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the 13th day 海辺にて
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シンとロキは城を出てから3つ目の町に到着した。海に面した切り立った山が絶景の、臨海地区だ。
もうすぐ日の暮れる時間になり、辺りは少し暁に染まって来ていた。2人はここまで美しい臨海の町に来たことがなく、暫く潮風を受けて風景を堪能している。
「海って、やっぱり綺麗だな」
シンは海辺に浮かぶ船を眺め、人々の営みに自然の美しさを見た気がしていた。
「この国、本当にどこに行っても自然が綺麗なんだよね」
ロキは強い風でなびく自分の髪を少し押さえながら、レナの姿を思い出していた。
ロキは少し歩いて砂浜に入る。サラサラした細かい砂の粒が風に舞い、潮の香りとほんの少しまとわりつくような塩水の飛沫を肌に感じた。
「ロキって、海が好きなんだっけ?」
シンはいつになく自分から先に進んでいくロキを見て尋ねた。
「んーわかんないな。今まで生きてきて、自然を楽しむ余裕とか無かったからさ。海があるところは、雑多で色んな人がいっぱいいて、この香りがするところには色んな仕事があった。どこの誰なのか分からないような人間でも、生きていける場所があったよ」
ロキはそう言って昔を少し思い出しながら足元の砂を片手ですくい、手からこぼれ落ちる砂を見つめている。シンはロキの方へ近寄り、
「で、今はその香りと大好きなお姫様の国を堪能しているのか」
と言ってロキの顔を覗き込む。
「な、なにが……」
ロキは動揺して声が裏返った。
「城を離れてからそれなりに時間が経って、想いが募る頃なんだろうなと思っただけだよ」
シンはそう言うと砂浜を進み、荷物を置いて靴を脱ぎ、裾をまくり上げて海に入っていく。
「何やってんだよ?」
ロキは呆気にとられてその様子を見ていた。
「水が冷たくて歩き続けてきた足に心地いいぞ。波があると立ってるの大変なんだな」
シンはそう言って笑い、
「ロキはすぐに大人になるから、今、俺が代わりに子どもになってる。昔と違ってロキには居場所がちゃんとあるんだから、そんなに我慢しなくていいと思うけどな」
と海に浸かりながらロキを見た。
「我慢なんて……もっと我慢しようと思ったのにダメだったから落ち込んでるのにさ。王女様に告白する平民とか、滑稽すぎて笑えもしないって」
ロキはそう言うと着の身着のまま海に入っていく。
「俺、救いようのないバカなんだ。何でこんなことになってるんだろって、自分に呆れたり、落ち込んだり、もっと違う今があったんじゃないかって…………」
腰まで海に浸かっているロキを見てシンは驚きながら、深くまで歩いていくのを止めようと慌ててロキの腕を掴む。
「ちょっと待て、一旦戻ろう」
ロキを止めようとバランスを崩して波に足を取られ、シンはその場に倒れて全身が海に浸かった。ロキはシンが自分の腕を取って海の中に倒れて行くのをハッキリ見ながら、シンの立てた派手な飛沫を浴び、全身ずぶぬれになってしまう。
「いやいやいや……何これ?」
意外な形で全身が濡れたロキは、茫然とした。シンは何とか立ち上がり、
「塩辛いな」
と言って舌を出して口に入った海水に参っていた。ロキはすっかり海に浸かってしまったシンを見て思わず笑い、
「なんだよ、それ。あーあ、ほんと、この町で服買わないとダメだね」
と楽しそうに言う。
「ようやく笑ったな」
シンはロキを見て満足そうに言った。
「いつも思うけど、シンってホントに良いやつだね。勝手に自滅してる俺のことなんて、ほっとけば良いのにさ」
ロキは常に味方になってくれるシンの心意気が、いつも有難かった。つい一人で頑張ってしまう性格な上、人に対して心を開き切れないロキにとって、シンは人生の中でも貴重な存在だ。
「そう言うなよ。ロキにはやっぱり、自信家でいてもらわないと。俺の調子が狂うから」
シンはそう言って濡れて重くなった上着を脱ぐ。
「あー、ここまで濡れたら、いっそ泳ぐかな」
シンは着ていた服をそのまま海に脱ぎ捨てて泳ぎ始めた。ロキはあっけにとられながらシンの服を拾い上げ、その姿を暫く眺める。
「ホント、シンって呆れるくらい、いい男だよね。俺が女だったら絶対好きになるのはシンなんだけど」
ロキは、下着だけを身に着けたまま海を泳いでしまっているシンに、聞こえない声量で言う。
