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the 12th night 王子の想いと夜の空
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ルイスはメイソン公爵の屋敷に戻ってきた愛鷹を見て、無事に自分の手紙が王女の護衛に届いたのだろうと安心した。ルイスは部下たちに、公爵を実際に罰するのはルリアーナの王女であるレナの仕事であり、自分たちは同盟国の外国人であることを意識するように指示していた。
その日の夜、速達の書簡が届くと、ルイスは初めて見るレナの文字を愛おしく眺めた。
彼女から感謝の文字が綴られている。ルイスがメイソン公爵の所業を突き止めたことを申し訳なさそうに、まさか第四王子自らがこのような場に赴いていることを驚いている、という内容だった。
メイソンの身柄を城まで運んでもらうことは可能か、と遠慮がちに聞かれている。読みながらルイスは「それは嬉しいな、また会えるね」と笑い、部下にメイソン公爵を連れてルリアーナ城行きになったことを告げた。
部下の何人かは、数日続いた籠城から自分たちも解放されることに喜んだ。ブラッドとレオナルドにおいては、まだメイソン公爵がどこの誰と手を組んでいるのかまで突き止められていない事に、釈然としない顔をしている。
「いいかい、今回の件で誤解してはいけないことを教えよう。メイソンが悪いことをしていることは分かったが、罪人かどうかというのは私たちが決めることじゃないんだよ。ここはポテンシアではない、ルリアーナだ。私たちのような外国人が荒らして良いところじゃないからね」
ルイスはそう言うと、
「まあ、そうは言ってもメイソンを傷つけたのは私だからね、説得力がないんだ」
と付け加えて部下に向かって申し訳なさそうにした。ルイスは、いつになくかっとなってしまった自覚があった。包帯が巻かれたメイソンの手に関しては、何と言って詫びようか、城に向かう途中に考えることにする。
夜も更けていたので、ルイスは明日の朝に城に向かおうと部下に告げた。次の日に備え、護衛を数名連れて近くの宿に向かう。
「ルイス様、そういえば、関所の責任者はもう解放しているんですか?」
ルイスは隣を歩くレオナルドに聞かれ、
「ああ、勿論、既に関所を通常通りに運営してもらっているよ」
と答える。相変わらずレオナルドは気配を消していて、声を掛けられるたびにルイスはドキリとする。
「じゃあ、もうポテンシアの輸入面は解決したということですね。パースの方も解決したのかもしれませんね」
レオナルドは関税や輸入の問題がたった一人の公爵の手によって行われていたことに、ルリアーナの政治の弱さを見た気がしていた。
(やはり若い王女が国を治めるというのは無理があるのでは……。公爵に襲われそうになったことを未だにトラウマとして抱える国の最高責任者が、政治をやるというのはどうなんだろう?)
レオナルドは、ルリアーナの王女が抱える弱点が気になっていた。
(その点、ルイス殿下は人に対する恐怖心といったものは無いようだし、政治面でのサポートとしてはかなり強力なパートナーになり得るのかもしれない)
レオナルドは、国王への報告事項が頭の中で整理されてきていた。ルリアーナの王女がルイスを選ぶかどうかは分からないが、断られないように外堀から埋めていく作戦は功を奏している。
(怖い人たちだね、ほんとに。ポテンシアはそのうち、周辺国を侵略して大国になりそうだ)
レオナルドはルイスについて歩きながら、国王に負けず劣らず裏の多い第四王子を見直している。
「ところで、ルイス様、ちょっと聞きたいことが」
レオナルドは、改めて気になっていたことを聞いてみようと思い立つ。
「ああ、何だい改まって。君にそうやって聞かれるとちょっとドキッとするね」
ルイスはそう言って少し身構えた。レオナルドに聞かれたことは国王に報告される内容なのだろうと予想がつく。
「なぜ、ルリアーナなんですか? ルリアーナの王女にこだわられている理由が、僕にはよく分かりません。ルイス様ほどの人なら、国内の女性は選び放題でしょう? 別に、故郷を捨ててまで婿入りして、わざわざあの王女のところに行かなくても良いんじゃないかと思うんですけど」
