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the 13th day 異国人同士
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ルイスの一行が城を出た後、カイは自室にブラッドとレオナルドを案内した。
「ここが拠点になる。ちなみに隣の部屋を隔てて殿下の部屋と繋がっているから夜間警護は隣の部屋に待機する形だ」
シンとロキが居なくなり、ハンが居なくなった部屋にようやく2名が追加され、カイは安堵していた。
「ハウザー殿、ルリアーナの護衛というのはこんな広い自室を持っているのか?」
ブラッドは護衛の待遇の良さを目の当たりにして信じられない様子だ。
「ああ、そうだな。俺も最初はそう思った。じきに慣れる」
カイはあっさりと言う。
「この間まで一緒だった若い男性騎士たちはどちらへ?」
レオナルドが気になってカイに尋ねた。
「今、国内の調査に出させている。逐一報告をさせているが」
カイはそう言うと、2人を見て、
「ブラッドとレオナルドと言ったな。2人は呪術や呪いの類にはどの程度理解がある?」
と単刀直入に聞いた。
2人は意外な単語が出たので一瞬戸惑ったが、
「この国の呪術師は権力者なのか。ポテンシアにも呪いはあるが、近衛兵に何かできるほどの力は全く持っていないし、対立をしたことはない」
と、ブラッドが答える。そこに付け加えるように、
「ルリアーナは昔から農業が盛んですからね、呪いは生活の一部だったと読みましたよ。そういうものが今回の敵ですか。なかなか正体が見えない敵なんて、僕好みですね」
と、レオナルドは少し楽しそうに言った。
「頼もしいな。俺も呪術ではないが、ちょっとした能力者なんだ。目に見えない力に対しては割と理解があるつもりだが、部下は全くこの手のことは未経験で、どうしたものかと思っていた」
カイが何気なく言うと、
「その見た目に加えて能力者……つくづく嫌味なやつだな。」
「なんなんですか? 僕の才能と努力が霞むんで止めてもらえますか?」
と2人に同時に抗議される。
「お前ら、実力者のくせにいちいち小物感を出すのはやめろ」
カイは、この2人が卑屈な性格でなければ最高なのになと、残念な気持ちになっていた。
自室で、カイはサラも呼んだ4人で現状の情報を共有した。
「メイソンはルリアーナ正教会の派閥で、殿下を象徴に立てようとしたところまでは理解できるが、それならば何故、まだ大人になっていない殿下を手にかけようとしたのか、見合い相手として現れたのかが分からないな」
カイがこれから裁判にかけられるメイソン公爵の行動に違和感を持っていると、
「そんなの、口封じじゃないですか?殿下が女性であることを利用しようとしているだけのような気がしますが」
とレオナルドは当然のように言った。
「口封じ……?」
カイはレオナルドの意見を興味深く尋ねる。
「現に、王女はメイソンを怖がっていますよね。女性に暴力で優位性を示すって、手段としては王道な手口じゃないですか? 象徴として立てるには、王女殿下は気が強くてハッキリしていらっしゃるので、そこを封じようとしたのかなと」
レオナルドが当たり前のように言ったので、カイは、
「ああ、確かに呪術などと煩わしいものを使わなくても、暴力による支配というのはてっとり早いな。ただ、わざわざ見合いに来て追い出されるようなことをしたのは何だったのか」
と、釈然としない。
「自分がまだこの世に存在しているというアピールと、恐怖を思い出させて徐々に追い詰めるためだとしたら、メイソン公爵という人はルリアーナ人としては随分とその辺に慣れたやり口だなと思いますけど」
レオナルドが仮定の話をしていく。ブラッドはレナのダメージを思い、顔を歪めた。
「ああ、ポテンシアでも実際にその手の話が無いわけじゃない。まるで奴隷向けの教育みたいで、胸糞悪い話だ」
ブラッドは、そう言ってカイを見た。
