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the 14th day 忠告と見合い
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その日は午前中からレナに見合いの予定が入っていた。パースから伯爵が来るとあって、レナは先日会ったクリストファーを思い出して緊張していた。
カイの誘導で応接室に到着する。部屋にはカイとブラッドが護衛に入り、サラは扉の前で待機した。
「本日は、パースからお越しいただきまして、どうもありがとうございます」
レナが頭を下げて挨拶をすると、護衛を側に1名連れた20代後半くらいの、物静かな雰囲気の男性が笑顔で座っていた。肩まで伸ばした赤毛が印象に残る。
「本日は、機会をいただきましてありがとうございます」
パースから来た伯爵はレナの手の甲に口付けをすると、穏やかに笑みを浮かべた。レナはひとまず安心して着席を促す。
「王女殿下の護衛の方、パースで兵士として活躍をされていた方では?」
伯爵にカイの素性が気付かれたので、
「ええ、よくご存じですね。実は2週間前から護衛を依頼しております」
とレナが答えた。
カイは自分のことを知っている人間が訪れたことに少し居心地の悪さを感じている。
「パース人には、有名な方ですからね。内戦時はとある領地民の犠牲を減らし、パースの復興に一役買っていますし、恐らく戦争の被害も最小限に留めていただけたのでは……。パース人の私としても恩を感じております」
伯爵はそう言ってカイを見た。青みがかった特徴的な黒髪に高い背、何より美しい顔はパースでも随分評判になったものだ。
カイは、伯爵の言葉に軽く頭を下げる。
「で、もう一方の方はポテンシアの近衛兵ですか。これは意外ですね」
伯爵にすぐに正体を見透かされてブラッドは少し驚いたが、
「はい、先日から少しお力添えをいただいているんです」
と、レナは堂々と答えた。
「そうですか。やはりルリアーナは、パースよりもポテンシアを重要視しているようですね」
伯爵から発せられたその言葉に、レナは少し身体を強張らせたが、
「いえ、これは縁があっただけの……偶然ですよ」
と、冷静に答えた。
「いや、私も護衛を雇うならパースの王族が抱える兵よりも、他国の兵の方が良いと思っています。しかし、王女がそのように思われているのであれば、パースとの同盟を見直された方が良いでしょうね。パースに王女の行動が耳に入らないわけではないので」
伯爵は淡々と意見を述べた。感情のこもっていない平坦な口調が、かえって不気味に響く。
「そうかもしれませんね。パースとの軍事同盟は、もう少し検討したほうが良いかもしれません」
レナは素直に答えた。カイを雇うまでに呼んでいたパースの兵の質を思い出し、これから先に何かが起きたとしてパースの軍隊を頼ることに疑問が残っていたのは事実だ。
ブラッドは背中に一筋の汗をかいて、初めて同席した見合いの緊張感に飲まれかける。
(こんなのお見合いじゃないだろ……いつもこんなバチバチなのか……)
ブラッドが思い切り焦る隣でカイは平然と立っている。まだこの程度ではカイの出る幕は無かった。レナも毅然とした態度を崩さない。
「貿易面が大分回復してきているようで、我が家も大変助かりました。それがポテンシアの王子による働きかけとは、まさかでしたが」
伯爵に言われた内容を、レナは表情を変えずに受け止めていた。
「ポテンシアのルイス王子は、前回お見合いにいらした帰りに問題を見つけてくださったんです。それからというもの友人として助けていただいていますが、パースには何と伝わっているんでしょう?」
レナが尋ねると、
「ルリアーナの王女殿下は、ポテンシアでも有名な放蕩息子にほだされいると、伝わって来ましたね」
と伯爵が答えたので、ブラッドは自分の拳をぐっと握り、奥歯を食いしばって怒りを抑えた。
