59 / 221
the 10th day 油断大敵
しおりを挟む
「ねえ、弟。ちょっと気になることがあるんだけど」
自室でハンに声を掛けられ、カイは朝食のバゲットサンドを咥えたままハンを見た。
「何? その食べてますけどっていう適当な感じ……まあいいや、ちょっとお城の中の人たちと色々話したりしてみて、引っかかってるっていうか」
ハンは何かを思い出しながら続ける。
「この国の人たち、これはなんとなくだけど、先王とそのお妃様のこと、あんまり覚えていないような気がしない?」
ハンに言われてカイは記憶をたどるが、あまり思い当たる節が無く、
「?」
と首を傾げた。勿論、口にはバゲットサンドが咥えられたままだ。
「それ、話聞く態度? シスターズが見たら喜ぶかもしれないけど、兄には通じないから」
ハンはそう言ってカイの背中をピシャリと叩いて部屋を出て行った。
ハンは力が強い。カイは危うくバゲットが喉に刺さるところだった。
(先王と妃を覚えていない…………確かに、殿下はそんな感じだった気がするが……)
それ以外の人間に、先王と妃のことをあまり深く尋ねたことが無かったので、ハッキリとみんながそうだとは思えないでいた。ハオルに先王のことを訪ねた時も、特に具体的な話は出なかったが、忘れいているような話し方はしていなかった気がしている。
ただ、ハンに言われたことが引っかかっているのも事実だった。何か、ここには何か欠けている要素があるような、不思議な感覚がある。
ロキが調べた王家の系譜にも、何故か事実が欠けていた。
意図的に、外部の人間に知られないようにしているのだとして、なぜ隠す必要があるのだろうか。国王の他殺にも関係しているのかもしれない。国王を暗殺した人間は、何故当時7歳のレナを残したのだろうかというのも気になっていた。
(王家自体が邪魔であれば、王女を葬る選択肢はなかったのだろうか…………。王女信仰があるということは、王女のみを残したということと繋がるのだろうか……)
シンとロキの情報も含めて総合的に判断したいところだったが、限られた時間の中で部下の2人がどこまでの情報を収集できるかは分からないことも想定している。部下の2人は優秀だが、ここまで謎に包まれていると一筋縄ではいかないだろう。
カイは、ふとその日に届いた朝刊に目を落とした。
『ルリアーナ王女の見合いに、ポテンシア第四王子が訪問』
大きく踊る題字に、カイは目を疑った。
(王女の見合いが娯楽になっているというのはこういうことなのか……)
記事を読むと、ポテンシアの第四王子が沢山の護衛を連れて王女の元を訪れたことが書かれている。丁寧にルイスのプロフィールまで載っていた。
(あの王子、どこか得体のしれないものを感じたな)
カイはルリアーナに積極的に協力を持ちかけた第四王子の印象を思い出す。レナの見合い相手には申し分ない条件が揃っているが、協力者としてはまだ底知れぬ何かを秘めていそうだ。
カイはざっと記事に目を通すと、ルリアーナの新聞記事に恐ろしさを感じていた。
自分が勝手に記事にされないように、誰に口封じをしておけばよいのだろうかと仕事以上に気になって新聞を畳む。
ルリアーナに来て以来、あまり注目されずに仕事ができていると思っていたが、案外油断はできないな、と思い直した。
自室でハンに声を掛けられ、カイは朝食のバゲットサンドを咥えたままハンを見た。
「何? その食べてますけどっていう適当な感じ……まあいいや、ちょっとお城の中の人たちと色々話したりしてみて、引っかかってるっていうか」
ハンは何かを思い出しながら続ける。
「この国の人たち、これはなんとなくだけど、先王とそのお妃様のこと、あんまり覚えていないような気がしない?」
ハンに言われてカイは記憶をたどるが、あまり思い当たる節が無く、
「?」
と首を傾げた。勿論、口にはバゲットサンドが咥えられたままだ。
「それ、話聞く態度? シスターズが見たら喜ぶかもしれないけど、兄には通じないから」
ハンはそう言ってカイの背中をピシャリと叩いて部屋を出て行った。
ハンは力が強い。カイは危うくバゲットが喉に刺さるところだった。
(先王と妃を覚えていない…………確かに、殿下はそんな感じだった気がするが……)
それ以外の人間に、先王と妃のことをあまり深く尋ねたことが無かったので、ハッキリとみんながそうだとは思えないでいた。ハオルに先王のことを訪ねた時も、特に具体的な話は出なかったが、忘れいているような話し方はしていなかった気がしている。
ただ、ハンに言われたことが引っかかっているのも事実だった。何か、ここには何か欠けている要素があるような、不思議な感覚がある。
ロキが調べた王家の系譜にも、何故か事実が欠けていた。
意図的に、外部の人間に知られないようにしているのだとして、なぜ隠す必要があるのだろうか。国王の他殺にも関係しているのかもしれない。国王を暗殺した人間は、何故当時7歳のレナを残したのだろうかというのも気になっていた。
(王家自体が邪魔であれば、王女を葬る選択肢はなかったのだろうか…………。王女信仰があるということは、王女のみを残したということと繋がるのだろうか……)
シンとロキの情報も含めて総合的に判断したいところだったが、限られた時間の中で部下の2人がどこまでの情報を収集できるかは分からないことも想定している。部下の2人は優秀だが、ここまで謎に包まれていると一筋縄ではいかないだろう。
カイは、ふとその日に届いた朝刊に目を落とした。
『ルリアーナ王女の見合いに、ポテンシア第四王子が訪問』
大きく踊る題字に、カイは目を疑った。
(王女の見合いが娯楽になっているというのはこういうことなのか……)
記事を読むと、ポテンシアの第四王子が沢山の護衛を連れて王女の元を訪れたことが書かれている。丁寧にルイスのプロフィールまで載っていた。
(あの王子、どこか得体のしれないものを感じたな)
カイはルリアーナに積極的に協力を持ちかけた第四王子の印象を思い出す。レナの見合い相手には申し分ない条件が揃っているが、協力者としてはまだ底知れぬ何かを秘めていそうだ。
カイはざっと記事に目を通すと、ルリアーナの新聞記事に恐ろしさを感じていた。
自分が勝手に記事にされないように、誰に口封じをしておけばよいのだろうかと仕事以上に気になって新聞を畳む。
ルリアーナに来て以来、あまり注目されずに仕事ができていると思っていたが、案外油断はできないな、と思い直した。
0
お気に入りに追加
92
あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
あなたが残した世界で
天海月
恋愛
「ロザリア様、あなたは俺が生涯をかけてお守りすると誓いましょう」王女であるロザリアに、そう約束した初恋の騎士アーロンは、ある事件の後、彼女との誓いを破り突然その姿を消してしまう。
八年後、生贄に選ばれてしまったロザリアは、最期に彼に一目会いたいとアーロンを探し、彼と再会を果たすが・・・。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる