブラッドの態度に感心しているのをカイは一瞥し、
「じゃあ、この国の王女殿下の命令に背いて、夕食は辞退するか?」
 とブラッドに視線を移さずに言い放った。
「さすが、痛いところを突くな……」
 ブラッドは、それ以上何も言うことはなかった。


「いや、ブラッドが客人なんだから上席だろう」
「ふっざけんなよ、どういう理屈だよ? 今はあんたの下で働いてるだろ……上席なんて、死んでも御免だ」
「どっちでもいいから早く決めてくださいよ」

 さっさと末席についたサラの横で、どちらが上席に着くかを巡ってカイとブラッドは譲らない。
 サラは、このまま誰が上席に着くか決まらずにレナが登場しそうだなと思っていると、
「護衛業をされている方にとって、上席は不名誉になるんですか?」
 と城のバトラーをしているハオルが3人に向かって不思議そうに尋ねた。

「いや、そういうわけではないのですが……」
 ブラッドはしまったという顔をしてハオルに頭を下げると、その隙にカイが隣の席に座ってしまった。
「てっめぇ……。覚えてろよ……」
 ブラッドは小声でカイに恨み節を唱えてしぶしぶ上席に着いたが、カイは何も聞こえていないフリで澄ましている。

「それでは、王女を呼びますね」
 ハオルは無事に席に着いた3人を確認すると隣の部屋にレナを呼びに行った。
 隣の部屋で人の声が少し聞こえると、すぐにレナが部屋に入ってくる。ダークブルーのアフタヌーンドレスに着替え、髪をハーフアップにして少し濃いメイクを施したレナは、普段より落ち着いた女性の雰囲気がしていた。

(あの王女が正面に座るとか、勘弁してくれ……)
 ブラッドはすぐにレナの姿を見て落ち込んでいた。ルイスですらレナと向かい合って食事をしたことがないのに、何故自分がこの位置に座っているのだろうか。隣に澄まして座る黒髪の男が恨めしい。

 レナは正面に座っているブラッドを確認すると、
「どうせカイが上席はブラッドに、なんて言ったんでしょうね。ここではあまり上下関係なしで過ごしたいから、あまり深く考えなくても大丈夫よ」
 と、ブラッドにフォローを入れて席に着く。ブラッドは自分の正面に座ったレナの目線が随分下にあったことに驚いた。

(殿下は、こんなに小柄なのだな……)

「ブラッド、食前酒などはいかが? 果実酒でも?」
 レナに勧められると、ブラッドは素直に、
「では、いただきます」
 と答えた。カイは隣で、
「俺は要らない」
 と相変わらず禁酒の姿勢を崩さない。ブラッドは真面目な態度のカイをいよいよ恨めしく睨んだ。

「ルリアーナの果実酒、好きですね。ポテンシアの果実酒とは比べ物になりません」
 ブラッドが食前酒を一口飲むと少し砕けた表情で言った。
「同盟国の方にそう言っていただけるとありがたいわ。果実酒の製造は技術が要るので、この国の大事な産業なの」
 レナはブラッドの言葉を喜び、カイとサラにも勧めたが、2人は頑なに断っていた。

「ルリアーナの果実酒、好きですね。ポテンシアの果実酒とは比べ物になりません」
 ブラッドが食前酒を一口飲むと少し砕けた表情で言った。
「同盟国の方にそう言っていただけるとありがたいわ。果実酒の製造は技術が要るので、この国の大事な産業なの」
 レナはブラッドの言葉を喜び、カイとサラにも勧めたが、2人は頑なに断っていた。

「さて、今日この場を設けたのは、少しお伝えしたいことがあったからです。特にブラッドに……」
 3人はレナの改まった話し方に、大事なことが伝えられるのだろうと身構えた。前菜が目の前に運ばれてきたが、レナの言葉を待って手を付けずに息を飲んでいる。

「ルイス様に、お手紙を出しました。また改めてルリアーナに来ていただく日程についてと、これからのことを前向きに進めたい旨を伝えています。今まで沢山の方に会ってきて、ルイス様ほど協力的に動いてくれる方はいなかったので、しっかり向き合ってみようと思って」

 レナの言葉が進むのにつれて、ブラッドは感極まって喉の奥を熱くした。果実酒が通った場所に、アルコールが普段以上に効いているような気がする。

「そうか。もう少し時間が掛かるかと思ったが、案外早かったな」
 カイがそう言うと、
「見合いが先に進むのは好ましいが、あまり前向きな理由に聞こえない気がするんだが……本当に納得したんだな?」
 と念押しをするように言った。

「無礼だな、言い方も、内容も」
 ブラッドがカイに向かって苛立ちを隠さずに言うと、レナは、
「良いのよ、カイにはこうで居てもらわないと、私が落ち着かないの」
 とフォローを入れる。少し元気が無いレナに、ブラッドの心が少し痛んだ。

「パースとのことや、ポテンシアとの国境が攻められやすいという問題を考えれば、ルイス様のようなポテンシアの王族と繋がっているのが一番だっていう結論ですか」
 ブラッドの質問に、レナは何も言えなくなっている。

「じゃあ、ルイス様のご兄弟が見合いに現れたら、そちらの方が魅力的ですね。ルイス様は、ひとりだけ身分の低い奥方様のご子息ですし」
 と、悲痛な表情で付け加えた。

「違うわ、ブラッド。これまでの一連の行動があっての、ルイス様だったのよ。決して後ろ向きな気持ちで決めたわけじゃないの」
 レナはブラッドの様子を見て慌てて弁解した。ブラッドは見た目に寄らず、繊細らしい。

「この際聞いておくが、殿下のこだわっていた見合い相手の条件は、もうどうでもいいのか?」
 カイはブラッドの様子を気にも留めずにレナに問いただした。

「どうでも良くはないわよ。ただ、色々なことを考えると、取るに足りない条件でしょ。たかだか19歳の頭で捻り出した精一杯の理想だってことは、カイだって分かっているんじゃないの?」
 レナはそう言うと、3人に食事を促した。

 ブラッドは果実酒をぐっと飲み干すと、
「こんなことを私が言うのは筋違いかもしれませんが、ルイス様は見合いのことがなくても殿下のために動く方です。あの方は私に、ルリアーナの美しさや農業の尊さ、殿下の気高さを自慢してくれました。最終的に殿下がルイス様を選ばなくても、誰も殿下を責めません」
 と相変わらず悲痛な表情で語った。

「ありがとう。今の言葉でハッキリしたことがあるわね。ルイス様は人を見る目も確かで、部下を育てることにも長けた方で、単に王族という理由で人の上に立つ方ではないようだわ」
 レナはそう言って正面に座るブラッドに静かに微笑んだ。
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