アメイジング・ナイト ―王女と騎士の35日―

碧井夢夏

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the 13th day 護衛の実力

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 朝、カイとサラは食堂で朝食と共に向かい合っていた。
「結局、ハンは戻ってこなかったね」
 サラは、今回の任務からハンが外れたことを残念がっている。怖い者知らずに見える恐ろしい技術をもつハンが、今回のような任務を恐れていたことに少なからず動揺しているようだった。

「あいつは、そういう奴だからな」
 カイは淡々とサラに言った。
「任務と自分の役割に対して、忠実なんだ。ここが戦場だったらハンは活躍するだろうが、目に見えない呪術が絡んでいるなどと言われたら、自分向きの依頼ではないと判断を下す気がしていた」
 カイは付き合いの長い兄貴分のハンが、ただ呪術を恐れて任務を去ったとは思っていなかった。考えてみれば、今回のルリアーナの仕事はハン向きではなかったからだ。

「また、パースで起きた内戦のような仕事が入ったら、ハンを起用しよう。適材適所に人員を配置できなかった俺の責任だ」
 カイはそう言って朝食のトーストを食べ始めていた。

「団長、ここは2名体制にしていくの? あたしと、団長で」
 サラは不安そうだった。夜の護衛も2人体制になると、シフト的にもなかなかつらいものがある。

「そうだな、もうすぐポテンシアの近衛兵たちが罪人を連れてこっちに来ることになっているから、少し力を借りても良いかもしれない。ルリアーナの仕事に意欲的だったぞ」
 カイはメイソン公爵の元に向かったブラッドとレオナルドを思い出している。第4王子の真の狙いは分からないが、使えるものならなるべく手近に優秀な人材を使いたいところだった。

「ポテンシアの王子付きで近衛兵って……うちのファレルが言うにはそのクラスは貴族階級出身の精鋭揃いらしいじゃない。そんな簡単に借りられるとは思えないけど」
 サラは食事を終え、オレンジジュースを飲みながら言った。

「まあ、俺から申し出ると角が立つだろうな。勿論簡単な話ではないが、こちらにはルリアーナ王女がいるだろう。第四王子は見合いにも積極的だったようだし、今回はついででもあるしな。王女から依頼させれば同盟国のよしみで何とかなりそうな気がしているが」
 カイは、あの第4王子であればレナと友好関係を築かせておいた方が良いと思っていた。ルリアーナが同盟を結ぶパースの護衛に比べると、ポテンシアの護衛は信頼がおけそうだ。

「友好関係だけならいんだけどさ、ポテンシアの兵を動かすことで、ルリアーナとパースの間の同盟や力関係が変わったりしないか心配だわ」
 サラは国際問題を心配した。ただでさえ貿易でひと悶着あった後で、同盟の規約にない兵士の貸し出しなど、問題になったりしないだろうかと案じている。

「まあ、楽観はできないが、第四王子はどうやらポテンシアでは異質な存在らしい。あまり国から期待もされず自由奔放に動き回っているらしいから、利用させてもらうのも手かと思ってな」

 カイは、当初ポテンシアの近衛兵2人が独自の動きをしたと思い案じていたが、どうやら王子も含めて連携して動いていたらしいこと、鷹を飛ばして詳細を連絡してきたことに感心していた。

「王族を利用って……怖いこと言わないでよ。うちの本部から誰か増員をする予定はないの?」
 サラに聞かれてカイは難しい顔をしている。

「これがただの護衛業であれば、手が空いている者を適当に見繕って呼び寄せるんだが……正直、シンとロキ並みに洞察力と瞬発力のあるやつが他に居るかと言えば難しいと思っている。こういった、特殊な仕事に向いているやつがあまり思いつかない。その点、先日来ていたポテンシアの近衛兵2人はその辺が信用できそうだったんだ」

 カイの言葉に、サラは頷いた。
「確かに、うちのメンバーじゃ今回の内容は負いきれないかもしれないね……。悔しいけど、こういう国家問題の仕事って専門外だったからね。で、ポテンシアの近衛兵なら大丈夫そうなんだね?」

 サラに聞かれたカイは、
「さあな。実際の仕事を見ていないから勘でしかない。でも、ポテンシア王族付きの間諜と王子付きの護衛は今迄見合いに同席してきた護衛の中で、一番隙が無くて視野が広かったな」
 と答える。サラはそれを聞いて満足そうに、
「ふうん、それは期待できそうだね」
 とオレンジジュースを飲み干した。
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