レオナルドの質問が思ったよりも単純なもので、ルイスは安心した。
「そんなことか。いくらでも語ってあげるよ。まず、私はルリアーナという農業国の美しさを子どものころから気に入っていたんだ。ポテンシアのように痩せた大地ではなく、豊かな大地と食べ物を生み出す農業の営み、全てがね」
ルイスが言うと、レオナルドはルイスの価値観に驚いた。
「農業国に惹かれていたんですか?」
自国でなかなか栄えない農業に、第四王子が惹かれていたことが意外だった。まさか国内に興味が無い理由が農業だとは、とても信じられないでいる。
「なんでそんなに驚くんだ? 農業って美しいじゃないか。まあ、いいよ、君の価値観と私の価値観が違うことくらい別にどうってことないからね。あと、彼女……レナ王女についてはね、いつのことだったか、父上と話している姿を見てからかな。ずっと彼女の隣に立てるような男になりたいと思っていたよ」
ルイスの表情がふっと柔らかくなったのを見て、レオナルドは驚いた。
「なぜ、ルリアーナ王女の隣なんですか……王女が女王になったら、殿下はそのサポートをしたいということですよね?」
野心がなく全くの無気力で有名な第四王子が、隣国の女王の隣に立ちたいなど意外すぎる事実だ。
「ああ、サポートね。そうなるのかな。私は彼女と共にルリアーナに居られればそれだけで満足なんだ」
ルイスはそう言って笑う。
「ポテンシア中の大抵の女性は、王族である私の隣にいたいと思うだろうけど、私は昔からそういうのにはどうも冷めてしまっていてね。兄上達は、誰のお母様の位が高いだとか、どういった令嬢と付き合うかとか、どうでもいい競い合いに必死だったけど。私は、ルリアーナのような大地と、ここを治めるレナ・ルリアーナという人にどうしようもなく惹かれてしまったからな。早い話、何としても欲しいんだよ」
ルイスはそう言って先ほどレナから届いた手紙の字を思い出す。
「彼女に関すること、全てが大切だと思う、これは何だろうね」
レオナルドはルイスの執着を目の前で展開され、言葉を失っていた。数々の女性との浮名も流れて来ていた気がするが、この第四王子は隣国に夢中だったらしい。
「王女の隣に、異国の騎士が入っていることは良いのですか?」
レオナルドは見た目にも美しい異国の騎士が、王女の隣に立っていたのを思い出して尋ねる。
「彼女が選んだ人材であれば、特に気にならないよ。それまでパースの護衛を雇って続かなかったというんだから、恐らくちゃんとした護衛が付いたほうが彼女にとっては良かったんだろう。どうこう言うつもりも、思うつもりもない。彼女があの護衛に気があったとしても、特に問題ないよ」
ルイスの言葉に、レオナルドはいよいよ混乱した。
「護衛に対して気があっても……ですか」
「そうだよ。私だって昔から彼女を想っていても、実際はこれまでに他の女性達と付き合ってきたからね。身分の差で一緒になれない相手に想いを寄せるくらいのことなら、別に私の知ったことではない。最終的に人生を共に歩めるのであれば、そのくらいのことは気にならないと言ったらいいのかな」
ルイスの独特の持論に、レオナルドは不可解な顔をしている。
「彼女のただ一人の夫の地位がもらえるなら、愛人がいようが別に気にしないよ。ああ、でも子どもができるのはちょっとダメなのかな。見た目で婚外子って分かってしまったら、周りの目を浴びる子ども自身が可哀そうだもんねえ……」
ルイスが一方的に話した後、レオナルドは不思議そうに尋ねた。
「そんなに想っていらっしゃっても、独占欲みたいなものは沸かないものなんですね」
「分かっていないなあ。最終的に私のところに来るようにするから成り立つんだよ。それって究極の独占欲だろう? 縛り付けて最後に逃げられるくらいなら、囲いの中で放し飼いにして、結局は自分の元に帰ってくるようにした方がいいのさ。男女関係なんてそんなものだよ」
ルイスは当たり前のように言い放った。
「はあ、そんなものなんでしょうか……。そういった男女関係は僕にはよく分かりません……」
とレオナルドが少しうんざりしながら言うと、ルイスは、
「前から思っていたけど、君、女性にすぐに捨てられてそうな感じだよねえ」
と笑う。
「はは。今夜は月が綺麗ですね」
レオナルドは苦し紛れに話を逸らし、図星だというのが分からないようにポーカーフェイスを装った。
