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the 13th night 雨のルリアーナ
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その日の深夜、ルリアーナでは久しぶりに雨が降っていた。
ルリアーナにおける雨とは、王家の象徴と言われることがある。農業の豊穣を祈る儀式に、王家が絡んでいた名残らしい。
レナは自室から雨の音に耳を澄ませて、お気に入りの『騎士物語』を手に取る。ベッドに入ると久しぶりにカイの冒険譚ともいえる小説を読み始めた。
異国の騎士団長様は、流石に素敵に描かれている。性格がカイとは似ても似つかないことにレナはところどころ笑ってしまったが、やはり何度読んでも憧れの想いは消えなかった。
物語の内容には、実際のカイが起こした行動かもしれないという描写がある。そして、今はこの主人公が近くにいるのだと不思議な気持ちになった。
(見た目に関して言えば、小説は本物を超えられないわね)
文字だけで語られる主人公の容姿は、その美しさを読み手の判断に委ねられる。
青みが掛かった黒髪、グレーがかかった瞳、高い背、恵まれた骨格……。どの条件を取ってみても想像すれば間違いなく類まれな容姿を持つことは分かるが、カイの持つ独特の美しさは小説で想像したよりも実物が圧倒的に優れていた。
レナは、『騎士物語』をざっと読み返したあと、それをベッドの脇に置く。
ベッドの中で、その日に起きたことを振り返っていた。
ルイスに近衛兵の人手を借りて、お礼にデートらしきものをすることになってしまった。
ルイスには、感謝してもしきれないくらいのことをしてもらっている。ただ、会うとどうしてもあの王子の行動に振り回されてしまうことに頭が痛い。
そもそも、「好き」とはどんなものなのだろうか。レナにはよく分からない。
ルイスは、レナのことが「好き」なのだろうかと不思議になる。だとすれば何故なのか、心当たりがなかった。
(ロキは……私のことが好きだと……)
ハッキリと言われたのに、レナは理解ができなかった。一緒にいた時間が長かったわけでもなければ、特別な会話をした覚えもない。それに、シンとロキを呼んで話をした夜にした会話を思い出してみても、ロキがレナを好きだったとは思えなかった。
ベッドから起き上がり、本棚から恋愛小説を出してみた。本を読んでも答えが見つかるとは思えなかったが、レナには自分自身に向き合う時間が必要だった。
あんなに憧れた恋愛なのに、いざ自分の身に相手の好意が降りかかった途端、他人事のような、それでいて知るのは怖いような、未知のものに対する不安が襲う。
小説を読んでも、答えはどこにも書いていなかった。
ただ、レナは初めて何故自分が恋愛に憧れていたのかを、ハッキリと認識してしまった。
レナの周りには、王女としての自分に向き合ってくれる人しかいないのだ。
地位や立場から離れ、ただひとりの女性として認められ、愛されたい。
それが、心惹かれた相手であれば、どんなに幸せだろうか。
レナは愛情に飢えた子どものような自分を抱えるように、ベッドの中で丸くなった。
外の雨の音は、レナの心に産まれた孤独を誤魔化すような、増長させるような、激しい音に変わっている。
レナが欲しいのは、本当は恋愛ではないのかもしれない。
どこにも行き場所のない孤独を、寄り添って癒す存在が欲しいだけなのかもしれない。
泣きたい時に、飛び込める腕が欲しいだけなのかもしれない。
叫びたい時に、抱きしめてくれる存在が欲しいだけなのかもしれない。
それは、何という感情なのだろう。
ただ一方で、身を焦がすような想いというのがどんなものなのか、好奇心は消えなかった。
ルリアーナにおける雨とは、王家の象徴と言われることがある。農業の豊穣を祈る儀式に、王家が絡んでいた名残らしい。
レナは自室から雨の音に耳を澄ませて、お気に入りの『騎士物語』を手に取る。ベッドに入ると久しぶりにカイの冒険譚ともいえる小説を読み始めた。
異国の騎士団長様は、流石に素敵に描かれている。性格がカイとは似ても似つかないことにレナはところどころ笑ってしまったが、やはり何度読んでも憧れの想いは消えなかった。
物語の内容には、実際のカイが起こした行動かもしれないという描写がある。そして、今はこの主人公が近くにいるのだと不思議な気持ちになった。
(見た目に関して言えば、小説は本物を超えられないわね)
文字だけで語られる主人公の容姿は、その美しさを読み手の判断に委ねられる。
青みが掛かった黒髪、グレーがかかった瞳、高い背、恵まれた骨格……。どの条件を取ってみても想像すれば間違いなく類まれな容姿を持つことは分かるが、カイの持つ独特の美しさは小説で想像したよりも実物が圧倒的に優れていた。
レナは、『騎士物語』をざっと読み返したあと、それをベッドの脇に置く。
ベッドの中で、その日に起きたことを振り返っていた。
ルイスに近衛兵の人手を借りて、お礼にデートらしきものをすることになってしまった。
ルイスには、感謝してもしきれないくらいのことをしてもらっている。ただ、会うとどうしてもあの王子の行動に振り回されてしまうことに頭が痛い。
そもそも、「好き」とはどんなものなのだろうか。レナにはよく分からない。
ルイスは、レナのことが「好き」なのだろうかと不思議になる。だとすれば何故なのか、心当たりがなかった。
(ロキは……私のことが好きだと……)
ハッキリと言われたのに、レナは理解ができなかった。一緒にいた時間が長かったわけでもなければ、特別な会話をした覚えもない。それに、シンとロキを呼んで話をした夜にした会話を思い出してみても、ロキがレナを好きだったとは思えなかった。
ベッドから起き上がり、本棚から恋愛小説を出してみた。本を読んでも答えが見つかるとは思えなかったが、レナには自分自身に向き合う時間が必要だった。
あんなに憧れた恋愛なのに、いざ自分の身に相手の好意が降りかかった途端、他人事のような、それでいて知るのは怖いような、未知のものに対する不安が襲う。
小説を読んでも、答えはどこにも書いていなかった。
ただ、レナは初めて何故自分が恋愛に憧れていたのかを、ハッキリと認識してしまった。
レナの周りには、王女としての自分に向き合ってくれる人しかいないのだ。
地位や立場から離れ、ただひとりの女性として認められ、愛されたい。
それが、心惹かれた相手であれば、どんなに幸せだろうか。
レナは愛情に飢えた子どものような自分を抱えるように、ベッドの中で丸くなった。
外の雨の音は、レナの心に産まれた孤独を誤魔化すような、増長させるような、激しい音に変わっている。
レナが欲しいのは、本当は恋愛ではないのかもしれない。
どこにも行き場所のない孤独を、寄り添って癒す存在が欲しいだけなのかもしれない。
泣きたい時に、飛び込める腕が欲しいだけなのかもしれない。
叫びたい時に、抱きしめてくれる存在が欲しいだけなのかもしれない。
それは、何という感情なのだろう。
ただ一方で、身を焦がすような想いというのがどんなものなのか、好奇心は消えなかった。
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