アメイジング・ナイト ―王女と騎士の35日―

碧井夢夏

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the 15th day 無意識にあるもの

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 ブラッドは、同室にいる異国の騎士を眺めていた。そろそろ見慣れても良い頃なのに、未だに嫉妬心が沸きあがってくる見た目をしている。
「…………? 何か言いたいことでもあるのか?」
 カイはブラッドの視線を感じて尋ねた。
「言いたいこと……まあ、あるっちゃあるというか。その歳で、イチから作った騎士団抱えて有名になるって、すごいことだなと思っただけだ」

 ブラッドに褒められたので、カイは、
「いや、ポテンシアで王族付きの近衛兵をやっているような立場の人間にすごいと言われるような地位まで行っていない。うちは弱小貴族でね、父親の傭兵隊をまるごと雇おうとしたら事業化して仕事が成り立つようにするしかなかっただけだ」
 と謙遜した。事実、ポテンシアの近衛兵で王族付きのブラッドは国内では超エリートである。

「弱小貴族ねえ……。この間いた若い男たちなんかは貴族階級じゃないんだろ?」
 ブラッドはカイの組織が気になっていた。
「勿論、うちの団員に貴族階級出身者はいない。会計を任せている令嬢が貴族階級だが、例外だな」
 カイの言葉にブラッドは興味津々に身を乗り出して聞いていた。

「それはやっぱり、ブリステの『騎士爵』目当ての若者を雇って平民をスカウトしてるからなんだな?」
 ブラッドに聞かれてカイは、
「まあ、結果的にはそうなるか。そこに惹かれて団員になったのは実質1名しかいないが」
 と答えた。

「ブリステも地方は貧しいんだ。仕事がないとか字が読めないような若いやつの中で、芽の出そうなのを見つけたら声を掛けて仕事を斡旋しているだけで、本当はこんな命を懸ける仕事をさせたいとは思っていない」

 カイの言葉にブラッドは少し驚いていた。カイはあまり感情が豊かでないタイプかと思っていたが、若者にちゃんと向き合っているらしい。

「ポテンシアの貧しい地域ほどじゃないが、という意味を含んでいるような言い方だな。確かに、ポテンシアは貧富の差が激しいよ。でも、ブリステで戦争を仕事にしているあんたなら分かるだろ……? 貧しいのは争いが絶えない上に、土地が痩せていて食糧難になりやすいからだ。ポテンシアは野蛮な東洋人からの侵攻も何度かあったしな。そんなわけで近衛兵は国で重宝される」

 ブラッドの言葉に、カイは小さく笑った。
「その野蛮な東洋人の血を引く俺に、何か言いたいことがあるのか?」

 ブラッドはその言葉にハッとした。
「そうか、その見た目は、東洋人の血を引いているのか……。身近にあまりいない見た目だなとは思っていたが」
 ブラッドは過去東洋人の侵攻にも立ち会ったことがある。そう言えば、カイの見た目は東洋人の特徴に通じるところがあった。

「ブリステでも、よく差別に遭っているが。ポテンシアでも東洋人は差別対象だろう」
 カイに聞かれ、ブラッドは正直に頷いた。

「俺は東洋から来た騎馬民族の残忍さを目の当たりにしたからな。東洋人に良い感情は持っていない。もしハウザー殿があの残忍さを感じる人格だったら、すぐにこの仕事を降りていただろうな」
 ブラッドはそう言うと、カイを眺めて、
「ハウザー殿には、全く東洋人の印象を持たなかったな。それに、凄腕らしいとは聞こえて来ていたが、残忍さは伝わって来ていない」
 と言ってカイをフォローしている自分に少しむずがゆくなっていた。

「それは有難いな。一部の貴族連中からは、俺の評判は相当悪いらしいぞ。まあ、受ける仕事の価格は高めのものだけにしているし、騎士道精神なんかには全く興味が無いし、そもそも条件が悪いものは受けないことにしているからな」
 カイがそう言って笑うと、ブラッドは身支度を始めながら、
「それは聞いたことがある。ブリステには金の亡者がやっている若い団長の騎士団があると」
 とハッキリ答えた。

「金の亡者か……どいつもこいつも……高い報酬を支払えないような命がけの仕事など、仕事に値しない。それが亡者か」
 カイはそう言うと上着を羽織り、ブラッドを見る。
「うちにもポテンシア出身の若いのが2名ほど在籍しているが、ブラッドは奴らに比べて随分育ちが良さそうだな。近衛兵の王族付きともなると、意識も違うのか」
 ブラッドはカイの美しい顔で褒められ、思わず照れたが我に返って自己嫌悪に陥る。

(あっぶねー……一瞬美女にでも褒められた気分になった……)
「ハウザー殿は、その顔で随分多くの人を丸め込んでいるだろう」
 ブラッドが気を取り直して尋ねると、カイは、
「さあな。部下にはもっと顔を使って営業しろと言われているが、愛想だけはいつまで経ってもよくならない」
 と言って帯剣してブラッドを眺めた。

「さて、そろそろ行くか」
 カイに声を掛けられると、
「ああ」
 とブラッドはカイに続く。カイは、この場にポテンシアを襲った民族の血を引くハンがいたらどうなっていたのだろうかと、任務を外れたハンを思い出していた。
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