「嫌いになれたら楽なのか、離れているから苦しいのか、イマイチ分からないよ。あの人の姿が恋しくて恋しくて、夢にまで見ちゃうしさ。なんか重症なんだよね」
と首から下がるお守りを握りしめて呟いた。
もうすぐ日の暮れる時間になり、辺りは少し暁に染まって来ていた。2人はここまで美しい臨海の町に来たことがなく、暫く潮風を受けて風景を堪能している。
「海って、やっぱり綺麗だな」
シンは海辺に浮かぶ船を眺め、人々の営みに自然の美しさを見た気がしていた。
「この国、本当にどこに行っても自然が綺麗なんだよね」
ロキは強い風でなびく自分の髪を少し押さえながら、レナの姿を思い出していた。
ロキは少し歩いて砂浜に入る。サラサラした細かい砂の粒が風に舞い、潮の香りとほんの少しまとわりつくような塩水の飛沫を肌に感じた。
「ロキって、海が好きなんだっけ?」
シンはいつになく自分から先に進んでいくロキを見て尋ねた。
「んーわかんないな。今まで生きてきて、自然を楽しむ余裕とか無かったからさ。海があるところは、雑多で色んな人がいっぱいいて、この香りがするところには色んな仕事があった。どこの誰なのか分からないような人間でも、生きていける場所があったよ」
ロキはそう言って昔を少し思い出しながら足元の砂を片手ですくい、手からこぼれ落ちる砂を見つめている。シンはロキの方へ近寄り、
「で、今はその香りと大好きなお姫様の国を堪能しているのか」
と言ってロキの顔を覗き込む。
「な、なにが……」
ロキは動揺して声が裏返った。
「城を離れてからそれなりに時間が経って、想いが募る頃なんだろうなと思っただけだよ」
シンはそう言うと砂浜を進み、荷物を置いて靴を脱ぎ、裾をまくり上げて海に入っていく。
「何やってんだよ?」
ロキは呆気にとられてその様子を見ていた。
「水が冷たくて歩き続けてきた足に心地いいぞ。波があると立ってるの大変なんだな」
シンはそう言って笑い、
「ロキはすぐに大人になるから、今、俺が代わりに子どもになってる。昔と違ってロキには居場所がちゃんとあるんだから、そんなに我慢しなくていいと思うけどな」
と海に浸かりながらロキを見た。
「我慢なんて……もっと我慢しようと思ったのにダメだったから落ち込んでるのにさ。王女様に告白する平民とか、滑稽すぎて笑えもしないって」
ロキはそう言うと着の身着のまま海に入っていく。
「俺、救いようのないバカなんだ。何でこんなことになってるんだろって、自分に呆れたり、落ち込んだり、もっと違う今があったんじゃないかって…………」
腰まで海に浸かっているロキを見てシンは驚きながら、深くまで歩いていくのを止めようと慌ててロキの腕を掴む。
「ちょっと待て、一旦戻ろう」
ロキを止めようとバランスを崩して波に足を取られ、シンはその場に倒れて全身が海に浸かった。ロキはシンが自分の腕を取って海の中に倒れて行くのをハッキリ見ながら、シンの立てた派手な飛沫を浴び、全身ずぶぬれになってしまう。
「いやいやいや……何これ?」
意外な形で全身が濡れたロキは、茫然とした。シンは何とか立ち上がり、
「塩辛いな」
と言って舌を出して口に入った海水に参っていた。ロキはすっかり海に浸かってしまったシンを見て思わず笑い、
「なんだよ、それ。あーあ、ほんと、この町で服買わないとダメだね」
と楽しそうに言う。
「ようやく笑ったな」
シンはロキを見て満足そうに言った。
「いつも思うけど、シンってホントに良いやつだね。勝手に自滅してる俺のことなんて、ほっとけば良いのにさ」
ロキは常に味方になってくれるシンの心意気が、いつも有難かった。つい一人で頑張ってしまう性格な上、人に対して心を開き切れないロキにとって、シンは人生の中でも貴重な存在だ。
「そう言うなよ。ロキにはやっぱり、自信家でいてもらわないと。俺の調子が狂うから」
シンはそう言って濡れて重くなった上着を脱ぐ。
「あー、ここまで濡れたら、いっそ泳ぐかな」
シンは着ていた服をそのまま海に脱ぎ捨てて泳ぎ始めた。ロキはあっけにとられながらシンの服を拾い上げ、その姿を暫く眺める。
「ホント、シンって呆れるくらい、いい男だよね。俺が女だったら絶対好きになるのはシンなんだけど」
ロキは、下着だけを身に着けたまま海を泳いでしまっているシンに、聞こえない声量で言う。
「嫌いになれたら楽なのか、離れているから苦しいのか、イマイチ分からないよ。あの人の姿が恋しくて恋しくて、夢にまで見ちゃうしさ。なんか重症なんだよね」
と首から下がるお守りを握りしめて呟いた。
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