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the 9th night 女同士
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その日の夜、サラ・フォートンが王女の護衛に入っていると、扉の向こうで声がした。
「こんばんは、そちらにいるのは、サラさん?」
サラは夕方、王女にシフトを伝えた旨をカイに報告されたが、こういうことだったのかと納得する。
「ええ、王女殿下。サラ・フォートンがこちらで殿下をお守りしております」
サラは、自分の娘と殆ど歳の変わらない王女にそう返事をした。
「少し、話をしても良い?」
王女がサラに何を伝えたいのだろうかと不思議だったが、サラは、
「どうぞ、私は構いませんよ」
と穏やかに答えた。扉が開き、寝間着姿のレナがランタンを持って立っていた。
「ゆっくりお話しするのは初めてね。女性同士、もしかすると何か話せることがあるかもしれないと思ったの」
レナはそう言って部屋に入り、定位置になりつつあるソファに身体をうずめた。
「サラさんも、座って」
レナが言うと、サラは離れた丸テーブルの方に向かい、椅子に腰を下ろした。
「こんな夜中に、王女様がどうしたっていうんですか?」
サラは不思議そうにレナの姿を見た。寝間着姿で着飾っていないレナは、見れば見るほど、自分の娘と同じ年頃の普通の女性に見える。
「最近は、夜こうして話に付き合ってくれる人がいて、助かっているの」
レナがそう言って話し始めると、サラは騎士団の他のメンバーも同じように王女の話に付き合っていたのだなと理解した。
「私、最近人を傷つけた自覚があって、それでちょっと落ち込んだりもしていたりで」
レナがゆっくり話し始めた。
「傷っていうのは、物理的なもの? それとも、心の問題ですか?」
サラがレナに聞き返すと、
「心の方」
とレナは気まずそうに答える。
「その年なら、よくあることじゃないですか。傷つけ合って分かることも多い」
サラはそう言って、まるで娘と話しているようだなと思った。
「サラさんは、娘さんとこういう話はするの?」
レナに聞かれてサラは、
「あ、それは、はい。人並みに? 娘も18歳で成人して家を出たので最近はめっきり話をしなくなりましたが、よく私に泣き言をいう子だったので」
と笑って答える。まるで自分の頭の中が読まれたような流れになってしまった。
「私も、親とこんな会話ができたらよかった。多分お父様とお母様は生きていてもこんな風に向き合ってはくれなかったと思うけれど」
レナが寂しそうにそう言ったのを、サラは、
「尊い家柄の方は、家族を複雑にしちゃうところがありますね」
と、困ったように言ってレナに微笑んだ。
「複雑にしてしまう………そうなのね」
レナは、サラの言う普通の家族が良く分からない。それでも、自分がいわゆる『普通』にあてはまらないことは分かっていた。
「大切な人を傷つけて、私にどうすることもできないとしたら、その人とはもう普通に接することは難しいのかしら」
レナがサラに尋ねると、
「なぞなぞみたいで抽象的な質問ですね」
とサラは首を傾げている。レナは他にどう言うのが良いか分からず考え込んでいた。
「一般論だけで答えるなら………もし、殿下がその方を本当に大切だと思っているのなら、態度でそれを地道に伝えていくしかないかもしれませんね。最初は信じてもらえなくても、誠実さをもって諦めずに。あまり近道は無いような気がしますよ」
サラが言うと、レナはソファに横になり、
「信じてもらえなくても………そうね。でも、辛いわね」
と言って手で顔を覆っていた。サラはレナを眺めながら、
「大丈夫ですよ、諦めなければ、きっと通じます」
と言うと、暫くそのまま何も言わずにレナを待った。
(諦めなければ……………)
レナは、ソファから立ち上がり、
「くよくよしても、何も良くならないわね」
と何か吹っ切れたように言うと、サラにお礼を言って部屋に戻って行った。
サラはレナの小さな背中を見ながら、自分の娘と変わらない年齢の王女を不憫に思った。