「で、俺はハウザー殿と一緒に王女殿下の護衛を担当すれば良いのか?正直、調査や情報収集の類は専門外で、全く向いていないぞ。外国人というのもあるし……ルリアーナの言語は殆どポテンシアと同じなのは助かるが、文書になればちょっとしたニュアンスをミスリードする可能性もある」
ブラッドに言われ、カイは、
「ああ、そこは別に期待していないから問題ない。ブラッドには護衛を任せたい。ただ、ポテンシアの言語が分かるならルリアーナは発音程度の違いしかない気がするが」
と皮肉を返した。
「あと、護衛って言うけど、どこに呪術を使える人がいて、どんな形で接触してくるか分からないから、何からどう守るかっていうのが結構厄介なのよ、今回」
と、横からサラがブラッドに忠告する。
「まあ、話を聞いている限りでは精神に影響を及ぼすと言ってもそんなに怖い呪いではなさそうですけどね。油断はできませんが」
レオナルドはそう言うと、
「まあ、ブラッドさんも僕も、浴びる視線からある程度は敵の気配が分かるので、敵意で見られていれば怪しい人物が割り出せるかもしれませんし」
と得意げな顔で言った。
「へえ、ポテンシア人って、やっぱり日常がサバイバルだからそんな能力が育つのね」
と、サラは感心している。
「治安が悪いところで育つと人間強くなるもんだな」
カイもレオナルドを尊敬の眼差しで見た。
「複雑ですね。褒められているのか貶されているのか」
レオナルドは馬鹿にされているような気がして少し苛ついた。
「レオナルドには、正教会かレジスタンスと呼ばれる信教の潜入を依頼したいんだが、実はどの教会に行けばいいのか、どこが怪しいのかがまだ分からないでいる。この城からあまり遠くないところにあるレジスタンスの教会では、俺の部下が一度呪術をかけられそうになったらしいが」
カイが言うと、レオナルドは「へえ」と興味深そうに言い、
「じゃあ、どこか教会を訪ねて聖職者になるにはどうすれば良いのか聞いてみましょうか。修道士なんてなったことないからちょっと楽しそうですね」
と早速やる気になっている。
「ポテンシアの間諜って、やっぱり怖いわね」
「怖いな。簡単に修道士になれるんだな」
サラとカイがレオナルドのやる気を見て言うと、
「ブリステ人って失礼な奴しかいないのか?」
とブラッドが呆れて言った。
「ここが拠点になる。ちなみに隣の部屋を隔てて殿下の部屋と繋がっているから夜間警護は隣の部屋に待機する形だ」
シンとロキが居なくなり、ハンが居なくなった部屋にようやく2名が追加され、カイは安堵していた。
「ハウザー殿、ルリアーナの護衛というのはこんな広い自室を持っているのか?」
ブラッドは護衛の待遇の良さを目の当たりにして信じられない様子だ。
「ああ、そうだな。俺も最初はそう思った。じきに慣れる」
カイはあっさりと言う。
「この間まで一緒だった若い男性騎士たちはどちらへ?」
レオナルドが気になってカイに尋ねた。
「今、国内の調査に出させている。逐一報告をさせているが」
カイはそう言うと、2人を見て、
「ブラッドとレオナルドと言ったな。2人は呪術や呪いの類にはどの程度理解がある?」
と単刀直入に聞いた。
2人は意外な単語が出たので一瞬戸惑ったが、
「この国の呪術師は権力者なのか。ポテンシアにも呪いはあるが、近衛兵に何かできるほどの力は全く持っていないし、対立をしたことはない」
と、ブラッドが答える。そこに付け加えるように、
「ルリアーナは昔から農業が盛んですからね、呪いは生活の一部だったと読みましたよ。そういうものが今回の敵ですか。なかなか正体が見えない敵なんて、僕好みですね」
と、レオナルドは少し楽しそうに言った。
「頼もしいな。俺も呪術ではないが、ちょっとした能力者なんだ。目に見えない力に対しては割と理解があるつもりだが、部下は全くこの手のことは未経験で、どうしたものかと思っていた」
カイが何気なく言うと、
「その見た目に加えて能力者……つくづく嫌味なやつだな。」
「なんなんですか? 僕の才能と努力が霞むんで止めてもらえますか?」
と2人に同時に抗議される。
「お前ら、実力者のくせにいちいち小物感を出すのはやめろ」
カイは、この2人が卑屈な性格でなければ最高なのになと、残念な気持ちになっていた。
