アメイジング・ナイト ―王女と騎士の35日―

碧井夢夏

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the 10th day 先導士

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 その日の朝、サラはハオルやサーヤ達と使用人用の食堂で一緒に食事を取っていた。サラは面倒見の良い性格のせいか、見た目に包容力を感じさせるのか、どこに行っても労働者たちの中に溶け込むのが早い。

「サラさんは、ずっとブリステでハウザー様の部下をしていたんですか?」
 サーヤに聞かれ、
「いや、あたしは元々団長の父親の部下だったのよ」
 とサラは昔話を始めた。
「団長の父親は東洋から来た、それはそれは熊みたいな傭兵でね。まあ、あれが一騎当千という感じの人だったかなあ。傭兵の中ではちょっとした英雄よ。顔は全くカイに似てないんだけど」

 サーヤとハオルは、初めて聞くカイの父親の話に目を輝かせた。
「ハウザー様のお父様は、そんなにお強い方だったのですね!」
 ハオルは何やら嬉しそうだ。サラも少し楽しくなってきた。

「そうね、背なんて、私より頭1個分以上も大きくて、そのくせ動きが俊敏でね。東洋の大きな商会と一緒に世界中を旅していたのよ」
 サラは昔を思い出し、懐かしむ。
「まあ、若くして亡くなって、もうあの人より私の方が年上になっちゃったんだけどさ」

 思えば、サラは大切な人を立て続けに亡くしていた。蒼とホーリーを同日に、その1年後には夫もこの世を去っている。
 サラがしんみりとしていたので、サーヤもハオルもかける言葉を失ってしまった。

「この仕事していると、人の死がどうも身近でね。常に自分も向こうから呼ばれているような気がするのよ」
 サラはそう言って手に持っていたカップを置いた。
「ルリアーナは、平和で良い国だね」
 そこに深い意味はなかったが、戦争が日常でない国は、やはり良い国だと思った。人も穏やかで、特に荒れているところもない。

「サラさんも、ルリアーナに住めば良いのに」
 サーヤは少し元気なく昔を思い出しているサラに向かって笑って言った。
「そうねえ、移住かあ。私に何か仕事があれば考えてもいいねえ」
 サラがそう言うと、
「住み込みなら、農家が常に人手を募集してますよ」
 とサーヤは嬉しそうに提案した。サラは農業従事者になったことはなかったが、体力や力には自信があるし、労働力にはなれるかもしれない。
「農家かあ、楽しそうだね」
 サラはそう言って笑った。サーヤとハオルもつられて笑う。

「ルリアーナはずっと昔から農業が盛んだったの? 戦争はしない国なんだろう? 領主同士の争いが起きたりしないのは不思議だね。2人がお城に勤めるようになってから、ずっと国内で争いは起きていない?」
 サラが何気なく尋ねると、
「領主は王の下にあり、王は全ての裁きを負います。国内で何かが起きそうになると、それは王が治めてきました」
 とハオルがゆっくりと答えた。

「私の父が言うのには、軍や騎士を抱えていなくても、この国には偉大な王の力があり、国は平定できるのだと」
 サーヤもハオルに付け加えて言った。
「たった一人の王の力で、そんなことが出来るもんなんだね」
 サラは純粋に驚いていたが、そういえば、この国は王が居なくなって何年経つんだろうか? と疑問が沸いた。王の力があるのであれば、王がいない間はその力を発揮できないはずだ。

「王の不在の間はどうしているの?」
 サラが何気なく2人に聞くと、
「その代わりに統治をする方がいましたね」
 と、サーヤは当たり前のように言った。
「その代わりの方って…………?」
 サラは初めて聞くワードに胸騒ぎを覚える。

「この国では……正教会の『先導士』が代々王政のサポートをしていたんですよ」
 サーヤの言葉に、サラは一瞬息をするのを忘れていた。
 背中に、何か嫌なものが伝うような心地がする。動揺しているのを悟られないよう、サラは2人に尋ねた。

「その方は一体どこで『先導士』をして、具体的にはどんなことをしているの?」
 気を抜くと緊張が伝わりそうになるのを、サラは必死で笑顔を作る。
「さすがにそれは、私たちにも分かりません」
 サーヤは当たり前のように笑って答えた。
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