「面白い説を唱える方もいらっしゃるんですね。ポテンシアのルイス様がパースでどの様に伝わっておいでなのか存じ上げませんが、パースとポテンシアの貿易に支障が出ていたことを察して自発的に動かれ、解決まで協力して下さったのはあの方ただ1人です。それを非難されてしまうのは、残念ですね」
とレナは静かに笑って答えた。
ブラッドは目の前にいるのは紛れもなく一国の女王になるべく育った王女なのだと知る。
言葉や態度のひとつひとつが、これまでルイスと共に見てきた王女のそれとはかけ離れ、ブラッドは暫く目の前の光景を疑った。
「あくまでも、その姿勢なのですね。パースとルリアーナはもっと友好関係が築けているつもりでしたが」
伯爵はそう言ってレナに鋭い視線を送った。
「パースは、ルリアーナにとって重要な同盟国です。それは間違いないのでこれからも大切にしていきたいと思っていますが、今回の問題をしっかり解決させるまでは、なかなか信じていただけないでしょうね。パースの国民感情が悪くなっていることも理解しております」
レナは、この見合いがただの見合いでないことが分かって、逆に堂々と対応していた。メイソンの所業を止められなかった責任が自分にあることは、しっかりと受け止めている。
「まあ、パースの王族に期待が出来ないことは、国内に居る私でも分かりますからね。ポテンシアの王族に向かれる気持ちは理解できます。それでも、パースのことも大切にしてくださる姿勢を見せていただけるとありがたいんです。パースとポテンシアは、そこまで関係も良好ではありませんから」
伯爵に言われて、レナはまだ考えなければ問題があったかと頭が痛くなる。
「そうですね、こうしてわざわざこちらにお越しいただけた上に、ありがたいお言葉を頂戴出来ました。深く受け止めて、私にできることに取り組ませていただきますね」
笑顔で答え、レナは見合いらしい内容にならなかったことにむしろ安堵していた。男女の駆け引きはどうも苦手で、本来の見合いらしい話をするくらいなら、こういった話をしていたいとすら思っている。
「よろしくお願いします。そのうち、あなたの婚約者が誰になるのかを、パースの地から楽しみにしています。どんな相手を選ばれても、必ず周辺国には影響が起きますので、そこを考えすぎずに選ばれてもよろしいのではないでしょうか」
まるで部外者のような言い方で伯爵は微笑んだ。
「必ず……ですか」
レナは忠告のような言葉に引っかかりながら、伯爵を暫く見つめていた。
「ちょっとサラさん、この国のお見合いって、お見合いしている者同士で火花が散るんですか?」
見合いが終わった応接室で、ブラッドはサラに尋ねた。
「色々だけど、ここの王女様が結構強いからね」
サラは特に驚いた様子もなかったが、ブラッドは目の前で繰り広げられた一部始終を、まだ信じられないといった様子で愕然としている。
「やっぱり、ルリアーナの王女って可愛いだけじゃないんですね……」
ブラッドがそう言うと、サラは、
「当たり前でしょうが。ここの王女殿下、上に人がいないんだから」
とブラッドを呆れた様子で眺めていた。
「いや、ルイス様と向き合っている時の王女殿下が可愛らしかったので、もっとか弱い女性かと思っていたんですよ。やっぱり王族は違うんだなというのを見せつけられた感じがして、ちょっと寂しいです」
ブラッドが残念そうにそう言ったのを、
「だからこの国が平和なんでしょうが。ただ弱いだけの守られているお姫様だったら、今頃リブニケの属国になってポテンシアに攻め込んでいるところよ」
とサラは当たり前のように言い返す。
「そうなんですけど、なんか違和感があるんですよね。無理しているように見えるっていうか……」
ブラッドはレナの態度を思い出し、ルイスと会っている時と先ほどのギャップに違和感を覚えていた。
「何言ってんのよ。あの歳で、しかも7歳の頃からたった一人の王族として生きてきた子が、無理しないで生きられるわけないでしょうが。あたしは、それが一番やるせないところよ」
