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the 12th day 王子様、入国する
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ルイスは、メイソン公爵家の屋敷に2度目に足を踏み入れた時、部下の独断に任せたことに自分の指示力不足を感じていた。
思えば、これまでルイスは部下たちに対し、なるべく目立たないように振舞うポイントや、無能に見えるように行動するような指導を念入りにしてきてしまったのだ。今回の任務に関しては王女に気に入られるための行動を意識しろとしっかり伝えておくべきだったと後悔している。
メイソン公爵本人は、すっかり弱って部屋に閉じ込められており、部下たちは屋敷内の調査もしっかりと行っていた。但し、肝心な王女への報告が全くされていない。
「ブラッド……ちょっといいかな?」
ルイスは自分付きの護衛を呼ぶ。まずブラッドに徹底的に事態を分からせようと決めた。
ブラッドはルイスに呼ばれて他の同僚たちとは離れて屋敷の外に出て行く。その姿を見たレオナルドは、
「あれー、なんか間違ったかな、ブラッドさん」
と気にかけていた。
「まあ、これは多分私のせいなんだけど……ルリアーナ王女の護衛にあんまり連絡をしていないのは、そういう指示をしなかったからだよね?」
ルイスはブラッドに尋ねた。
「ああ、はい。殿下の指示で連絡しないと、さすがにまずいかなと思いまして、必要最小限に留めています」
ブラッドが言ったので、ルイスは「ああ、そういうことか」と頷いた。
「確かに、暴走されたら困るからね、それはひとつの判断として正しいかもしれない。じゃあ、今からその方針を一気に変えて行こうか。君の上司は現在ルリアーナの護衛をしている男で、王女付だ。さて、どうする?」
ルイスの言葉にブラッドは焦る。今現在をもって自分はポテンシアの近衛兵を解雇されたのだろうか? ルイスの言葉の真意が分からず、茫然としていた。
「王女付きの護衛と連絡を取ります……」
ブラッドはいつになく力のない返答をした。ルイスからルリアーナ行きの話が出たときには王女の護衛をしてみたいとは思ったが、ルイス付の護衛が自分には合っていた。まさか戦力外の話が出るとは思っておらず、ショックを隠し切れない。
「そうだ。それが今、君のやることだ。いいか、私がここに君を置いているのは本当に王女の力になってもらうためで、私の指示で動くことじゃない。その説明が足りなかったな」
ルイスがそう言うと、ブラッドは何となく状況を把握し始める。
「それは……ルイス様の元を辞めろということではないのですか?」
ブラッドは恐る恐る尋ねた。自分が戦力外の通告をされたわけではないのかと気にしている。
「君を信頼しているから、王女のところに同行させたんだろう?何か誤解をさせていたらすまないが、私が君を王女の護衛の下に就かせたのも、彼女に喜んでもらいたいためだというのは分かるね?」
ルイスは部下を追い詰めないように、慎重に言葉を選んだ。
「君のいいところは、臨機応変で私の言ったことをすぐに飲み込むところだ。そして、身体も抜群にタフだね。私は君のように働くことはできないから、代わりに頼むよ」
ルイスの言葉に、ブラッドは深く頷いた。
「勿体ないお言葉、痛み入ります。ここからは、殿下の大切なお相手のために精一杯仕えてまいりますので、どうかルイス様もご健勝を」
「君は本当に、私のことをを理解してくれる。助かるよ。他の者にも、その方針がちゃんと伝わるように頼むよ。ちなみに、レオナルドはどんな感じ?」
ルイスは国王付きの間諜の動きが気になっていた。一緒に行動を共にしているブラッドの印象が気になっている。
「レオナルドは、割と一歩引きながらもフォローはしっかりしてくれているというか、まあ、味方なんだなっていうのはハッキリ分かりましたし、聞いていたよりもいいやつです」
ブラッドがそう返したのを、
「いや、それは多分ブラッドがレオナルドに気に入られたからだと思うな。私はまだレオナルドの印象といえば、油断ができない感じだよ。ふとした時に、レオナルドの後ろに父上が見える」
とルイスは笑った。
ルイスはここまでの動きを愛鷹に託し、ルリアーナまで書簡を飛ばした。こんなこともあろうかと、前回の見合い時に場所を覚えさせていたのが早速役に立つ。
ポテンシアでは王族や貴族が鷹狩りを行うことは珍しくなかったが、ルリアーナ建国の女王がかつて鷹を連れていたという話を聞いて、ルイスは鷹という動物をいたく気に入っていた。伝書にハトを使うのは、ポテンシアでは危険が多い。賢く強い鷹は色々と重宝する動物だった。
「あの護衛は、ちゃんとうちの子に気づくかな?」
ルイスは少し心配をしながら鷹の姿がどんどん小さくなっていくのを見届ける。いつの間にかルイスの横にいたレオナルドが、
「ルイス殿下、あの鷹はどちらまで飛ばされたんですか?」
と尋ねた。
「ああ、王女のところだよ。こちらの戦況をね」
ルイスは穏やかに微笑みながら、まだまだ底の知れない国王付きの間諜に答える。
「なるほど、こちらが増員していることも伝えたのですか?」
レオナルドは鷹の姿がすっかり見えなくなった方向を見ながらルイスに尋ねた。
「ああ、そうだね。あんまり軍を動かしているのを知られるのは良くないかなと思ったけど、あの護衛は外国から来ているしね、人手不足だろうから」
ルイスがレオナルドの読みづらい表情を見ながら穏やかに答えると、