「ルリアーナで見る月は格別だね。まあ、隣にいるのが君っていうのは意外だったな」
と、ルイスは父親が気に入っている間諜を見て笑う。レオナルドの人間らしい面が見られたことは、なかなか大きな進展だった。
その日の夜、速達の書簡が届くと、ルイスは初めて見るレナの文字を愛おしく眺めた。
彼女から感謝の文字が綴られている。ルイスがメイソン公爵の所業を突き止めたことを申し訳なさそうに、まさか第四王子自らがこのような場に赴いていることを驚いている、という内容だった。
メイソンの身柄を城まで運んでもらうことは可能か、と遠慮がちに聞かれている。読みながらルイスは「それは嬉しいな、また会えるね」と笑い、部下にメイソン公爵を連れてルリアーナ城行きになったことを告げた。
部下の何人かは、数日続いた籠城から自分たちも解放されることに喜んだ。ブラッドとレオナルドにおいては、まだメイソン公爵がどこの誰と手を組んでいるのかまで突き止められていない事に、釈然としない顔をしている。
「いいかい、今回の件で誤解してはいけないことを教えよう。メイソンが悪いことをしていることは分かったが、罪人かどうかというのは私たちが決めることじゃないんだよ。ここはポテンシアではない、ルリアーナだ。私たちのような外国人が荒らして良いところじゃないからね」
ルイスはそう言うと、
「まあ、そうは言ってもメイソンを傷つけたのは私だからね、説得力がないんだ」
と付け加えて部下に向かって申し訳なさそうにした。ルイスは、いつになくかっとなってしまった自覚があった。包帯が巻かれたメイソンの手に関しては、何と言って詫びようか、城に向かう途中に考えることにする。
夜も更けていたので、ルイスは明日の朝に城に向かおうと部下に告げた。次の日に備え、護衛を数名連れて近くの宿に向かう。
「ルイス様、そういえば、関所の責任者はもう解放しているんですか?」
ルイスは隣を歩くレオナルドに聞かれ、
「ああ、勿論、既に関所を通常通りに運営してもらっているよ」
と答える。相変わらずレオナルドは気配を消していて、声を掛けられるたびにルイスはドキリとする。
「じゃあ、もうポテンシアの輸入面は解決したということですね。パースの方も解決したのかもしれませんね」
レオナルドは関税や輸入の問題がたった一人の公爵の手によって行われていたことに、ルリアーナの政治の弱さを見た気がしていた。
(やはり若い王女が国を治めるというのは無理があるのでは……。公爵に襲われそうになったことを未だにトラウマとして抱える国の最高責任者が、政治をやるというのはどうなんだろう?)
レオナルドは、ルリアーナの王女が抱える弱点が気になっていた。
(その点、ルイス殿下は人に対する恐怖心といったものは無いようだし、政治面でのサポートとしてはかなり強力なパートナーになり得るのかもしれない)
レオナルドは、国王への報告事項が頭の中で整理されてきていた。ルリアーナの王女がルイスを選ぶかどうかは分からないが、断られないように外堀から埋めていく作戦は功を奏している。
(怖い人たちだね、ほんとに。ポテンシアはそのうち、周辺国を侵略して大国になりそうだ)
レオナルドはルイスについて歩きながら、国王に負けず劣らず裏の多い第四王子を見直している。
「ところで、ルイス様、ちょっと聞きたいことが」
レオナルドは、改めて気になっていたことを聞いてみようと思い立つ。
「ああ、何だい改まって。君にそうやって聞かれるとちょっとドキッとするね」
ルイスはそう言って少し身構えた。レオナルドに聞かれたことは国王に報告される内容なのだろうと予想がつく。
「なぜ、ルリアーナなんですか? ルリアーナの王女にこだわられている理由が、僕にはよく分かりません。ルイス様ほどの人なら、国内の女性は選び放題でしょう? 別に、故郷を捨ててまで婿入りして、わざわざあの王女のところに行かなくても良いんじゃないかと思うんですけど」
レオナルドの質問が思ったよりも単純なもので、ルイスは安心した。
「そんなことか。いくらでも語ってあげるよ。まず、私はルリアーナという農業国の美しさを子どものころから気に入っていたんだ。ポテンシアのように痩せた大地ではなく、豊かな大地と食べ物を生み出す農業の営み、全てがね」
ルイスが言うと、レオナルドはルイスの価値観に驚いた。
