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the 14th day 国王、動く
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ポテンシア国王は、自身の黒味がかった茶色の髪を指先でくるくるといじりながら、信頼している間諜からの報告を興味深く読んでいた。
国王の肩下まで伸びた長い髪は、癖が強くウェーブがかっている。目の周りにくっきりと刻まれた皺からは、この国王の気難しさと思慮深さをうかがうことができた。
さて、この報告で上がっている第四王子のルイスは、国王にとって一番興味深い息子だ。
国王は身分の低い側室がひとりだけ居た。愛妾としてしか認められないような身分で王に嫁いだ女性。本来であれば華やかなシンデレラストーリーにでもなりそうな彼女の、唯一の息子がルイスだった。
ルイスは野望が無く自由人で、柔軟な発想ができる。他の王子に比べ王位継承権が極端に低いことを早くに理解し、自分の能力をうまく隠して兄たちから相手にされずに生きていた。一見すると無能に見える様子は、国王にとって目が離せない存在だった。
そのルイスが、ルリアーナ王女との見合いに行きたいと連絡を寄越し、そのために信頼のおける間諜を付けたいと言ってきた時は、いよいよ楽しいことが起こりそうな予感に胸が躍った。
まさかあのルイスが、ルリアーナに婿入りしたいなど一体何があったのだろうか。ルリアーナ王女は可愛らしい姿はしているが、決してポテンシア中を探して代わりが見つからないような特別な美姫ではない。あまりに理解不能なルイスの行動に、国王は信頼の置ける間諜として側に置いていたレオナルドを派遣し、逐一報告をさせることにしたのだった。
レオナルドからの最初の報告は、ルイスが本当にルリアーナ王女を気に入っているらしいという内容だった。その報告を一度読んで国王は王女の姿を思い出してみたが、何があの無関心な息子の心を動かしたのか理解に苦しむ。
国王にとってレナの見た目はどこにでもいそうな女性だ。農業国で小さな国の王位継承者として育ってきた、気ばかりが強い生意気な少女としての印象しかなく、国王は次の報告を待ち遠しく待った。
2通目の報告で、どうやらルイスが農業国としてのルリアーナを大層気に入っているらしいこと、そして王女の隣に立つことに異様に執着しているらしいことが分かった。
その内容に、国王は衝撃を受ける。あの何事にも無関心だったルイスが、農業国に惹かれ、王女の隣に立ちたいという。そのために護衛やレオナルドを使ってルリアーナ内の汚職を解決することで、縁談を進めているらしい。我が子ながら、周りから固めていく様子が痛快だった。
そして、今回国王に届いた報告は特に想像を超える内容になっていた。
『ルリアーナ国内に密かに蔓延っているらしい呪術と指導者の存在を探りに、ルリアーナで修道士になってきます。暫くの間、連絡が途絶えるかもしれませんが、ルイス様はポテンシアに戻っておりますので、別行動になります』
(呪術と指導者か……修道士になるとは、レオナルドは相変わらずストイックな調査方法を取る。面白そうな話だが、暫くは状況が分からないのか……ルイスがその間に何をしているのかも気になるな)
ポテンシア国王は早速、すぐ近くにいる自分付きの間諜に声を掛けた。
「ルイスがルリアーナ王女に執心らしい。レオナルドはルリアーナから暫く帰ってこられそうにないのだが、ルイスが何をしようとしているか探れるか?」
気配を消したまま背後にいた間諜は静かに頷くと、
「それでは、ルイス様のところに行って参ります」
と言ってすぐに姿を消した。
(ルイスがルリアーナか……それはそれで、惜しいな……)
退屈凌ぎに丁度良い息子の動向が、ルリアーナに行くことになったら他人事になってしまう。それに、第四王子の能力を考えると、ルリアーナのような単なる同盟国の小国に渡してしまうのは、どうも納得がいかなかった。
(さて、どうしたものか)
