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the 13th day 交渉が必要だ
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カイは、自室からすぐ近くにあるレナの部屋を訪ねた。その日に到着するポテンシアの王子一行と、メイソン公爵の対応をなるべくしっかり打ち合わせておきたいためだ。
レナが気を使って使用人達を下がらせたので、カイはなるべく包み隠さず話せそうだと少し安心する。
「まず、こちら側の事情で申し訳ない点が1点……ハンが今回の任務から抜けることになった」
カイが護衛を1名減らしてしまった事実を報告すると、レナは不思議そうな顔をしている。
「こちらの問題だ。ハンが本来得意とする任務からかけ離れた内容になってしまい、本人の希望との相違で、任務から外れた」
カイの報告を聞いて、レナはゆっくり納得していた。
「こちらも、もともとお見合いについてもらう護衛から始まったものだし、事情は理解できるわ。カイも頼れるお兄さんがサポートから外れて残念ね」
レナはそう言って、2名体制になった護衛でカイは大丈夫なのだろうかと案じていた。
「ちなみに、本日到着するポテンシアの一行なんだが、殿下から近衛兵の協力を仰いでみてもらえたら、と思っている」
カイがレナに提案すると、
「ポテンシアのルイス様に交渉しろということ? メイソン公爵のことでお手を煩わせたばかりだけど」
と、レナは憂鬱そうにしている。交渉相手としてのルイスは、レナの苦手なタイプだ。
「外交的に問題が出るということか?パースから護衛を呼ぶよりもよっぽど信頼できそうだと思ったんだが」
カイがあまり譲らないのでレナは気が進まない理由をしっかり伝えることにした。
「確かにポテンシアを頼り過ぎたくないというのもあるし、ルイス様にこれ以上頼るのはどうかというのも……少し引っかかっているところよ。個人的なお願いになってしまっているもの」
レナは、外交以外で他国の王族を動かしたことは無かった。個人的な依頼など、全くしたことがない。
「相手の好意を手玉に取るくらいしたらどうだ」
カイから予想外の言葉が出て、レナは目を丸くした。思わず言葉を失う。
「殿下はもう少しずるくなった方が良い。相手は見合いの返事も気になっている頃だろう。国内の困りごとに友人として協力してほしいと本音を伝えれば、喜んで協力してくれるはずだ」
カイがそう言うと、
「カイ、あなたにそんなことを言われるとは思わなかったわ。あなたほど、相手の好意を煩わしそうにしている人を知らないのだけど」
とレナは自分の耳を疑いながらカイを見て言った。相手の好意を利用しろなどと提案されるとは露ほども思わなかったため、少し混乱もしている。
「ルリアーナ内で起きている問題は、ハッキリ言って俺の部下では対応しきれない。ところがどうだ、今日これからやってくるポテンシアの近衛兵は恐らくこの手のことには強い。強力な助っ人になるはずだ」
カイはそう言うと、
「俺も他人の感情を利用するのは得意じゃない。というか、避けてきたと言っても良いが、この手のことはよくロキに提案と説教をされるんだ」
と困ったように告白する。
「そう、ロキって他人の感情を利用したりするのね」
レナは久しぶりに出たロキの名前に棘のある批評をした。
「いや、俺が交渉しなければいけない時に、そういう提案をしてくるだけだ。相手は俺のことを気に入っているんだからもっとこうしたら喜ばれるとか、至らないところを色々とな」
カイは自分の部下をフォローし、ロキのそういうところを評価しているとレナに伝えた。
「そう……。私にはとても考えが及ばないわ」
レナは相手の感情を交渉の材料に使ったことなど一度もなかったため、まだルイスに交渉をするか迷っているようだった。
「ロキは、リブニケにある家を飛び出してブリステの国籍を取るまで、一人で生き抜いていたからな。他人の感情や交渉事には人一倍敏感なんだ。見ていると、時々、生きづらいんじゃないかと思うほどにな」
カイの言葉に、レナは驚いた。
「家を一人で飛び出しているの……?」
レナは、以前ロキの口から出た『普通に生きることを否定されて』という言葉を思い出す。
「殿下には、あまり関係のない話だ。あいつは実の親に売られそうになって逃げてきている。あいつ、あんな見た目だから奴隷として高く売れるらしくてな。苦労しているんだよ、派手で軽い感じが苦労知らずに見えるかもしれないが」
カイは淡々と部下の生い立ちを語った。
「実の親に……? そんなことが、あったのね」
レナは、思いがけず知ってしまったロキの過去に衝撃を受けていた。
「……分かったわよ。カイの状況も状況だし、ルイス様への交渉、やってみるわ。私なりのやり方になるけど、王女としての役割を与えられたと思うことにする」
レナはそう言うと、慣れない事をする前の緊張を感じ始めていたが、これがカイを助けるための仕事だと思うと、少し心が軽くなった。
「その意気だ。俺もこの手のことは得意じゃないが、期待している」
カイがレナにプレッシャーをかけたので、
「交渉が決裂したら知らないわよ。やるだけ、やってみるけれど」
とレナはカイをじろりと見る。
「まあ、その時はその時だ。案外癖になって各所で使うことになるかもしれないぞ」
