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the 7th day 増員決定
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「さて、シンとロキに、何を任せるのが良いか考えたんだが……」
カイは自室に戻ると、ポテンシアの兵士2人にメイソン公爵の調査と見張りを任せたことを部下に伝えて、これからの動きについて相談することにした。
「今までの殿下のお見合い相手を洗いざらい調べていくというのも必要ですし、この公爵以外にも国内の動きを把握しなければいけないでしょうし、ポテンシアとパースに起きていることも調べないといけませんね。あとは殿下の両親の他殺と、王女信仰ですか」
ロキがそう言うと、
「王女信仰については、いつもの協力先に調べてもらうのが良いんじゃないですかね。殿下の両親の他殺については、この城内に知っている人が何か居そうな気がします。そうなると、国内の調査が最優先になるのか……」
と、シンは考え込んで言った。
「単独行動は危険ですね、今の状況だと」
ロキも何か思うところがあるらしく、小さく唸っている。
「3人しかいないと、城内の護衛と国内の調査に、2人行動が取れなくなる……」
これでは、城内の護衛だけで国内の調査など手が回らない。お手上げだ、と2人は結論に至った。
「そこでだ。ブリステから出て他国に赴いて仕事をしている団員で、ルリアーナに直接向かってこれそうな者を探したところ、一応手配が取れたんだ」
カイがそう言うと、シンとロキは何かを察して、ああ、と頷いている。
「お前たちにとって良い知らせになるのか、どうか……。あと、チーム編成と、どこで誰に動いてもらうのかも決めないとな」
カイが言うと、シンとロキはこれからの任務を憂いている。ちょうど、サーヤが昼食の案内をしに来ていた。
使用人向けの食堂で、3人はハオルの隣に座ると挨拶をした。
「こんにちは、ハオル様。一度ゆっくりお話ししたいと思ってたんですよね」
シンが話しかけるとハオルは嬉しそうに頷いて、
「ああ、光栄でございます。こちらこそ、皆様とご挨拶ができるだけでも浮かれておりましたよ」
と何やら楽しそうだ。
「ハオル様は、こちらでのお勤めは長いんですか?」
シンが世間話として尋ねると、
「そうですねえ、長いとは思いませんが、30年以上になりますねえ」
とハオルは過去を思い出しながら語った。
「この城内では、すっかり古株になってしまいましたね。他にも同じころに雇われた同僚がおりますが。でも、この30年の中で騎士団の方々を城内に入れたのは、ハウザー様がたが初めてだと記憶しております。何しろ、この国は平和というか、お陰様で争いごとのない毎日を過ごせておりましたゆえ」
ハオルは、ティーカップを持ち上げて少し何か言いたそうな表情をした。
「ハオル様は、このお城ではどういう職業になるんですか?」
ロキは、なるべく当たり障りのない会話を振る。
「ああ、私は、バトラーをしております。ご存じですかね、使用人長のようなものでして」
ハオルはふっと柔らかい表情に戻って言った。
「わあ、かっこいいですね、バトラーかあ……。上流貴族の選ばれた職業って感じだなあ」
シンがそう言って目を輝かせると、
「とんでもございません。自分の身体を張って要人を警護される皆様ほど、男らしい職業は無いと思います」
と、ハオルは謙遜した。カイは部下とハオルのやり取りを暫く横で聞きながら食事をとっていたが、
「30年以上となると、ハオル様は、王女殿下の前には先王に仕えていたことになりますね」
と何気なく言葉を発した。その突然の切り込みにシンとロキは思い切り焦る。
まだ、どこで誰に何を聞かれているか分からないというのに、どうしてこんなに堂々と核心を突くような質問をするのだろうと、2人は信じられない気持ちでいた。この団長の行動に、部下の2人はよく振り回される。
「ええ、そうですね。レナ様の父君に当たる先王に仕えておりましたね」
ハオルはカイに話しかけられ、少し嬉しそうに答えた。
「いや、王女殿下は国王陛下のことをあまり覚えていらっしゃらないようなので、ハオル様の方がご存じなのかと思ったんです」
カイが怪しまれそうな会話をなかなか止めないので、堪らずシンが割って入る。
「いや、俺たちその、まだルリアーナのことを良く知らないっていうか、王女殿下が女王陛下になると何が変わるのかとか、王様だったらどうなるのかっていうのが、イマイチ分からないなーって話してたんですよ」
(ナイス! シン!)