サラがそう言ってブラッドを睨む。ブラッドはサラに気圧されながら、
「まあ、そうなんですけど」
と納得したようなしていないような顔をする。先ほど繰り広げられた見合いの一部始終とレナの態度を頭の中でうまく処理できずにいた。
カイの誘導で応接室に到着する。部屋にはカイとブラッドが護衛に入り、サラは扉の前で待機した。
「本日は、パースからお越しいただきまして、どうもありがとうございます」
レナが頭を下げて挨拶をすると、護衛を側に1名連れた20代後半くらいの、物静かな雰囲気の男性が笑顔で座っていた。肩まで伸ばした赤毛が印象に残る。
「本日は、機会をいただきましてありがとうございます」
パースから来た伯爵はレナの手の甲に口付けをすると、穏やかに笑みを浮かべた。レナはひとまず安心して着席を促す。
「王女殿下の護衛の方、パースで兵士として活躍をされていた方では?」
伯爵にカイの素性が気付かれたので、
「ええ、よくご存じですね。実は2週間前から護衛を依頼しております」
とレナが答えた。
カイは自分のことを知っている人間が訪れたことに少し居心地の悪さを感じている。
「パース人には、有名な方ですからね。内戦時はとある領地民の犠牲を減らし、パースの復興に一役買っていますし、恐らく戦争の被害も最小限に留めていただけたのでは……。パース人の私としても恩を感じております」
伯爵はそう言ってカイを見た。青みがかった特徴的な黒髪に高い背、何より美しい顔はパースでも随分評判になったものだ。
カイは、伯爵の言葉に軽く頭を下げる。
「で、もう一方の方はポテンシアの近衛兵ですか。これは意外ですね」
伯爵にすぐに正体を見透かされてブラッドは少し驚いたが、
「はい、先日から少しお力添えをいただいているんです」
と、レナは堂々と答えた。
「そうですか。やはりルリアーナは、パースよりもポテンシアを重要視しているようですね」
伯爵から発せられたその言葉に、レナは少し身体を強張らせたが、
「いえ、これは縁があっただけの……偶然ですよ」
と、冷静に答えた。
「いや、私も護衛を雇うならパースの王族が抱える兵よりも、他国の兵の方が良いと思っています。しかし、王女がそのように思われているのであれば、パースとの同盟を見直された方が良いでしょうね。パースに王女の行動が耳に入らないわけではないので」
伯爵は淡々と意見を述べた。感情のこもっていない平坦な口調が、かえって不気味に響く。
「そうかもしれませんね。パースとの軍事同盟は、もう少し検討したほうが良いかもしれません」
レナは素直に答えた。カイを雇うまでに呼んでいたパースの兵の質を思い出し、これから先に何かが起きたとしてパースの軍隊を頼ることに疑問が残っていたのは事実だ。
ブラッドは背中に一筋の汗をかいて、初めて同席した見合いの緊張感に飲まれかける。
(こんなのお見合いじゃないだろ……いつもこんなバチバチなのか……)
ブラッドが思い切り焦る隣でカイは平然と立っている。まだこの程度ではカイの出る幕は無かった。レナも毅然とした態度を崩さない。
「貿易面が大分回復してきているようで、我が家も大変助かりました。それがポテンシアの王子による働きかけとは、まさかでしたが」
伯爵に言われた内容を、レナは表情を変えずに受け止めていた。
「ポテンシアのルイス王子は、前回お見合いにいらした帰りに問題を見つけてくださったんです。それからというもの友人として助けていただいていますが、パースには何と伝わっているんでしょう?」
レナが尋ねると、
「ルリアーナの王女殿下は、ポテンシアでも有名な放蕩息子にほだされいると、伝わって来ましたね」
と伯爵が答えたので、ブラッドは自分の拳をぐっと握り、奥歯を食いしばって怒りを抑えた。
「面白い説を唱える方もいらっしゃるんですね。ポテンシアのルイス様がパースでどの様に伝わっておいでなのか存じ上げませんが、パースとポテンシアの貿易に支障が出ていたことを察して自発的に動かれ、解決まで協力して下さったのはあの方ただ1人です。それを非難されてしまうのは、残念ですね」
