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the 10th day 二日酔いには気を付けて
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シンは朝から周辺を軽く散歩した。昨日到着した伯爵領にある宿で、ロキはまだ眠っている。
村の教会を出てから6時間ほど歩いてこの町に着くと、宿を取って久しぶりに2人で酒を飲んだ。シンはアルコールの弱い酒を2杯飲んでロキの話を聞くだけだったが、その日のロキには強い酒が必要だったらしい。今まで酔いつぶれることなどなかった同僚が、言葉を発せなくなるまで飲み続ける姿を見届ける羽目になってしまった。
城を出て1日、今のところ自分たちを見張るものや不審な目で見る者はいない。ルリアーナはつくづく平和だなとシンは感心していた。
(これがブリステだったら、今頃何回か揉め事が起きていたかもしれない)
ロキにとっては、その位気持ちが休まらずに済む方が余計なことを考えずに済んだかもしれなかったが、それでもシンは平和な国に来られたことに感謝していた。
ルリアーナという国は、やはり争いの少ない「いい国」に見える。
王女信仰を目の当たりにしても、その宗教が人々を洗脳したり不幸にしているようには全く見えなかった。のどかな田園風景や羊が放牧されている風景に、シンは何度も癒されている。
滞在している小さな町を治める伯爵も、何かを企てていそうな気配は感じなかった。
(ここは、白だろうか……………)
疑問だけが積み上がって行く。いつもこんな時は、ロキと話をしているだけで頭の中の散らかった情報がまとまるのだった。
ふと鼻を刺激する心地よい香りにシンは意識を向けた。宿の方からパンの焼ける香ばしい香りが漂って来ていた。そろそろ朝食の時間だろうか。
シンは、ロキを起こしに行くか、と宿に戻った。
[534222179/1608878253.jpg]
「頭が割れそう……………」
シンが部屋に戻ると、ロキがロキらしからぬ顔で椅子に座っていた。ストレートの美しいプラチナブロンドが無造作に顔に掛かっている。
「美男が台無しだな」
シンがそう言ってロキを眺めると、
「ホント、向いてない事するもんじゃないね」
とロキは苦笑した。
「二日酔いだからって業務に支障を来すようなことは許さないからな」
シンは仕事になると同僚にも厳しい。ロキはそんなシンに「ふん」と言って椅子に身体を預けた。
「分かってるよ。命かかってるのに、二日酔いで動けないとかありえないでしょ」
ロキはそう言うと思い直したように席を立つ。
「シャワー浴びてお酒抜いてくる」
そう言って部屋についている個室に消えた。
「やだ、あそこにいる人カッコよくない?」
「えーうそー………この辺の人じゃないよね?」
2人に聞こえてくる女性の声に、シンは、
(ま、そーなるわな)
と複雑な表情をしている。ルリアーナに着くまでの2人行動でも度々起きたことだが、ここ数日間体験していなかったので改めて日常が戻ってきたのだなと実感した。
「やだなあ、まだ失恋の痛みから立ち直ってないっていうのに、騒がれちゃってる気がするよ」
ロキが女性の方に目もくれずにそう言うと、
「まあ、ロキが女の子に騒がれるのは今に始まったことじゃない……………けど……………さっきまであんなにボロボロだったのに、よくもまあ、そこまで普通に戻れるよな」
とシンは感心をしつつも、忌々しいとでも言いたそうにロキを見る。
「嫉妬しないでよ? 言っておくけどあの人たちが俺に向かって言っているとは限らないんだから」
ロキがいつも通りの口調で言う。
「いや、身の程は分かってる」
シンはそう言って前を向いた。なるべく女性の方は見まい、とまっすぐ進む。
「ここの伯爵、最初に行った教会を設立した子孫らしいけど、ルリアーナ王室への信仰心に特別なにか深いものがあるってことは無いみたいだね」
どこで仕入れた情報なのか、ロキが言った。
「そうなのか?」
シンが驚いて尋ねると、
「どうやら、あの教会に対して特に何かしていることもないらしい。このあたりの人も、特別ルリアーナ王女への信仰はないんだって」
ロキはサラリと答えた。いつの間に情報収集をしていたのだろうか、相変わらずロキの行動力と情報収集能力には驚かされる。
「へえ? 城が近いからかな。信仰の対象にするには身近すぎるとか」
シンはロキの言葉に思ったことを口にする。
「まあ、身近ではないだろうけど……そもそも生きている人を信仰すること自体、宗教として珍しい気がするんだよね」
ロキが言うと、シンも「ああ」と頷き、
「来る途中に思ったよ。あの教会が建国後50年くらい経って建てられたっていうのも、恐らく女王陛下が亡くなったからかなと。そう考えると、祀っているという意味では普通の教会なんじゃないかなって」
と思うところを話した。
「だよねえ。生きている人を信仰するって、やっぱりピンと来ないんだよな――」
ロキはそう言うと、またレナを思い出した。
「あの人さ、そんなに崇めたくなる感じじゃないと思う」
何やら青春の香りのする顔で発言している。
「おい、突っ込んでいいのか? それ」
「いや、なんで。だってあの人、そんなに神々しくないでしょ。まあ、ちょっとは美人だし、可愛いとは思うけど」
ロキの発言に、シンは憐みの目を向け、手を口に当て、何も言えなくなっている。
「えっ、なんでそんな可哀そうな人を見るような目?」