ロキはシンのフォローに感動しながら、上司の暴走に冷や汗をかいていた。
「ああ、先王のことですね……王女殿下が女王陛下になると変わることですか……もうすぐ近くにきている未来のことなのに、どうも私、実感がなくていけませんね」
ハオルはそう言って苦笑すると、
「レナ様を女王陛下に据えて、この国の責任を負わせるようなことをして、本当に良いのかと思ってしまうので、やはり私は未来を見ないようにしているのかもしれません」
と言った。
「えっ…………?」
シンとロキが突然のハオルの告白に目を丸くしていると、カイは早々に自分の食事を終わらせて、
「ほう、何かしらの責任を負う役目があるわけだな、王となると」
と、納得しながら頷いていた。
「はー……焦った……」
自室に戻るとシンはげっそりしながらベッドに座って項垂れている。
「団長にこの手の業務が向いていないのは分かっていましたが、もうちょっと何とか出来ませんでしたか」
ロキも昼食の時間を終えてすっかりやつれてしまっていた。
「まあ、お前たちが何とかしてくれると思っていたからな」
カイは何もなかったかのように机に向かうと、何かを書き始めている。
「こんなんで、城内の情報収集とか大丈夫かなあ……」
シンが遠くを見ながら呟くと、
「明日はサラさんが合流して、明後日はハンか……。団長にとっては何てことないと思いますけど、あの2人独特だから調子が狂わされることが多いんですよね……」
と、ロキは付け加えた。
「一応伝えておくと、サラはあれで女性だから、別室が与えられるそうだ」
カイが朗報だろうとばかりに言うと、
「当たり前じゃないですか……。そういうことじゃないんですよ……」
とロキは恨み節のように言った。
カイは自室に戻ると、ポテンシアの兵士2人にメイソン公爵の調査と見張りを任せたことを部下に伝えて、これからの動きについて相談することにした。
「今までの殿下のお見合い相手を洗いざらい調べていくというのも必要ですし、この公爵以外にも国内の動きを把握しなければいけないでしょうし、ポテンシアとパースに起きていることも調べないといけませんね。あとは殿下の両親の他殺と、王女信仰ですか」
ロキがそう言うと、
「王女信仰については、いつもの協力先に調べてもらうのが良いんじゃないですかね。殿下の両親の他殺については、この城内に知っている人が何か居そうな気がします。そうなると、国内の調査が最優先になるのか……」
と、シンは考え込んで言った。
「単独行動は危険ですね、今の状況だと」
ロキも何か思うところがあるらしく、小さく唸っている。
「3人しかいないと、城内の護衛と国内の調査に、2人行動が取れなくなる……」
これでは、城内の護衛だけで国内の調査など手が回らない。お手上げだ、と2人は結論に至った。
「そこでだ。ブリステから出て他国に赴いて仕事をしている団員で、ルリアーナに直接向かってこれそうな者を探したところ、一応手配が取れたんだ」
カイがそう言うと、シンとロキは何かを察して、ああ、と頷いている。
「お前たちにとって良い知らせになるのか、どうか……。あと、チーム編成と、どこで誰に動いてもらうのかも決めないとな」
カイが言うと、シンとロキはこれからの任務を憂いている。ちょうど、サーヤが昼食の案内をしに来ていた。
使用人向けの食堂で、3人はハオルの隣に座ると挨拶をした。
「こんにちは、ハオル様。一度ゆっくりお話ししたいと思ってたんですよね」
シンが話しかけるとハオルは嬉しそうに頷いて、
「ああ、光栄でございます。こちらこそ、皆様とご挨拶ができるだけでも浮かれておりましたよ」
と何やら楽しそうだ。
「ハオル様は、こちらでのお勤めは長いんですか?」
シンが世間話として尋ねると、
「そうですねえ、長いとは思いませんが、30年以上になりますねえ」
とハオルは過去を思い出しながら語った。
