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the 11th day 不機嫌な事実

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 ポテンシアの第四王子は、朝早くから報告書に目を通していた。
 優秀な近衛兵たちは、今もルリアーナに滞在して逐一情報を送ってくれる。予想もしなかった報告がいくつか届き、王子は次の手を決めかねていた。

 まず、諸悪の根源だと思っていた公爵は教会を利用しているのではなく、教会と同一派閥ということらしい。部下は公爵の屋敷をくまなく探し、いくつかの証拠になりそうな手紙や文書を入手していた。

「ふうん。ルリアーナの正教会というのが、あの公爵の所属する派閥なんだね」

 王女信仰、女王崇拝のあるルリアーナ正教会は、レナを崇拝の対象にして各地で教会の権力を誇示したいらしい。よく聞く話だな、と王子はうんざりした。
 どんな理由であれ、彼女を利用の対象にしようとは、なんとも腹立たしい。その崇拝対象に手を掛けようなどとしたメイソン公爵は、もっと許しがたい。

 それにしても、あの公爵は今頃どうなっているだろうか。感情に任せて剣を突き刺してきてしまったが、傷口から病気などになって弱っているのではないか。苦しめば良いと思ったが、できればまだ生きたまま泳がせておきたい。

「ルリアーナに、また行こうかな」
 幸い、ポテンシアの国王である父親は、身分の低い側室の子どもである第4王子の行動には何も口を出してこない。問題事さえ起こさなければ自由にしろ、という父親のスタンスはいつも王子に都合がよかった。

 ルイスは、2度目の見合い機会が来るまでルリアーナ訪問は控えておくつもりだったが、彼女が利用されようとしている以上、黙っているつもりはない。

「お姫様のピンチに駆け付けるのは、王子様って決まっているんだっけ」
 童話や民謡では、お姫様は王子様に救われる。そして2人は結婚して物語は終わるのだ。

「まあ、現実はそんなに簡単じゃないだろうな。女王になるお姫様は」
 物語に出てくるお姫様は、無知で守られることに慣れた弱い存在だ。そんな童話を読んだ少女たちは、着飾っていれば王子様が助けてくれる夢物語に憧れる。それに比べ、ルリアーナの王女様は子どもの頃から大人の世界で戦い続けてきた、特異な存在だった。

(武力を好まない国に、武力で介入するのは賢い手ではない。なるべく必然的に、彼女が自分を頼る状況を作っていかなければ……)
 ルイスは、あらゆる可能性を考えながら最善の答えを探そうとしていた。

「ルイス様、お食事の準備ができました」
 不意に使用人に声を掛けられた。もうそんな時間かと、ルイスは驚く。

「うん、今日も食材はちゃんとルリアーナ産にしてくれた?」
「勿論でございます。ルイス様のこだわりについては、間違いなく応えております」
 使用人はそう言って朝食を運んできた。

「ありがとう。じゃあ、残さずいただこう」
 王子はそう言うと、態度を少し変えて、楽しそうに朝食を眺める。
(私の身体に入れる食物は、彼女の国のものでなければね……。この身体を作るものが、全て彼女のものだと思えなければ、意味が無いからね)

 王子のこだわりは、いつでもルリアーナが基準だった。
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