年頃の娘に女王の責務を担わせるルリアーナは、果たして平和な国なのだろうか?サラは静かに怒りを覚えていた。
「こんばんは、そちらにいるのは、サラさん?」
サラは夕方、王女にシフトを伝えた旨をカイに報告されたが、こういうことだったのかと納得する。
「ええ、王女殿下。サラ・フォートンがこちらで殿下をお守りしております」
サラは、自分の娘と殆ど歳の変わらない王女にそう返事をした。
「少し、話をしても良い?」
王女がサラに何を伝えたいのだろうかと不思議だったが、サラは、
「どうぞ、私は構いませんよ」
と穏やかに答えた。扉が開き、寝間着姿のレナがランタンを持って立っていた。
「ゆっくりお話しするのは初めてね。女性同士、もしかすると何か話せることがあるかもしれないと思ったの」
レナはそう言って部屋に入り、定位置になりつつあるソファに身体をうずめた。
「サラさんも、座って」
レナが言うと、サラは離れた丸テーブルの方に向かい、椅子に腰を下ろした。
「こんな夜中に、王女様がどうしたっていうんですか?」
サラは不思議そうにレナの姿を見た。寝間着姿で着飾っていないレナは、見れば見るほど、自分の娘と同じ年頃の普通の女性に見える。
「最近は、夜こうして話に付き合ってくれる人がいて、助かっているの」
レナがそう言って話し始めると、サラは騎士団の他のメンバーも同じように王女の話に付き合っていたのだなと理解した。
「私、最近人を傷つけた自覚があって、それでちょっと落ち込んだりもしていたりで」
レナがゆっくり話し始めた。
「傷っていうのは、物理的なもの? それとも、心の問題ですか?」
サラがレナに聞き返すと、
「心の方」
とレナは気まずそうに答える。
「その年なら、よくあることじゃないですか。傷つけ合って分かることも多い」
サラはそう言って、まるで娘と話しているようだなと思った。
「サラさんは、娘さんとこういう話はするの?」
レナに聞かれてサラは、
「あ、それは、はい。人並みに? 娘も18歳で成人して家を出たので最近はめっきり話をしなくなりましたが、よく私に泣き言をいう子だったので」
と笑って答える。まるで自分の頭の中が読まれたような流れになってしまった。
「私も、親とこんな会話ができたらよかった。多分お父様とお母様は生きていてもこんな風に向き合ってはくれなかったと思うけれど」
レナが寂しそうにそう言ったのを、サラは、
「尊い家柄の方は、家族を複雑にしちゃうところがありますね」
と、困ったように言ってレナに微笑んだ。
「複雑にしてしまう………そうなのね」
レナは、サラの言う普通の家族が良く分からない。それでも、自分がいわゆる『普通』にあてはまらないことは分かっていた。
「大切な人を傷つけて、私にどうすることもできないとしたら、その人とはもう普通に接することは難しいのかしら」
レナがサラに尋ねると、
「なぞなぞみたいで抽象的な質問ですね」
とサラは首を傾げている。レナは他にどう言うのが良いか分からず考え込んでいた。
「一般論だけで答えるなら………もし、殿下がその方を本当に大切だと思っているのなら、態度でそれを地道に伝えていくしかないかもしれませんね。最初は信じてもらえなくても、誠実さをもって諦めずに。あまり近道は無いような気がしますよ」
サラが言うと、レナはソファに横になり、
「信じてもらえなくても………そうね。でも、辛いわね」
と言って手で顔を覆っていた。サラはレナを眺めながら、
「大丈夫ですよ、諦めなければ、きっと通じます」
と言うと、暫くそのまま何も言わずにレナを待った。
(諦めなければ……………)
レナは、ソファから立ち上がり、
「くよくよしても、何も良くならないわね」
と何か吹っ切れたように言うと、サラにお礼を言って部屋に戻って行った。
サラはレナの小さな背中を見ながら、自分の娘と変わらない年齢の王女を不憫に思った。
年頃の娘に女王の責務を担わせるルリアーナは、果たして平和な国なのだろうか?サラは静かに怒りを覚えていた。
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