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the 9th day 誤算
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カイの元に、レオナルドからの手紙が届いた。
「あっ、公爵のところに行ったポテンシア兵から?」
ハンが興味津々でカイのところに駆け寄る。2人で内容を確認すると、カイはため息をついた。
「あいつら、あくまでもポテンシア人か。正確に報告する気はないらしいな」
そう言って不機嫌な様子を隠さないカイに、ハンは、
「どういうこと?」
と不思議そうに尋ねる。
「あの間諜と護衛は公爵の屋敷前で張っていると書いているが、恐らくもう何かしら行動を起こしているだろう。昨日会議に貿易担当大臣のメイソン公爵が来なかったのも、あいつらの仕業だろうな」
カイはそう言うと、
「自由に動こうと構わないが、邪魔はしてくれるなよ………」
と、ポテンシアの兵士の独自の動きを憂う。考えてみれば、相手の真意もまだ把握しかねている中でメイソン公爵のところに向かわせたのだった。判断を誤ったかもしれない、と少し後悔する。
「弟、ポテンシア人が勝手な行動をとったのは何故だろう?」
カイの様子を察しながらも、ハンが純粋に尋ねたので、
「大方、あちらはあちらでメイソン公爵への怨恨があるのかもしれないな。貿易で不利益を被っているのはポテンシアなんだ」
とカイは推測した。
「それだけかな? ルリアーナの食べ物が入りにくくなって王子の関係者がそんなに怒る? ポテンシアって近衛兵が怒るほど食べ物に困っているんだ?」
とハンはますます疑問になり、納得がいかないようだ。
「その人たちにとって王女が特別な存在だっていうなら、辻褄が合うんだけどね――」
何気なく放たれたハンの言葉に、カイは言葉を失った。
「それも………考えられるのか………」
メイソン公爵がレナに手を掛けようとした過去を、あの2人に伝えてしまった自分の行動を思い出す。
「あれ? 弟にはピンと来ないかな? だって、ルリアーナには王女信仰があって、ポテンシアにも何らかの影響があるとすると………その王女を苦しめる存在って相当邪魔だと思わない?」
ハンはそう言うと、カイを暫く眺めていた。
「メイソン公爵の命は、相当危ないね」
ハンが楽し気にそう言って、他人事のようにカイの側から離れる。
「くそ………勝手なことをして、こちらの動きに支障を来してくれるなよ……」
カイは、送り出した部下2人の身を案じた。独自に動く2人とポテンシア兵の動き次第では、より危険な任務になる可能性が出てきた。まだ敵の全貌が見えないうちに部分的なメイソン公爵の所業だけ封じられても解決が近くなるとは思えない。
ポテンシアの近衛兵たちの腕は信頼していたが、カイの思惑と違う形で動かれることまで想定できていなかったことを悔やむ。
「まあ、大丈夫だよ、弟。調査に向かわせたのがあの2人で良かったんじゃない? って思う」
ハンは、いつも通りの口調で特に心配もしていない様子だ。
「まあ、この任務にあの2人が向かったのは不幸中の幸いだな」
カイは自分に言い聞かせるようにそう言ったが、表情は硬いままだった。
「あっ、公爵のところに行ったポテンシア兵から?」
ハンが興味津々でカイのところに駆け寄る。2人で内容を確認すると、カイはため息をついた。
「あいつら、あくまでもポテンシア人か。正確に報告する気はないらしいな」
そう言って不機嫌な様子を隠さないカイに、ハンは、
「どういうこと?」
と不思議そうに尋ねる。
「あの間諜と護衛は公爵の屋敷前で張っていると書いているが、恐らくもう何かしら行動を起こしているだろう。昨日会議に貿易担当大臣のメイソン公爵が来なかったのも、あいつらの仕業だろうな」
カイはそう言うと、
「自由に動こうと構わないが、邪魔はしてくれるなよ………」
と、ポテンシアの兵士の独自の動きを憂う。考えてみれば、相手の真意もまだ把握しかねている中でメイソン公爵のところに向かわせたのだった。判断を誤ったかもしれない、と少し後悔する。
「弟、ポテンシア人が勝手な行動をとったのは何故だろう?」
カイの様子を察しながらも、ハンが純粋に尋ねたので、
「大方、あちらはあちらでメイソン公爵への怨恨があるのかもしれないな。貿易で不利益を被っているのはポテンシアなんだ」
とカイは推測した。
「それだけかな? ルリアーナの食べ物が入りにくくなって王子の関係者がそんなに怒る? ポテンシアって近衛兵が怒るほど食べ物に困っているんだ?」
とハンはますます疑問になり、納得がいかないようだ。
「その人たちにとって王女が特別な存在だっていうなら、辻褄が合うんだけどね――」
何気なく放たれたハンの言葉に、カイは言葉を失った。
「それも………考えられるのか………」
メイソン公爵がレナに手を掛けようとした過去を、あの2人に伝えてしまった自分の行動を思い出す。
「あれ? 弟にはピンと来ないかな? だって、ルリアーナには王女信仰があって、ポテンシアにも何らかの影響があるとすると………その王女を苦しめる存在って相当邪魔だと思わない?」
ハンはそう言うと、カイを暫く眺めていた。
「メイソン公爵の命は、相当危ないね」
ハンが楽し気にそう言って、他人事のようにカイの側から離れる。
「くそ………勝手なことをして、こちらの動きに支障を来してくれるなよ……」
カイは、送り出した部下2人の身を案じた。独自に動く2人とポテンシア兵の動き次第では、より危険な任務になる可能性が出てきた。まだ敵の全貌が見えないうちに部分的なメイソン公爵の所業だけ封じられても解決が近くなるとは思えない。
ポテンシアの近衛兵たちの腕は信頼していたが、カイの思惑と違う形で動かれることまで想定できていなかったことを悔やむ。
「まあ、大丈夫だよ、弟。調査に向かわせたのがあの2人で良かったんじゃない? って思う」
ハンは、いつも通りの口調で特に心配もしていない様子だ。
「まあ、この任務にあの2人が向かったのは不幸中の幸いだな」
カイは自分に言い聞かせるようにそう言ったが、表情は硬いままだった。
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