ロキが怒ると、
「いや、もう……健気だね……」
とシンはロキを見ながら、口元が綻んでしまうのを止めることができなかった。
村の教会を出てから6時間ほど歩いてこの町に着くと、宿を取って久しぶりに2人で酒を飲んだ。シンはアルコールの弱い酒を2杯飲んでロキの話を聞くだけだったが、その日のロキには強い酒が必要だったらしい。今まで酔いつぶれることなどなかった同僚が、言葉を発せなくなるまで飲み続ける姿を見届ける羽目になってしまった。
城を出て1日、今のところ自分たちを見張るものや不審な目で見る者はいない。ルリアーナはつくづく平和だなとシンは感心していた。
(これがブリステだったら、今頃何回か揉め事が起きていたかもしれない)
ロキにとっては、その位気持ちが休まらずに済む方が余計なことを考えずに済んだかもしれなかったが、それでもシンは平和な国に来られたことに感謝していた。
ルリアーナという国は、やはり争いの少ない「いい国」に見える。
王女信仰を目の当たりにしても、その宗教が人々を洗脳したり不幸にしているようには全く見えなかった。のどかな田園風景や羊が放牧されている風景に、シンは何度も癒されている。
滞在している小さな町を治める伯爵も、何かを企てていそうな気配は感じなかった。
(ここは、白だろうか……………)
疑問だけが積み上がって行く。いつもこんな時は、ロキと話をしているだけで頭の中の散らかった情報がまとまるのだった。
ふと鼻を刺激する心地よい香りにシンは意識を向けた。宿の方からパンの焼ける香ばしい香りが漂って来ていた。そろそろ朝食の時間だろうか。
シンは、ロキを起こしに行くか、と宿に戻った。
[534222179/1608878253.jpg]
「頭が割れそう……………」
シンが部屋に戻ると、ロキがロキらしからぬ顔で椅子に座っていた。ストレートの美しいプラチナブロンドが無造作に顔に掛かっている。
「美男が台無しだな」
シンがそう言ってロキを眺めると、
「ホント、向いてない事するもんじゃないね」
とロキは苦笑した。
「二日酔いだからって業務に支障を来すようなことは許さないからな」
シンは仕事になると同僚にも厳しい。ロキはそんなシンに「ふん」と言って椅子に身体を預けた。
「分かってるよ。命かかってるのに、二日酔いで動けないとかありえないでしょ」
ロキはそう言うと思い直したように席を立つ。
「シャワー浴びてお酒抜いてくる」
そう言って部屋についている個室に消えた。
「やだ、あそこにいる人カッコよくない?」
「えーうそー………この辺の人じゃないよね?」
2人に聞こえてくる女性の声に、シンは、
(ま、そーなるわな)
と複雑な表情をしている。ルリアーナに着くまでの2人行動でも度々起きたことだが、ここ数日間体験していなかったので改めて日常が戻ってきたのだなと実感した。
「やだなあ、まだ失恋の痛みから立ち直ってないっていうのに、騒がれちゃってる気がするよ」
ロキが女性の方に目もくれずにそう言うと、
「まあ、ロキが女の子に騒がれるのは今に始まったことじゃない……………けど……………さっきまであんなにボロボロだったのに、よくもまあ、そこまで普通に戻れるよな」
とシンは感心をしつつも、忌々しいとでも言いたそうにロキを見る。
「嫉妬しないでよ? 言っておくけどあの人たちが俺に向かって言っているとは限らないんだから」
ロキがいつも通りの口調で言う。
「いや、身の程は分かってる」
シンはそう言って前を向いた。なるべく女性の方は見まい、とまっすぐ進む。
「ここの伯爵、最初に行った教会を設立した子孫らしいけど、ルリアーナ王室への信仰心に特別なにか深いものがあるってことは無いみたいだね」
どこで仕入れた情報なのか、ロキが言った。
「そうなのか?」
シンが驚いて尋ねると、
「どうやら、あの教会に対して特に何かしていることもないらしい。このあたりの人も、特別ルリアーナ王女への信仰はないんだって」
ロキはサラリと答えた。いつの間に情報収集をしていたのだろうか、相変わらずロキの行動力と情報収集能力には驚かされる。
「へえ? 城が近いからかな。信仰の対象にするには身近すぎるとか」
シンはロキの言葉に思ったことを口にする。
「まあ、身近ではないだろうけど……そもそも生きている人を信仰すること自体、宗教として珍しい気がするんだよね」
ロキが言うと、シンも「ああ」と頷き、
「来る途中に思ったよ。あの教会が建国後50年くらい経って建てられたっていうのも、恐らく女王陛下が亡くなったからかなと。そう考えると、祀っているという意味では普通の教会なんじゃないかなって」
と思うところを話した。
「だよねえ。生きている人を信仰するって、やっぱりピンと来ないんだよな――」
ロキはそう言うと、またレナを思い出した。
「あの人さ、そんなに崇めたくなる感じじゃないと思う」
何やら青春の香りのする顔で発言している。
「おい、突っ込んでいいのか? それ」
「いや、なんで。だってあの人、そんなに神々しくないでしょ。まあ、ちょっとは美人だし、可愛いとは思うけど」
ロキの発言に、シンは憐みの目を向け、手を口に当て、何も言えなくなっている。
「えっ、なんでそんな可哀そうな人を見るような目?」
ロキが怒ると、
「いや、もう……健気だね……」
とシンはロキを見ながら、口元が綻んでしまうのを止めることができなかった。
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