「この城内では、すっかり古株になってしまいましたね。他にも同じころに雇われた同僚がおりますが。でも、この30年の中で騎士団の方々を城内に入れたのは、ハウザー様がたが初めてだと記憶しております。何しろ、この国は平和というか、お陰様で争いごとのない毎日を過ごせておりましたゆえ」
ハオルは、ティーカップを持ち上げて少し何か言いたそうな表情をした。
「ハオル様は、このお城ではどういう職業になるんですか?」
ロキは、なるべく当たり障りのない会話を振る。
「ああ、私は、バトラーをしております。ご存じですかね、使用人長のようなものでして」
ハオルはふっと柔らかい表情に戻って言った。
「わあ、かっこいいですね、バトラーかあ……。上流貴族の選ばれた職業って感じだなあ」
シンがそう言って目を輝かせると、
「とんでもございません。自分の身体を張って要人を警護される皆様ほど、男らしい職業は無いと思います」
と、ハオルは謙遜した。カイは部下とハオルのやり取りを暫く横で聞きながら食事をとっていたが、
「30年以上となると、ハオル様は、王女殿下の前には先王に仕えていたことになりますね」
と何気なく言葉を発した。その突然の切り込みにシンとロキは思い切り焦る。
まだ、どこで誰に何を聞かれているか分からないというのに、どうしてこんなに堂々と核心を突くような質問をするのだろうと、2人は信じられない気持ちでいた。この団長の行動に、部下の2人はよく振り回される。
「ええ、そうですね。レナ様の父君に当たる先王に仕えておりましたね」
ハオルはカイに話しかけられ、少し嬉しそうに答えた。
「いや、王女殿下は国王陛下のことをあまり覚えていらっしゃらないようなので、ハオル様の方がご存じなのかと思ったんです」
カイが怪しまれそうな会話をなかなか止めないので、堪らずシンが割って入る。
「いや、俺たちその、まだルリアーナのことを良く知らないっていうか、王女殿下が女王陛下になると何が変わるのかとか、王様だったらどうなるのかっていうのが、イマイチ分からないなーって話してたんですよ」
(ナイス! シン!)
ロキはシンのフォローに感動しながら、上司の暴走に冷や汗をかいていた。
「ああ、先王のことですね……王女殿下が女王陛下になると変わることですか……もうすぐ近くにきている未来のことなのに、どうも私、実感がなくていけませんね」
ハオルはそう言って苦笑すると、
「レナ様を女王陛下に据えて、この国の責任を負わせるようなことをして、本当に良いのかと思ってしまうので、やはり私は未来を見ないようにしているのかもしれません」
と言った。
「えっ…………?」
シンとロキが突然のハオルの告白に目を丸くしていると、カイは早々に自分の食事を終わらせて、
「ほう、何かしらの責任を負う役目があるわけだな、王となると」
と、納得しながら頷いていた。
「はー……焦った……」
自室に戻るとシンはげっそりしながらベッドに座って項垂れている。
「団長にこの手の業務が向いていないのは分かっていましたが、もうちょっと何とか出来ませんでしたか」
ロキも昼食の時間を終えてすっかりやつれてしまっていた。
「まあ、お前たちが何とかしてくれると思っていたからな」
カイは何もなかったかのように机に向かうと、何かを書き始めている。
「こんなんで、城内の情報収集とか大丈夫かなあ……」
シンが遠くを見ながら呟くと、
「明日はサラさんが合流して、明後日はハンか……。団長にとっては何てことないと思いますけど、あの2人独特だから調子が狂わされることが多いんですよね……」
と、ロキは付け加えた。
「一応伝えておくと、サラはあれで女性だから、別室が与えられるそうだ」
カイが朗報だろうとばかりに言うと、
「当たり前じゃないですか……。そういうことじゃないんですよ……」
とロキは恨み節のように言った。
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