「農業国に惹かれていたんですか?」
自国でなかなか栄えない農業に、第四王子が惹かれていたことが意外だった。まさか国内に興味が無い理由が農業だとは、とても信じられないでいる。
「なんでそんなに驚くんだ? 農業って美しいじゃないか。まあ、いいよ、君の価値観と私の価値観が違うことくらい別にどうってことないからね。あと、彼女……レナ王女についてはね、いつのことだったか、父上と話している姿を見てからかな。ずっと彼女の隣に立てるような男になりたいと思っていたよ」
ルイスの表情がふっと柔らかくなったのを見て、レオナルドは驚いた。
「なぜ、ルリアーナ王女の隣なんですか……王女が女王になったら、殿下はそのサポートをしたいということですよね?」
野心がなく全くの無気力で有名な第四王子が、隣国の女王の隣に立ちたいなど意外すぎる事実だ。
「ああ、サポートね。そうなるのかな。私は彼女と共にルリアーナに居られればそれだけで満足なんだ」
ルイスはそう言って笑う。
「ポテンシア中の大抵の女性は、王族である私の隣にいたいと思うだろうけど、私は昔からそういうのにはどうも冷めてしまっていてね。兄上達は、誰のお母様の位が高いだとか、どういった令嬢と付き合うかとか、どうでもいい競い合いに必死だったけど。私は、ルリアーナのような大地と、ここを治めるレナ・ルリアーナという人にどうしようもなく惹かれてしまったからな。早い話、何としても欲しいんだよ」
ルイスはそう言って先ほどレナから届いた手紙の字を思い出す。
「彼女に関すること、全てが大切だと思う、これは何だろうね」
レオナルドはルイスの執着を目の前で展開され、言葉を失っていた。数々の女性との浮名も流れて来ていた気がするが、この第四王子は隣国に夢中だったらしい。
「王女の隣に、異国の騎士が入っていることは良いのですか?」
レオナルドは見た目にも美しい異国の騎士が、王女の隣に立っていたのを思い出して尋ねる。
「彼女が選んだ人材であれば、特に気にならないよ。それまでパースの護衛を雇って続かなかったというんだから、恐らくちゃんとした護衛が付いたほうが彼女にとっては良かったんだろう。どうこう言うつもりも、思うつもりもない。彼女があの護衛に気があったとしても、特に問題ないよ」
ルイスの言葉に、レオナルドはいよいよ混乱した。
「護衛に対して気があっても……ですか」
「そうだよ。私だって昔から彼女を想っていても、実際はこれまでに他の女性達と付き合ってきたからね。身分の差で一緒になれない相手に想いを寄せるくらいのことなら、別に私の知ったことではない。最終的に人生を共に歩めるのであれば、そのくらいのことは気にならないと言ったらいいのかな」
ルイスの独特の持論に、レオナルドは不可解な顔をしている。
「彼女のただ一人の夫の地位がもらえるなら、愛人がいようが別に気にしないよ。ああ、でも子どもができるのはちょっとダメなのかな。見た目で婚外子って分かってしまったら、周りの目を浴びる子ども自身が可哀そうだもんねえ……」
ルイスが一方的に話した後、レオナルドは不思議そうに尋ねた。
「そんなに想っていらっしゃっても、独占欲みたいなものは沸かないものなんですね」
「分かっていないなあ。最終的に私のところに来るようにするから成り立つんだよ。それって究極の独占欲だろう? 縛り付けて最後に逃げられるくらいなら、囲いの中で放し飼いにして、結局は自分の元に帰ってくるようにした方がいいのさ。男女関係なんてそんなものだよ」
ルイスは当たり前のように言い放った。
「はあ、そんなものなんでしょうか……。そういった男女関係は僕にはよく分かりません……」
とレオナルドが少しうんざりしながら言うと、ルイスは、
「前から思っていたけど、君、女性にすぐに捨てられてそうな感じだよねえ」
と笑う。
「はは。今夜は月が綺麗ですね」
レオナルドは苦し紛れに話を逸らし、図星だというのが分からないようにポーカーフェイスを装った。
「ルリアーナで見る月は格別だね。まあ、隣にいるのが君っていうのは意外だったな」
と、ルイスは父親が気に入っている間諜を見て笑う。レオナルドの人間らしい面が見られたことは、なかなか大きな進展だった。
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