「ああ、あの護衛の都合まで考えて動かれているんですね。やっぱりルイス殿下は噂とはちょっと違いますね」
と、レオナルドは意味深に笑顔を浮かべてその場を去った。
思えば、これまでルイスは部下たちに対し、なるべく目立たないように振舞うポイントや、無能に見えるように行動するような指導を念入りにしてきてしまったのだ。今回の任務に関しては王女に気に入られるための行動を意識しろとしっかり伝えておくべきだったと後悔している。
メイソン公爵本人は、すっかり弱って部屋に閉じ込められており、部下たちは屋敷内の調査もしっかりと行っていた。但し、肝心な王女への報告が全くされていない。
「ブラッド……ちょっといいかな?」
ルイスは自分付きの護衛を呼ぶ。まずブラッドに徹底的に事態を分からせようと決めた。
ブラッドはルイスに呼ばれて他の同僚たちとは離れて屋敷の外に出て行く。その姿を見たレオナルドは、
「あれー、なんか間違ったかな、ブラッドさん」
と気にかけていた。
「まあ、これは多分私のせいなんだけど……ルリアーナ王女の護衛にあんまり連絡をしていないのは、そういう指示をしなかったからだよね?」
ルイスはブラッドに尋ねた。
「ああ、はい。殿下の指示で連絡しないと、さすがにまずいかなと思いまして、必要最小限に留めています」
ブラッドが言ったので、ルイスは「ああ、そういうことか」と頷いた。
「確かに、暴走されたら困るからね、それはひとつの判断として正しいかもしれない。じゃあ、今からその方針を一気に変えて行こうか。君の上司は現在ルリアーナの護衛をしている男で、王女付だ。さて、どうする?」
ルイスの言葉にブラッドは焦る。今現在をもって自分はポテンシアの近衛兵を解雇されたのだろうか? ルイスの言葉の真意が分からず、茫然としていた。
「王女付きの護衛と連絡を取ります……」
ブラッドはいつになく力のない返答をした。ルイスからルリアーナ行きの話が出たときには王女の護衛をしてみたいとは思ったが、ルイス付の護衛が自分には合っていた。まさか戦力外の話が出るとは思っておらず、ショックを隠し切れない。
「そうだ。それが今、君のやることだ。いいか、私がここに君を置いているのは本当に王女の力になってもらうためで、私の指示で動くことじゃない。その説明が足りなかったな」
ルイスがそう言うと、ブラッドは何となく状況を把握し始める。
「それは……ルイス様の元を辞めろということではないのですか?」
ブラッドは恐る恐る尋ねた。自分が戦力外の通告をされたわけではないのかと気にしている。
「君を信頼しているから、王女のところに同行させたんだろう?何か誤解をさせていたらすまないが、私が君を王女の護衛の下に就かせたのも、彼女に喜んでもらいたいためだというのは分かるね?」
ルイスは部下を追い詰めないように、慎重に言葉を選んだ。
「君のいいところは、臨機応変で私の言ったことをすぐに飲み込むところだ。そして、身体も抜群にタフだね。私は君のように働くことはできないから、代わりに頼むよ」
ルイスの言葉に、ブラッドは深く頷いた。
「勿体ないお言葉、痛み入ります。ここからは、殿下の大切なお相手のために精一杯仕えてまいりますので、どうかルイス様もご健勝を」
「君は本当に、私のことをを理解してくれる。助かるよ。他の者にも、その方針がちゃんと伝わるように頼むよ。ちなみに、レオナルドはどんな感じ?」
ルイスは国王付きの間諜の動きが気になっていた。一緒に行動を共にしているブラッドの印象が気になっている。
「レオナルドは、割と一歩引きながらもフォローはしっかりしてくれているというか、まあ、味方なんだなっていうのはハッキリ分かりましたし、聞いていたよりもいいやつです」
ブラッドがそう返したのを、
「いや、それは多分ブラッドがレオナルドに気に入られたからだと思うな。私はまだレオナルドの印象といえば、油断ができない感じだよ。ふとした時に、レオナルドの後ろに父上が見える」
とルイスは笑った。
ルイスはここまでの動きを愛鷹に託し、ルリアーナまで書簡を飛ばした。こんなこともあろうかと、前回の見合い時に場所を覚えさせていたのが早速役に立つ。
ポテンシアでは王族や貴族が鷹狩りを行うことは珍しくなかったが、ルリアーナ建国の女王がかつて鷹を連れていたという話を聞いて、ルイスは鷹という動物をいたく気に入っていた。伝書にハトを使うのは、ポテンシアでは危険が多い。賢く強い鷹は色々と重宝する動物だった。
「あの護衛は、ちゃんとうちの子に気づくかな?」
ルイスは少し心配をしながら鷹の姿がどんどん小さくなっていくのを見届ける。いつの間にかルイスの横にいたレオナルドが、
「ルイス殿下、あの鷹はどちらまで飛ばされたんですか?」
と尋ねた。
「ああ、王女のところだよ。こちらの戦況をね」
ルイスは穏やかに微笑みながら、まだまだ底の知れない国王付きの間諜に答える。
「なるほど、こちらが増員していることも伝えたのですか?」
レオナルドは鷹の姿がすっかり見えなくなった方向を見ながらルイスに尋ねた。
「ああ、そうだね。あんまり軍を動かしているのを知られるのは良くないかなと思ったけど、あの護衛は外国から来ているしね、人手不足だろうから」
ルイスがレオナルドの読みづらい表情を見ながら穏やかに答えると、
「ああ、あの護衛の都合まで考えて動かれているんですね。やっぱりルイス殿下は噂とはちょっと違いますね」
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