とレナは静かに笑って答えた。
ブラッドは目の前にいるのは紛れもなく一国の女王になるべく育った王女なのだと知る。
言葉や態度のひとつひとつが、これまでルイスと共に見てきた王女のそれとはかけ離れ、ブラッドは暫く目の前の光景を疑った。
「あくまでも、その姿勢なのですね。パースとルリアーナはもっと友好関係が築けているつもりでしたが」
伯爵はそう言ってレナに鋭い視線を送った。
「パースは、ルリアーナにとって重要な同盟国です。それは間違いないのでこれからも大切にしていきたいと思っていますが、今回の問題をしっかり解決させるまでは、なかなか信じていただけないでしょうね。パースの国民感情が悪くなっていることも理解しております」
レナは、この見合いがただの見合いでないことが分かって、逆に堂々と対応していた。メイソンの所業を止められなかった責任が自分にあることは、しっかりと受け止めている。
「まあ、パースの王族に期待が出来ないことは、国内に居る私でも分かりますからね。ポテンシアの王族に向かれる気持ちは理解できます。それでも、パースのことも大切にしてくださる姿勢を見せていただけるとありがたいんです。パースとポテンシアは、そこまで関係も良好ではありませんから」
伯爵に言われて、レナはまだ考えなければ問題があったかと頭が痛くなる。
「そうですね、こうしてわざわざこちらにお越しいただけた上に、ありがたいお言葉を頂戴出来ました。深く受け止めて、私にできることに取り組ませていただきますね」
笑顔で答え、レナは見合いらしい内容にならなかったことにむしろ安堵していた。男女の駆け引きはどうも苦手で、本来の見合いらしい話をするくらいなら、こういった話をしていたいとすら思っている。
「よろしくお願いします。そのうち、あなたの婚約者が誰になるのかを、パースの地から楽しみにしています。どんな相手を選ばれても、必ず周辺国には影響が起きますので、そこを考えすぎずに選ばれてもよろしいのではないでしょうか」
まるで部外者のような言い方で伯爵は微笑んだ。
「必ず……ですか」
レナは忠告のような言葉に引っかかりながら、伯爵を暫く見つめていた。
「ちょっとサラさん、この国のお見合いって、お見合いしている者同士で火花が散るんですか?」
見合いが終わった応接室で、ブラッドはサラに尋ねた。
「色々だけど、ここの王女様が結構強いからね」
サラは特に驚いた様子もなかったが、ブラッドは目の前で繰り広げられた一部始終を、まだ信じられないといった様子で愕然としている。
「やっぱり、ルリアーナの王女って可愛いだけじゃないんですね……」
ブラッドがそう言うと、サラは、
「当たり前でしょうが。ここの王女殿下、上に人がいないんだから」
とブラッドを呆れた様子で眺めていた。
「いや、ルイス様と向き合っている時の王女殿下が可愛らしかったので、もっとか弱い女性かと思っていたんですよ。やっぱり王族は違うんだなというのを見せつけられた感じがして、ちょっと寂しいです」
ブラッドが残念そうにそう言ったのを、
「だからこの国が平和なんでしょうが。ただ弱いだけの守られているお姫様だったら、今頃リブニケの属国になってポテンシアに攻め込んでいるところよ」
とサラは当たり前のように言い返す。
「そうなんですけど、なんか違和感があるんですよね。無理しているように見えるっていうか……」
ブラッドはレナの態度を思い出し、ルイスと会っている時と先ほどのギャップに違和感を覚えていた。
「何言ってんのよ。あの歳で、しかも7歳の頃からたった一人の王族として生きてきた子が、無理しないで生きられるわけないでしょうが。あたしは、それが一番やるせないところよ」
サラがそう言ってブラッドを睨む。ブラッドはサラに気圧されながら、
「まあ、そうなんですけど」
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