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the 15th day 通信成功
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レナは、隣国ポテンシアの第四王子、ルイスへの手紙を書く手が止まっていた。
真剣に考えなければいけないのだと分かっていても、いわゆる「覚悟」というものがなかなかできない。
ふと、シンとロキと3人で話した日のことを思い出す。あの日のように、何気なく気持ちを吐き出す先が欲しかった。
机の上に置いた黒い石の入った指輪を、なんとなく指でいじってみる。
(スウは、これを使って離れた人と会話が出来ると言っていたわね)
じっと見ていると、その石の黒に吸い込まれそうな大きな力を感じる。
(できるかも、しれない…………)
レナは緊張から、生唾をごくりと飲んだ。でも、誰と会話をすればいいのだろうか。
相談相手がいないことが日頃から不満だったのが、カイが来て解決したはずだった。それが、カイへの好意を拒絶されるような言葉を聞いて以来、ルイスのことを相談する勇気が出ないでいた。
掌の上で指輪を転がしながら、レナは告白された夜に見たロキの顔を思い出し、もう以前のように気軽に相談ができる関係ではないのだと悲しくなった。
「どうしたら良かったの……?」
レナが呟いたその時、指輪の石が少し怪しく赤く光ったように見える。
「?」
レナは不審に思い、指輪をじっと見つめた。
「幻聴かな。すごいハッキリ聞こえたんだけど。」
今度は、指輪を通して声が聞こえてくる。
(この声は……)
「ロキ?」
レナは、思わず黒い石に向かって語り掛けた。
「うわ、やっぱり聴こえてる。とうとう幻聴が聴こえるような末期症状が……」
「幻聴じゃ、ないの。ごめんなさい、私、今、呪術が使えたみたい」
レナはそう言って、混乱しているらしい声の持ち主に話をする。
「えっ? 会話になってる?」
動揺しているらしいロキの声に、レナは少し和んだ。
「そう、今、遠くにいる人と話ができる術を練習しているの」
もう前の通りには話せないと思っていたのに、何故か普通に話さなければならない状況になっていた。
「そんな術があるんですか……今は、移動中でシンは先を歩いているんですけど、呼びますか?」
案外普通に話せるものだと、レナもロキも今まで通りに会話をしている。
「うーん、折角成功したことだし……今、ちょっとだけロキと話したいんだけど。」
と、レナはロキに伝えた。
「……それ、喜んじゃダメなんでしょうね。なんか、俺にとって良くないことを言われるとか、そういうやつですか」
そう言うロキの声が少しだけ暗かったので、レナは、
「実業家だって聞いたわよ」
と、すかさず言いたいことを伝えた。
「ああ、別に隠してたわけじゃないんですけど……。この国には、あくまでも雇われ騎士として来ているし、本業で何をやっているかなんて殿下にあんまり関係ないじゃないですか」
ロキは拍子抜けしていた。てっきり、もう少し残酷なことを言われるのだろうと覚悟をしていた。
「でも、まさかあなたが組織を持って事業をしていたなんて、知らなかったもの。私があなたを怒らせたのも、その辺にあるような気がして……。あのね、できればロキとは今まで通り話したい。それはもう、難しいのかしら」
レナは、顔が見えないからこそ思い切って聞いた。
「いいんですか? あんなことがあったのに、今まで通りで」
ロキはレナからそんな提案が出るとは思っていなかった。
今まで通りに話をするのは難しいだろうと諦めていたのは、むしろロキの方だ。
「あんなことって……。あの日、私が何か間違えたんだろうと、後悔していたから……。人と人の間には身分の違いがないなんて、軽く言ってごめんなさい」
謝るレナに、
「あの時は本当にすいませんでした……。後になって思えば、殿下は身分の違いを意識しないで向き合ってくれてたってことだと気付きました……」
と、ロキは申し訳なさそうに言う。
「ちょっと聞いてもらってもいい……? 私ね、ルイス様との婚約、進めてみようと思っているの」
レナは誰かに吐き出したかったことを、初めて口に出した。
「決めたんですか?」
「これまでのやり取りから、ルイス様はこの国に入ってもらうのに理想的な相手だと分かっていたんだけど……なかなか決心がつかなかっただけよ」
レナがそう言うと、
「迷っているなら、無理矢理決めなくても良いんじゃないですか? ……っていうのは……所詮部外者の意見ですかね……」
と、ロキは少し心配そうにレナに声を掛けた。
「先延ばしにしても、結果は変わらないんだなと……そろそろ分かってきてしまったのかも」
レナはポツリと言うと、ああそうだったのだと、自分が口にしたことに納得をした。
「何となく分かりますけど……自分の感情を無視してその決断をするのは、辛いんじゃないですか? ……心配くらいはさせて下さい」
ロキが言った言葉はもっともだった。レナには大丈夫だと言い切る自信はない。そんな自分に少し情けなくなりながら、
「ありがとう」
とお礼だけを言うに留めた。
「ずっとロキに謝りたかったから、話せて良かったわ」
と付け加え、机の上にあるルイス宛の手紙を見る。
「いえ……謝らなきゃいけないのはこちらの方なのに。ありがとうございました。声が聴けて、嬉しかったです」
ロキはレナの決断が固いことを理解し、それ以上、何かを言うのは止めた。
レナは「ええ」と小さく返事をすると、意識を指輪から離して通信を切る。スウからやり方を教わっていなかったのに、不思議と自由に使うことが出来ていた。
(私もすっかり呪術師ね)