ポテンシア国王は指で自分の髪のをくるくると回しながら、ルリアーナの地図をじっと見つめ、暫く様々な可能性について考えを巡らせていた。
国王の肩下まで伸びた長い髪は、癖が強くウェーブがかっている。目の周りにくっきりと刻まれた皺からは、この国王の気難しさと思慮深さをうかがうことができた。
さて、この報告で上がっている第四王子のルイスは、国王にとって一番興味深い息子だ。
国王は身分の低い側室がひとりだけ居た。愛妾としてしか認められないような身分で王に嫁いだ女性。本来であれば華やかなシンデレラストーリーにでもなりそうな彼女の、唯一の息子がルイスだった。
ルイスは野望が無く自由人で、柔軟な発想ができる。他の王子に比べ王位継承権が極端に低いことを早くに理解し、自分の能力をうまく隠して兄たちから相手にされずに生きていた。一見すると無能に見える様子は、国王にとって目が離せない存在だった。
そのルイスが、ルリアーナ王女との見合いに行きたいと連絡を寄越し、そのために信頼のおける間諜を付けたいと言ってきた時は、いよいよ楽しいことが起こりそうな予感に胸が躍った。
まさかあのルイスが、ルリアーナに婿入りしたいなど一体何があったのだろうか。ルリアーナ王女は可愛らしい姿はしているが、決してポテンシア中を探して代わりが見つからないような特別な美姫ではない。あまりに理解不能なルイスの行動に、国王は信頼の置ける間諜として側に置いていたレオナルドを派遣し、逐一報告をさせることにしたのだった。
レオナルドからの最初の報告は、ルイスが本当にルリアーナ王女を気に入っているらしいという内容だった。その報告を一度読んで国王は王女の姿を思い出してみたが、何があの無関心な息子の心を動かしたのか理解に苦しむ。
国王にとってレナの見た目はどこにでもいそうな女性だ。農業国で小さな国の王位継承者として育ってきた、気ばかりが強い生意気な少女としての印象しかなく、国王は次の報告を待ち遠しく待った。
2通目の報告で、どうやらルイスが農業国としてのルリアーナを大層気に入っているらしいこと、そして王女の隣に立つことに異様に執着しているらしいことが分かった。
その内容に、国王は衝撃を受ける。あの何事にも無関心だったルイスが、農業国に惹かれ、王女の隣に立ちたいという。そのために護衛やレオナルドを使ってルリアーナ内の汚職を解決することで、縁談を進めているらしい。我が子ながら、周りから固めていく様子が痛快だった。
そして、今回国王に届いた報告は特に想像を超える内容になっていた。
『ルリアーナ国内に密かに蔓延っているらしい呪術と指導者の存在を探りに、ルリアーナで修道士になってきます。暫くの間、連絡が途絶えるかもしれませんが、ルイス様はポテンシアに戻っておりますので、別行動になります』
(呪術と指導者か……修道士になるとは、レオナルドは相変わらずストイックな調査方法を取る。面白そうな話だが、暫くは状況が分からないのか……ルイスがその間に何をしているのかも気になるな)
ポテンシア国王は早速、すぐ近くにいる自分付きの間諜に声を掛けた。
「ルイスがルリアーナ王女に執心らしい。レオナルドはルリアーナから暫く帰ってこられそうにないのだが、ルイスが何をしようとしているか探れるか?」
気配を消したまま背後にいた間諜は静かに頷くと、
「それでは、ルイス様のところに行って参ります」
と言ってすぐに姿を消した。
(ルイスがルリアーナか……それはそれで、惜しいな……)
退屈凌ぎに丁度良い息子の動向が、ルリアーナに行くことになったら他人事になってしまう。それに、第四王子の能力を考えると、ルリアーナのような単なる同盟国の小国に渡してしまうのは、どうも納得がいかなかった。
(さて、どうしたものか)
ポテンシア国王は指で自分の髪のをくるくると回しながら、ルリアーナの地図をじっと見つめ、暫く様々な可能性について考えを巡らせていた。
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