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the 11th day お知り合い?
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その日の見合いは、ブリステ公国から侯爵が来るらしい。カイは、とうとうブリステからも見合い相手が来たか、と少し覚悟した。恐らく、相手には自分たちのことは知られているだろうし、ブリステからわざわざ王女の見合いに来る侯爵がどこの誰なのかも気になった。
ブリステ公国という国は、リブニケの圧政から逃れて独立した国ということもあって、自由を求める特徴がある。どんな国民性かと聞かれると難しかったが、事業をやるのには非常に都合の良い国だった。
少なくともカイにとっては、東洋人の特徴を持つ見た目を揶揄されながらも騎士団経営の事業を拡大できただけの恩はある。自分の住む場所がリブニケ王国のままだったら、まずうまくいかなかっただろう。
「弟、今日のお見合いはブリステから侯爵が来るんだってね」
ハンは何やら楽しそうだ。こういう時に深く物事を考えない兄貴分が少し羨ましい。
「何でハンがそんなに嬉しそうなんだ?」
カイは面倒なことにならなければよいなと思っていたくらいで、楽しいことが起こる予感は全くない。
「いや、向こうがルリアーナの護衛にブリステから来た騎士がついてるって気づいたら、何か言ってきそうじゃない?」
ハンはそう言ってドラマのような展開を思い描いているらしい。
「全然楽しくないな、それは」
カイはハンの想像にがっかりする。何か言われたとして、別に自分たちは悪いことをしているわけでもない。言ってしまえば、舞い込んだ依頼に応えているだけのことだ。ルリアーナの王女とブリステの侯爵が結婚するようなことがあれば、これからも定期的に仕事が入るかもしれないし、報酬面では期待できるかもしれない、とは思った。
「それにしても、毎日毎日お見合いがひっきりなしに、ルリアーナの王女様って大変なんだねえ」
ハンは自分の支度をしながらしみじみと言った。
「いや、本当だな。自分が王になれるわけでもないのに、王族の元に嫁ぎたいという男がこうも現れるのかと驚くばかりだ」
カイもハンの意見に賛成だった。見合いの護衛などと思ってルリアーナに来てみたが、これはこれでなかなか精神力の要る仕事だと分かってきた。そもそも、あの王女は将来の伴侶をこのような形で本当に決められるのだろうか?
「そろそろ行くか」
カイはハンに王女を迎えに行く時間だと声を掛けた。
カイはハンを連れて王女の部屋を訪れる。部屋には、いつか見たグレージュのドレスに身を包んだレナが居た。
「今日は、ブリステからのお客様ね。もしカイの知っている方だったら、お見合いというのは気にせずに口を挟んでもらっても構わないわよ」
レナがそう言ってカイの誘導で応接室に向かう。ブリステから来た客は、護衛を数人連れているようだった。
(侯爵が領地で抱えている騎士か……)
カイは護衛の面々をよく見てみたが、知っている顔は特にいなかった。ブリステがそこまで広くない国とは言え、全ての騎士を把握しているわけではないので、まあそんなものか、と思い直す。
部屋に入ると、20代後半くらいの男性が席から立ち上がった。物腰が柔らかく、優しそうな雰囲気の男性は、レナの姿を目に入れると頭を下げた。
「初めまして、レナ・ルリアーナ様。美しいルリアーナの地にこうして辿り着けて嬉しく思います」
侯爵がそう言った後、小さな「あっ」という声が部屋に響き、誰が上げた声なのか部屋にいる誰もが互いを見つめる。すると、侯爵もその声の主に気づいて「ああ」と納得した。
「そちら、ハン・ヨウケンさんですね。まさかこんな異国の地で会うことになるとは」
ハンは何やら焦って侯爵から目を逸らし、
「いや、こちらで護衛に雇われておりまして。まさかこんなところでお見かけするとは思いませんでした。失礼いたしました。びっくりして、つい」
と慌てて弁解した。
