アメイジング・ナイト ―王女と騎士の35日―

碧井夢夏

文字の大きさ
上 下
41 / 221

the 7th night 一日が終わる前に

しおりを挟む
「いやー、以前付き合っていた女性が実は既婚者だったことがあって、危うく訴えられるところでしたね。なんで好きな人に裏切られた挙句に別れと訴訟が同時に来るんだろうって、ほんと落ち込んだな」
 ロキが過去の話を思い出して言うと、
「そんなことも、あるの……」
 とレナは目を見開いて感心している。

「いや、上流階級には起きない話なんで、話半分で聞いてください」
 シンはそんなレナに慌ててフォローした。王女に求婚するような身分の者が、不倫目当てなど聞いたことがない。

「でも、好きな人に裏切られるとか、お互いに見栄を張って黙っていることがどんどん嘘として膨らんでいって、結果騙し合いみたいになっちゃうことはありますよ」
 ロキは何かを思い出しながら、
「好きな人にはカッコつけたいんで、そういう嘘もあったりしますし」
 と言って、つい苦笑いを浮かべる。

「うん、それ分かるな」
 シンもそう言って穏やかに笑っている。
「素敵ね。人生で一度くらい、好きな人のことを考えて、心を通わせてみたりしたかったわ」
 レナが憧れを隠さずにため息まじりで言うと、
「まあ、恋愛はしたいと思ってするものじゃないんで、流れに身を任せたらいいんじゃないですか?例えば、あの王子様に」
 とロキはレナに言った。

「そうそう、一緒にいるうちに相手の意外な面を知って落ちてしまうのが恋愛ですから。あんまり深く考えなくていいんですよ」
 とシンも楽しそうに付け加えた。


「今日は2人と話せて楽しかった。やっぱり20代の男性なら、恋愛にも積極的に生きているのね」
 レナは満足そうに言うとソファから立ち上がり、横に置いてあったランタンを手に持った。

「団長は、参考にならないですからね」
 シンがそう言って立つと、ロキも立ち上がって少しためらいがちに、
「殿下が気を悪くしたら申し訳ないですが、団長だけは男性としてお勧めできないですね」
 と言って気まずそうにしている。

「そうなのね。参考に理由を教えてもらっても?」
 レナが驚いて尋ねると、
「あの人、見た目は完璧ですけど、中身は欠陥品ですから」
 とロキは笑って言った。
「あまり、その欠陥は分からないけど……」
 レナが不思議そうに言う。確かにカイは見た目が良いことが目立つ人物だが、そこまで性格が悪いとも思えなかった。

「団長は、他人に対する興味が仕事以外で全くない。あの人は、仕事にとって邪魔になる感情を全て切り捨てて生きている人です」
 ロキはハッキリ言い切った。自分の上司を貶めるわけでもなく、ただ、事実を述べた。

「つまり、この先も団長が誰かを好きになったり、誰かの好意を受け入れたりすることは、まずないってことです」
 それを聞いたシンも、ロキに続いて言う。
「殿下は団長に対する憧れをお持ちなので、それを恋愛感情と勘違いしてしまうことがこの先あるかもしれませんが、あの人を選ぶということは色々ある恋愛のうちでも、片想いを選ぶってことです」
 その言葉を聞いていたレナは、
「確かに、カイの今までの言動からして、そうかもしれないわね」
 とすんなり納得して頷いていた。


「はー……俺、なんであんなこと言っちゃったんだろ……。それにしても殿下可愛かったわー……。いや、殿下に可愛いって絶対失礼だよなあ……でも可愛いは可愛いとしか言えないわー……」
 部屋に戻ってシンはベッドに横たわると、先ほどまでの時間を回想しながらニヤニヤしていた。

 カイが夜の護衛に部屋を出ているため、同室で別のベッドに入り本をパラパラめくっていたロキも、
「殿下、団長のこと既に好きなのかもしれないけど、あんなこと言って良かったのかな」
 と言って自分の言動を反省している。

「ロキらしくないな。殿下が団長を好きなら好きで、お見合い相手と団長を比べているうちに団長の欠陥に気づいていくと思うし、あの団長だぞ?気にしなくていいだろ」
 シンがそう言って「おやすみ」と声を掛けると、ロキは満足そうな顔で横になった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

あなたが残した世界で

天海月
恋愛
「ロザリア様、あなたは俺が生涯をかけてお守りすると誓いましょう」王女であるロザリアに、そう約束した初恋の騎士アーロンは、ある事件の後、彼女との誓いを破り突然その姿を消してしまう。 八年後、生贄に選ばれてしまったロザリアは、最期に彼に一目会いたいとアーロンを探し、彼と再会を果たすが・・・。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...