レナは指輪を机の引き出しの一番上にしまうと、書きかけだったルイスへの手紙の続きに手を付け始めた。
真剣に考えなければいけないのだと分かっていても、いわゆる「覚悟」というものがなかなかできない。
ふと、シンとロキと3人で話した日のことを思い出す。あの日のように、何気なく気持ちを吐き出す先が欲しかった。
机の上に置いた黒い石の入った指輪を、なんとなく指でいじってみる。
(スウは、これを使って離れた人と会話が出来ると言っていたわね)
じっと見ていると、その石の黒に吸い込まれそうな大きな力を感じる。
(できるかも、しれない…………)
レナは緊張から、生唾をごくりと飲んだ。でも、誰と会話をすればいいのだろうか。
相談相手がいないことが日頃から不満だったのが、カイが来て解決したはずだった。それが、カイへの好意を拒絶されるような言葉を聞いて以来、ルイスのことを相談する勇気が出ないでいた。
掌の上で指輪を転がしながら、レナは告白された夜に見たロキの顔を思い出し、もう以前のように気軽に相談ができる関係ではないのだと悲しくなった。
「どうしたら良かったの……?」
レナが呟いたその時、指輪の石が少し怪しく赤く光ったように見える。
「?」
レナは不審に思い、指輪をじっと見つめた。
「幻聴かな。すごいハッキリ聞こえたんだけど。」
今度は、指輪を通して声が聞こえてくる。
(この声は……)
「ロキ?」
レナは、思わず黒い石に向かって語り掛けた。
「うわ、やっぱり聴こえてる。とうとう幻聴が聴こえるような末期症状が……」
「幻聴じゃ、ないの。ごめんなさい、私、今、呪術が使えたみたい」
レナはそう言って、混乱しているらしい声の持ち主に話をする。
「えっ? 会話になってる?」
動揺しているらしいロキの声に、レナは少し和んだ。
「そう、今、遠くにいる人と話ができる術を練習しているの」
もう前の通りには話せないと思っていたのに、何故か普通に話さなければならない状況になっていた。
「そんな術があるんですか……今は、移動中でシンは先を歩いているんですけど、呼びますか?」
案外普通に話せるものだと、レナもロキも今まで通りに会話をしている。
「うーん、折角成功したことだし……今、ちょっとだけロキと話したいんだけど。」
と、レナはロキに伝えた。
「……それ、喜んじゃダメなんでしょうね。なんか、俺にとって良くないことを言われるとか、そういうやつですか」
そう言うロキの声が少しだけ暗かったので、レナは、
「実業家だって聞いたわよ」
と、すかさず言いたいことを伝えた。
「ああ、別に隠してたわけじゃないんですけど……。この国には、あくまでも雇われ騎士として来ているし、本業で何をやっているかなんて殿下にあんまり関係ないじゃないですか」
ロキは拍子抜けしていた。てっきり、もう少し残酷なことを言われるのだろうと覚悟をしていた。
「でも、まさかあなたが組織を持って事業をしていたなんて、知らなかったもの。私があなたを怒らせたのも、その辺にあるような気がして……。あのね、できればロキとは今まで通り話したい。それはもう、難しいのかしら」
レナは、顔が見えないからこそ思い切って聞いた。
「いいんですか? あんなことがあったのに、今まで通りで」
ロキはレナからそんな提案が出るとは思っていなかった。
今まで通りに話をするのは難しいだろうと諦めていたのは、むしろロキの方だ。
「あんなことって……。あの日、私が何か間違えたんだろうと、後悔していたから……。人と人の間には身分の違いがないなんて、軽く言ってごめんなさい」
謝るレナに、
「あの時は本当にすいませんでした……。後になって思えば、殿下は身分の違いを意識しないで向き合ってくれてたってことだと気付きました……」
と、ロキは申し訳なさそうに言う。
「ちょっと聞いてもらってもいい……? 私ね、ルイス様との婚約、進めてみようと思っているの」
レナは誰かに吐き出したかったことを、初めて口に出した。
「決めたんですか?」
「これまでのやり取りから、ルイス様はこの国に入ってもらうのに理想的な相手だと分かっていたんだけど……なかなか決心がつかなかっただけよ」
レナがそう言うと、
「迷っているなら、無理矢理決めなくても良いんじゃないですか? ……っていうのは……所詮部外者の意見ですかね……」
と、ロキは少し心配そうにレナに声を掛けた。
「先延ばしにしても、結果は変わらないんだなと……そろそろ分かってきてしまったのかも」
レナはポツリと言うと、ああそうだったのだと、自分が口にしたことに納得をした。
「何となく分かりますけど……自分の感情を無視してその決断をするのは、辛いんじゃないですか? ……心配くらいはさせて下さい」
ロキが言った言葉はもっともだった。レナには大丈夫だと言い切る自信はない。そんな自分に少し情けなくなりながら、
「ありがとう」
とお礼だけを言うに留めた。
「ずっとロキに謝りたかったから、話せて良かったわ」
と付け加え、机の上にあるルイス宛の手紙を見る。
「いえ……謝らなきゃいけないのはこちらの方なのに。ありがとうございました。声が聴けて、嬉しかったです」
ロキはレナの決断が固いことを理解し、それ以上、何かを言うのは止めた。
レナは「ええ」と小さく返事をすると、意識を指輪から離して通信を切る。スウからやり方を教わっていなかったのに、不思議と自由に使うことが出来ていた。
(私もすっかり呪術師ね)
レナは指輪を机の引き出しの一番上にしまうと、書きかけだったルイスへの手紙の続きに手を付け始めた。
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