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the 15th day 信頼と信用
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その日の朝、海辺の町で宿の朝食を食べながら、シンとロキは気まずそうにどちらから口を開こうかと様子をうかがっている。
2人がそんな状況に陥ったのは、シンが昨日バールで声を掛けられた女性に、帰り際に抱きつかれたのを偶然ロキが見てしまったからだった。
「ロキ……昨日、何か見たのかもしれないけど、誤解だからな」
シンが沈黙に耐えられなくなってロキに話しかけた。
「いや……別にシンが人恋しくなって浮気してても、見て見ぬフリするよ。俺、その辺の理解あるっていうか……全面的にシンの味方だから。誰にも言わないから安心してよ」
と、ロキは完全に割り切った見解を示す。
「おいおい、なんでそんなに信用ないんだ?何もないんだ、ほんとに。昨日見たあれは誤解だって」
シンは思わず声が大きくなり、はっと我に返って周りの目を気にした。他に朝食を取っている客が、一斉にシンの方を見ている。
「何もないって言うけど、ハッキリ見たからなあ……シンってそういうタイプじゃないのに、よっぽど寂しかったんだね。俺の方こそ、気づかなくてごめん、自分のことでいっぱいいっぱいだったのを反省したよ」
ロキがそう言ってオレンジジュースを飲みながら、シンを哀れんだ眼で見た。
「おい、その目は何だ。やめろ。違うって言ってんだろ」
いつもは無条件で自分を信頼してくれる同僚が、全くシンを信用していない。
「じゃあ聞くけど、俺が見たのを彼女に見られてても同じこと言えるわけ?」
ロキはシンが一番嫌がるであろう言葉を使って正論を吐く。シンは少し頭を抱えて、
「でも、事実として本当に何もないんだ」
と言うと、
「ちょっと積極的な子に捕まって、でも情報収集に都合が良かったから、少し利用しようとは、した……。それがあんな結果になったのは、猛烈に反省している……」
と、シンは気まずそうに斜め下を見ながら言った。
「ふうん? 確かにシンの好みのタイプじゃなかったから、それは信じるけど。タイプじゃない子つかまえて浮気なんて、シンっぽくないね」
ロキが淡々と納得していくのをシンは心からイライラしていく。
「だから、浮気じゃないって言ってるだろ」
「シンにとって浮気じゃなくても、彼女からみたら浮気でしょ。俺はそんなの気にしないし、シンに対する信頼も崩れないけどって言ってる。でも、彼女に納得させられる言い訳できる? これからのことを考えてるんなら、俺、誰にも言わないから墓場まで持っていきなよ」
ロキの言葉にシンは何も言い返せない。年下の同僚は12歳で独立して一人で生きてきただけあって、人生経験が豊富で冷静な分析も完璧だった。この手のことでシンがロキを言い負かすのは無理だろう。
「まあ、確かに、彼女に誤解されるようなことはあったかもしれない……。でも、決してそんなんじゃないんだよ。それに、誓っても良いけど、やましいことは無かった」
と水の入ったグラスを見つめながら項垂れた。
「あーもう。分かったよ。昨日のは、押しの強い子に捕まってちょっと接触事故があったってことだね。それでいい?」
ロキがそう言うと、シンの表情が途端に明るくなった。
「じゃあ、後でどっちかの部屋で少し話せる? 昨日ちょっと呪いを体験してきたんだよ。早くシンに伝えておこうと思って」
ロキは昨日教会で体験した呪術のことを早くシンに共有したかったが、誰に聞かれているか分からない場所で話すのは控えたかった。
「体験?? そうか、じゃあ、後でロキの部屋に行くよ」
シンがいつも通りの様子に戻り、ロキも少し安心する。
「ちょっと提案なんだけど、この先もう1か所訪ねたら、お城に戻らない?」
ロキの提案にシンは驚いた。
「ロキ、そんなに殿下に会いたいのか……?」
ロキは軽く笑って首を振った。
「昨日までは割とそういう気持ちもあったんだけどね。今は違うよ。現状、こっちから団長あてに一方的に連絡してるけど、団長たちの情報を入れてないからさ。人手が限られている中で無駄な動きをしてもしょうがないし、昨日は昨日で少し収穫があったかなと思うし。あと1か所はここから近いからそのまま行くとしても、その後に向かう場所はどこに行こうとしても結構遠いんだよ。一度これまでの情報を持ち寄ってから次の動きを考える時なんじゃないかな」
シンは、妙に吹っ切れているようなその様子に驚いている。
「へえ、あんなに落ち込んでたのに、前向きになってるな。何かあったのか?」
「まあ、それも後で話すけど……どうやら例の宗教のおかげみたいなんだよね」
シンはロキの告白に一気に血の気が引いた。
「なんだ……それ」
「そんなに、深刻にならなくても大丈夫だよ。昨日まで抱えていた気持ちが晴れて、あの人への気持ちも前向きに考えられるようになったんだ。参ったよね、あの人を否定している宗教に助けられるなんて」