カイが意地悪な顔をして言うので、レナは口を尖らせて不満そうにしている。レナは、いつものルイスの過剰なスキンシップに心を乱されそうな嫌な予感しかしない。それでも、交渉ができるのは自分しかいないのだと覚悟を決めていた。
レナが気を使って使用人達を下がらせたので、カイはなるべく包み隠さず話せそうだと少し安心する。
「まず、こちら側の事情で申し訳ない点が1点……ハンが今回の任務から抜けることになった」
カイが護衛を1名減らしてしまった事実を報告すると、レナは不思議そうな顔をしている。
「こちらの問題だ。ハンが本来得意とする任務からかけ離れた内容になってしまい、本人の希望との相違で、任務から外れた」
カイの報告を聞いて、レナはゆっくり納得していた。
「こちらも、もともとお見合いについてもらう護衛から始まったものだし、事情は理解できるわ。カイも頼れるお兄さんがサポートから外れて残念ね」
レナはそう言って、2名体制になった護衛でカイは大丈夫なのだろうかと案じていた。
「ちなみに、本日到着するポテンシアの一行なんだが、殿下から近衛兵の協力を仰いでみてもらえたら、と思っている」
カイがレナに提案すると、
「ポテンシアのルイス様に交渉しろということ? メイソン公爵のことでお手を煩わせたばかりだけど」
と、レナは憂鬱そうにしている。交渉相手としてのルイスは、レナの苦手なタイプだ。
「外交的に問題が出るということか?パースから護衛を呼ぶよりもよっぽど信頼できそうだと思ったんだが」
カイがあまり譲らないのでレナは気が進まない理由をしっかり伝えることにした。
「確かにポテンシアを頼り過ぎたくないというのもあるし、ルイス様にこれ以上頼るのはどうかというのも……少し引っかかっているところよ。個人的なお願いになってしまっているもの」
レナは、外交以外で他国の王族を動かしたことは無かった。個人的な依頼など、全くしたことがない。
「相手の好意を手玉に取るくらいしたらどうだ」
カイから予想外の言葉が出て、レナは目を丸くした。思わず言葉を失う。
「殿下はもう少しずるくなった方が良い。相手は見合いの返事も気になっている頃だろう。国内の困りごとに友人として協力してほしいと本音を伝えれば、喜んで協力してくれるはずだ」
カイがそう言うと、
「カイ、あなたにそんなことを言われるとは思わなかったわ。あなたほど、相手の好意を煩わしそうにしている人を知らないのだけど」
とレナは自分の耳を疑いながらカイを見て言った。相手の好意を利用しろなどと提案されるとは露ほども思わなかったため、少し混乱もしている。
「ルリアーナ内で起きている問題は、ハッキリ言って俺の部下では対応しきれない。ところがどうだ、今日これからやってくるポテンシアの近衛兵は恐らくこの手のことには強い。強力な助っ人になるはずだ」
カイはそう言うと、
「俺も他人の感情を利用するのは得意じゃない。というか、避けてきたと言っても良いが、この手のことはよくロキに提案と説教をされるんだ」
と困ったように告白する。
「そう、ロキって他人の感情を利用したりするのね」
レナは久しぶりに出たロキの名前に棘のある批評をした。
「いや、俺が交渉しなければいけない時に、そういう提案をしてくるだけだ。相手は俺のことを気に入っているんだからもっとこうしたら喜ばれるとか、至らないところを色々とな」
カイは自分の部下をフォローし、ロキのそういうところを評価しているとレナに伝えた。
「そう……。私にはとても考えが及ばないわ」
レナは相手の感情を交渉の材料に使ったことなど一度もなかったため、まだルイスに交渉をするか迷っているようだった。
「ロキは、リブニケにある家を飛び出してブリステの国籍を取るまで、一人で生き抜いていたからな。他人の感情や交渉事には人一倍敏感なんだ。見ていると、時々、生きづらいんじゃないかと思うほどにな」
カイの言葉に、レナは驚いた。
「家を一人で飛び出しているの……?」
レナは、以前ロキの口から出た『普通に生きることを否定されて』という言葉を思い出す。
「殿下には、あまり関係のない話だ。あいつは実の親に売られそうになって逃げてきている。あいつ、あんな見た目だから奴隷として高く売れるらしくてな。苦労しているんだよ、派手で軽い感じが苦労知らずに見えるかもしれないが」
カイは淡々と部下の生い立ちを語った。
「実の親に……? そんなことが、あったのね」
レナは、思いがけず知ってしまったロキの過去に衝撃を受けていた。
「……分かったわよ。カイの状況も状況だし、ルイス様への交渉、やってみるわ。私なりのやり方になるけど、王女としての役割を与えられたと思うことにする」
レナはそう言うと、慣れない事をする前の緊張を感じ始めていたが、これがカイを助けるための仕事だと思うと、少し心が軽くなった。
「その意気だ。俺もこの手のことは得意じゃないが、期待している」
カイがレナにプレッシャーをかけたので、
「交渉が決裂したら知らないわよ。やるだけ、やってみるけれど」
とレナはカイをじろりと見る。
「まあ、その時はその時だ。案外癖になって各所で使うことになるかもしれないぞ」
カイが意地悪な顔をして言うので、レナは口を尖らせて不満そうにしている。レナは、いつものルイスの過剰なスキンシップに心を乱されそうな嫌な予感しかしない。それでも、交渉ができるのは自分しかいないのだと覚悟を決めていた。
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