自室で、カイはサラも呼んだ4人で現状の情報を共有した。
「メイソンはルリアーナ正教会の派閥で、殿下を象徴に立てようとしたところまでは理解できるが、それならば何故、まだ大人になっていない殿下を手にかけようとしたのか、見合い相手として現れたのかが分からないな」
カイがこれから裁判にかけられるメイソン公爵の行動に違和感を持っていると、
「そんなの、口封じじゃないですか?殿下が女性であることを利用しようとしているだけのような気がしますが」
とレオナルドは当然のように言った。
「口封じ……?」
カイはレオナルドの意見を興味深く尋ねる。
「現に、王女はメイソンを怖がっていますよね。女性に暴力で優位性を示すって、手段としては王道な手口じゃないですか? 象徴として立てるには、王女殿下は気が強くてハッキリしていらっしゃるので、そこを封じようとしたのかなと」
レオナルドが当たり前のように言ったので、カイは、
「ああ、確かに呪術などと煩わしいものを使わなくても、暴力による支配というのはてっとり早いな。ただ、わざわざ見合いに来て追い出されるようなことをしたのは何だったのか」
と、釈然としない。
「自分がまだこの世に存在しているというアピールと、恐怖を思い出させて徐々に追い詰めるためだとしたら、メイソン公爵という人はルリアーナ人としては随分とその辺に慣れたやり口だなと思いますけど」
レオナルドが仮定の話をしていく。ブラッドはレナのダメージを思い、顔を歪めた。
「ああ、ポテンシアでも実際にその手の話が無いわけじゃない。まるで奴隷向けの教育みたいで、胸糞悪い話だ」
ブラッドは、そう言ってカイを見た。
「で、俺はハウザー殿と一緒に王女殿下の護衛を担当すれば良いのか?正直、調査や情報収集の類は専門外で、全く向いていないぞ。外国人というのもあるし……ルリアーナの言語は殆どポテンシアと同じなのは助かるが、文書になればちょっとしたニュアンスをミスリードする可能性もある」
ブラッドに言われ、カイは、
「ああ、そこは別に期待していないから問題ない。ブラッドには護衛を任せたい。ただ、ポテンシアの言語が分かるならルリアーナは発音程度の違いしかない気がするが」
と皮肉を返した。
「あと、護衛って言うけど、どこに呪術を使える人がいて、どんな形で接触してくるか分からないから、何からどう守るかっていうのが結構厄介なのよ、今回」
と、横からサラがブラッドに忠告する。
「まあ、話を聞いている限りでは精神に影響を及ぼすと言ってもそんなに怖い呪いではなさそうですけどね。油断はできませんが」
レオナルドはそう言うと、
「まあ、ブラッドさんも僕も、浴びる視線からある程度は敵の気配が分かるので、敵意で見られていれば怪しい人物が割り出せるかもしれませんし」
と得意げな顔で言った。
「へえ、ポテンシア人って、やっぱり日常がサバイバルだからそんな能力が育つのね」
と、サラは感心している。
「治安が悪いところで育つと人間強くなるもんだな」
カイもレオナルドを尊敬の眼差しで見た。
「複雑ですね。褒められているのか貶されているのか」
レオナルドは馬鹿にされているような気がして少し苛ついた。
「レオナルドには、正教会かレジスタンスと呼ばれる信教の潜入を依頼したいんだが、実はどの教会に行けばいいのか、どこが怪しいのかがまだ分からないでいる。この城からあまり遠くないところにあるレジスタンスの教会では、俺の部下が一度呪術をかけられそうになったらしいが」
カイが言うと、レオナルドは「へえ」と興味深そうに言い、
「じゃあ、どこか教会を訪ねて聖職者になるにはどうすれば良いのか聞いてみましょうか。修道士なんてなったことないからちょっと楽しそうですね」
と早速やる気になっている。
「ポテンシアの間諜って、やっぱり怖いわね」
「怖いな。簡単に修道士になれるんだな」
サラとカイがレオナルドのやる気を見て言うと、
「ブリステ人って失礼な奴しかいないのか?」
とブラッドが呆れて言った。
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