「じゃあ、そこにいるのが貴方の弟さんのハウザー団長かな。なるほど、ブリステの有名人は美しい人ですね」
と侯爵は微笑んだ。それを目の前で見ていたレナは、明らかに疎外感を感じている。
「ブリステの方たちだけで、お話されます??」
レナが言ったのを、
「いや、なんでわざわざブリステから来た者同士がルリアーナの城で話をするんだ」
と思わずカイが突っ込んだ。
「弟、王女様への言葉遣いがなってないから」
ハンは咳払いをしてカイを咎める。その姿を侯爵は穏やかに見つめていた。
「いや、君は相変わらずだね。こんな遠くの地で会うとは思わなかったよ」
侯爵の言葉にハンは明らかに困っている。
「そちらも、まさかお見合いにいらっしゃるとは思いませんでした」
ハンと侯爵の独特の雰囲気が残ったまま、その日は世間話をしてお開きとなった。
見合いの後、応接に残ったカイはハンを睨む。
「どういうことだ、お兄様?」
カイの尖った言い方にハンは目を逸らし、レナは2人のやり取りをただ眺めていた。
「どういう知り合いだ、あれは」
カイが言葉を変えると、ハンは「あー」と声を出しながら言いにくそうにしている。
「とある場所で出会った方?」
ハンが白状したので、カイは深いため息をついた。
「やはりか……。殿下、この見合いはここで仕舞いだ」
カイの言葉にレナは全く状況が読めず、
「私、何が何だか分かっていないのだけど」
とキョトンとしていた。部屋の外にはサラが立っていたが、カイはサラを呼ぶ気はないようだ。
「殿下、理解できなくても仕方がないので、事実として聞いて欲しい。先ほどの侯爵は男性愛好者だ」
カイがそう言うと、レナは予想外の話に戸惑っていた。
「えっ、どういうこと?ハンは……」
「そういうことだ」
カイの言葉にハンは、
「ごめんなさいねえ、殿下」
と申し訳なさそうにしている。
「まあ、最初に分かって良かったな。時間が無駄にならずに済んだ」
カイはそう言ってその場を離れようとする。
「え?」
レナは、確信が持てないままハンを見ている。
「ええ?!」
レナの大きな声が応接に響いた。
ブリステ公国という国は、リブニケの圧政から逃れて独立した国ということもあって、自由を求める特徴がある。どんな国民性かと聞かれると難しかったが、事業をやるのには非常に都合の良い国だった。
少なくともカイにとっては、東洋人の特徴を持つ見た目を揶揄されながらも騎士団経営の事業を拡大できただけの恩はある。自分の住む場所がリブニケ王国のままだったら、まずうまくいかなかっただろう。
「弟、今日のお見合いはブリステから侯爵が来るんだってね」
ハンは何やら楽しそうだ。こういう時に深く物事を考えない兄貴分が少し羨ましい。
「何でハンがそんなに嬉しそうなんだ?」
カイは面倒なことにならなければよいなと思っていたくらいで、楽しいことが起こる予感は全くない。
「いや、向こうがルリアーナの護衛にブリステから来た騎士がついてるって気づいたら、何か言ってきそうじゃない?」
ハンはそう言ってドラマのような展開を思い描いているらしい。
「全然楽しくないな、それは」
カイはハンの想像にがっかりする。何か言われたとして、別に自分たちは悪いことをしているわけでもない。言ってしまえば、舞い込んだ依頼に応えているだけのことだ。ルリアーナの王女とブリステの侯爵が結婚するようなことがあれば、これからも定期的に仕事が入るかもしれないし、報酬面では期待できるかもしれない、とは思った。
「それにしても、毎日毎日お見合いがひっきりなしに、ルリアーナの王女様って大変なんだねえ」
ハンは自分の支度をしながらしみじみと言った。
「いや、本当だな。自分が王になれるわけでもないのに、王族の元に嫁ぎたいという男がこうも現れるのかと驚くばかりだ」
カイもハンの意見に賛成だった。見合いの護衛などと思ってルリアーナに来てみたが、これはこれでなかなか精神力の要る仕事だと分かってきた。そもそも、あの王女は将来の伴侶をこのような形で本当に決められるのだろうか?