そう言ってロキは気まずそうに笑っていた。
2人がそんな状況に陥ったのは、シンが昨日バールで声を掛けられた女性に、帰り際に抱きつかれたのを偶然ロキが見てしまったからだった。
「ロキ……昨日、何か見たのかもしれないけど、誤解だからな」
シンが沈黙に耐えられなくなってロキに話しかけた。
「いや……別にシンが人恋しくなって浮気してても、見て見ぬフリするよ。俺、その辺の理解あるっていうか……全面的にシンの味方だから。誰にも言わないから安心してよ」
と、ロキは完全に割り切った見解を示す。
「おいおい、なんでそんなに信用ないんだ?何もないんだ、ほんとに。昨日見たあれは誤解だって」
シンは思わず声が大きくなり、はっと我に返って周りの目を気にした。他に朝食を取っている客が、一斉にシンの方を見ている。
「何もないって言うけど、ハッキリ見たからなあ……シンってそういうタイプじゃないのに、よっぽど寂しかったんだね。俺の方こそ、気づかなくてごめん、自分のことでいっぱいいっぱいだったのを反省したよ」
ロキがそう言ってオレンジジュースを飲みながら、シンを哀れんだ眼で見た。
「おい、その目は何だ。やめろ。違うって言ってんだろ」
いつもは無条件で自分を信頼してくれる同僚が、全くシンを信用していない。
「じゃあ聞くけど、俺が見たのを彼女に見られてても同じこと言えるわけ?」
ロキはシンが一番嫌がるであろう言葉を使って正論を吐く。シンは少し頭を抱えて、
「でも、事実として本当に何もないんだ」
と言うと、
「ちょっと積極的な子に捕まって、でも情報収集に都合が良かったから、少し利用しようとは、した……。それがあんな結果になったのは、猛烈に反省している……」
と、シンは気まずそうに斜め下を見ながら言った。
「ふうん? 確かにシンの好みのタイプじゃなかったから、それは信じるけど。タイプじゃない子つかまえて浮気なんて、シンっぽくないね」
ロキが淡々と納得していくのをシンは心からイライラしていく。
「だから、浮気じゃないって言ってるだろ」
「シンにとって浮気じゃなくても、彼女からみたら浮気でしょ。俺はそんなの気にしないし、シンに対する信頼も崩れないけどって言ってる。でも、彼女に納得させられる言い訳できる? これからのことを考えてるんなら、俺、誰にも言わないから墓場まで持っていきなよ」
ロキの言葉にシンは何も言い返せない。年下の同僚は12歳で独立して一人で生きてきただけあって、人生経験が豊富で冷静な分析も完璧だった。この手のことでシンがロキを言い負かすのは無理だろう。
「まあ、確かに、彼女に誤解されるようなことはあったかもしれない……。でも、決してそんなんじゃないんだよ。それに、誓っても良いけど、やましいことは無かった」
と水の入ったグラスを見つめながら項垂れた。
「あーもう。分かったよ。昨日のは、押しの強い子に捕まってちょっと接触事故があったってことだね。それでいい?」
ロキがそう言うと、シンの表情が途端に明るくなった。
「じゃあ、後でどっちかの部屋で少し話せる? 昨日ちょっと呪いを体験してきたんだよ。早くシンに伝えておこうと思って」
ロキは昨日教会で体験した呪術のことを早くシンに共有したかったが、誰に聞かれているか分からない場所で話すのは控えたかった。
「体験?? そうか、じゃあ、後でロキの部屋に行くよ」
シンがいつも通りの様子に戻り、ロキも少し安心する。
「ちょっと提案なんだけど、この先もう1か所訪ねたら、お城に戻らない?」
ロキの提案にシンは驚いた。
「ロキ、そんなに殿下に会いたいのか……?」
ロキは軽く笑って首を振った。
「昨日までは割とそういう気持ちもあったんだけどね。今は違うよ。現状、こっちから団長あてに一方的に連絡してるけど、団長たちの情報を入れてないからさ。人手が限られている中で無駄な動きをしてもしょうがないし、昨日は昨日で少し収穫があったかなと思うし。あと1か所はここから近いからそのまま行くとしても、その後に向かう場所はどこに行こうとしても結構遠いんだよ。一度これまでの情報を持ち寄ってから次の動きを考える時なんじゃないかな」
シンは、妙に吹っ切れているようなその様子に驚いている。
「へえ、あんなに落ち込んでたのに、前向きになってるな。何かあったのか?」
「まあ、それも後で話すけど……どうやら例の宗教のおかげみたいなんだよね」
シンはロキの告白に一気に血の気が引いた。
「なんだ……それ」
「そんなに、深刻にならなくても大丈夫だよ。昨日まで抱えていた気持ちが晴れて、あの人への気持ちも前向きに考えられるようになったんだ。参ったよね、あの人を否定している宗教に助けられるなんて」
そう言ってロキは気まずそうに笑っていた。
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