「そろそろ行くか」
カイはハンに王女を迎えに行く時間だと声を掛けた。
カイはハンを連れて王女の部屋を訪れる。部屋には、いつか見たグレージュのドレスに身を包んだレナが居た。
「今日は、ブリステからのお客様ね。もしカイの知っている方だったら、お見合いというのは気にせずに口を挟んでもらっても構わないわよ」
レナがそう言ってカイの誘導で応接室に向かう。ブリステから来た客は、護衛を数人連れているようだった。
(侯爵が領地で抱えている騎士か……)
カイは護衛の面々をよく見てみたが、知っている顔は特にいなかった。ブリステがそこまで広くない国とは言え、全ての騎士を把握しているわけではないので、まあそんなものか、と思い直す。
部屋に入ると、20代後半くらいの男性が席から立ち上がった。物腰が柔らかく、優しそうな雰囲気の男性は、レナの姿を目に入れると頭を下げた。
「初めまして、レナ・ルリアーナ様。美しいルリアーナの地にこうして辿り着けて嬉しく思います」
侯爵がそう言った後、小さな「あっ」という声が部屋に響き、誰が上げた声なのか部屋にいる誰もが互いを見つめる。すると、侯爵もその声の主に気づいて「ああ」と納得した。
「そちら、ハン・ヨウケンさんですね。まさかこんな異国の地で会うことになるとは」
ハンは何やら焦って侯爵から目を逸らし、
「いや、こちらで護衛に雇われておりまして。まさかこんなところでお見かけするとは思いませんでした。失礼いたしました。びっくりして、つい」
と慌てて弁解した。
「じゃあ、そこにいるのが貴方の弟さんのハウザー団長かな。なるほど、ブリステの有名人は美しい人ですね」
と侯爵は微笑んだ。それを目の前で見ていたレナは、明らかに疎外感を感じている。
「ブリステの方たちだけで、お話されます??」
レナが言ったのを、
「いや、なんでわざわざブリステから来た者同士がルリアーナの城で話をするんだ」
と思わずカイが突っ込んだ。
「弟、王女様への言葉遣いがなってないから」
ハンは咳払いをしてカイを咎める。その姿を侯爵は穏やかに見つめていた。
「いや、君は相変わらずだね。こんな遠くの地で会うとは思わなかったよ」
侯爵の言葉にハンは明らかに困っている。
「そちらも、まさかお見合いにいらっしゃるとは思いませんでした」
ハンと侯爵の独特の雰囲気が残ったまま、その日は世間話をしてお開きとなった。
見合いの後、応接に残ったカイはハンを睨む。
「どういうことだ、お兄様?」
カイの尖った言い方にハンは目を逸らし、レナは2人のやり取りをただ眺めていた。
「どういう知り合いだ、あれは」
カイが言葉を変えると、ハンは「あー」と声を出しながら言いにくそうにしている。
「とある場所で出会った方?」
ハンが白状したので、カイは深いため息をついた。
「やはりか……。殿下、この見合いはここで仕舞いだ」
カイの言葉にレナは全く状況が読めず、
「私、何が何だか分かっていないのだけど」
とキョトンとしていた。部屋の外にはサラが立っていたが、カイはサラを呼ぶ気はないようだ。
「殿下、理解できなくても仕方がないので、事実として聞いて欲しい。先ほどの侯爵は男性愛好者だ」
カイがそう言うと、レナは予想外の話に戸惑っていた。
「えっ、どういうこと?ハンは……」
「そういうことだ」
カイの言葉にハンは、
「ごめんなさいねえ、殿下」
と申し訳なさそうにしている。
「まあ、最初に分かって良かったな。時間が無駄にならずに済んだ」
カイはそう言ってその場を離れようとする。
「え?」
レナは、確信が持てないままハンを見ている。
「ええ?!」
レナの大きな声が応接に響いた。
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