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the 8th day 潜伏大作戦/ポテンシア近衛兵
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メイソン公爵の屋敷がポテンシア第四王子の一行に包囲され、一晩が経った。
屋敷の使用人たちには疲れの色が出始め、出血と怪我の影響でメイソン公爵は起き上がることもままならなくなっている。
「さて、今日のうちに誰か来るかな?」
ブラッドは屋敷の庭にある切り株に腰かけ、通りを眺めていた。
ルイスの考えは、公爵の元を訪れる者たちから芋づる式に情報を取っていこうというもので、賄賂を納めに来る者や、グルになっている者が釣れないかということらしい。
レオナルドはブラッドの隣で、
「そんな簡単に情報が取れるとは思えませんが、何かしら分かるといいですね。公爵あのままだと衰弱死しちゃいそうなんで」
と言って、どこからか入手したハムをかじっている。
「手に穴、空いてるもんなあ………」
ブラッドはしみじみしながら言った。
「ところで、ブラッドさん………僕たち2人、ルリアーナ直下で動いていることになってるじゃないですか。何かしら報告しないとまずいと思いますが、どうしましょうか」
レオナルドがブラッドに提案すると、
「『前略 ハウザー団長 こちら只今公爵家の屋敷の前にいます。どうやら賄賂を受け取っていることが分かりましたが、決定打にかけるため暫くこちらに潜伏しようと思います。 かしこ』って手紙飛ばしておいてくれるか?」
と、ブラッドはレオナルドに言った。
「はい、分かりました。じゃあ、それで報告を飛ばしますかね」
レオナルドは特に感情のこもらない口調でそう答えると、
「ま、手紙は速達便じゃなくていい。明日にでも届けば良いだろ。まさか出発したその日に騒動起こしてここまでやってるなんて、あの団長でも思ってないはずだ」
とブラッドは言った。
その日、メイソン公爵にはルリアーナ城での会議の予定が入っていた。パースの輸出入に関する報告で、公爵が問いただされる可能性が高い。
そんな日に、当のメイソン公爵は自宅の床で転がっていた。
自分の計画を阻害する者なら、見合いの最中に自分をつまみだした憎い護衛だけだと思っていたが、どうもポテンシアの第4王子というのはレナに対して何か強い執着があるらしい。様々なことを調査した中でも、抜け漏れていた事実だった。
メイソン公爵の左手は、いよいよ感覚がなくなってきている。第4王子に刺された手は、黒みを帯びた色に変色してきていた。
(いつも、あと一歩というところで……………)
思い出してみればレナが13歳の時、彼女を誘い出した際にも思わぬ邪魔が入ったのだ。
誰にも見られないように細心の注意を払い、庭園の陰にまで行くことができたのに、何者かに阻止された。しかも、不思議なことにそれが誰だったのか思い出そうとするとひどく頭が痛くなる。
それ以来、王女にずっと避けられ、折角見合いの機会を作ったというのに、今度は護衛の騎士につまみ出された。
パースもポテンシアも、ルリアーナとの貿易摩擦で簡単に国民感情が操作できるのだと分かったが、民衆からの反感と暴動は想定していたものの、王子の襲来は全く想定になかった。
(暴動が起きれば、やがて国民同士の争いになったものを………)
忌々しい王子は、一足早くポテンシアに帰国したようだ。それでも、ポテンシアの近衛兵に囲まれていては手も足も出ない。
(会議を無断欠席すれば、何者かが不審に思うだろう。さて、いつ誰がここに来るだろうな………)
公爵は自分たちを監視するポテンシア人の顔を記憶してやろうと思いながら、床からひとりひとりを眺める。ルリアーナにはポテンシアと対抗できるだけの軍隊はないが、復讐するためのつてに心当たりがあった。
「さて、公爵様はこっちですよ」
ポテンシアの近衛兵の中でも、ひと際異彩を放つ若者が公爵に声を掛けた。他の兵士たちに比べると決して体格の良くない細身の若者は、どういうわけか他の兵士よりも発言権があるようだった。
「レオナルド、どこに運べばいい?」
若者はレオナルドと呼ばれていた。体格の良い無骨な雰囲気の男がレオナルドの指示を仰ぎながら、使用人たちを寝室に閉じ込めている様子だ。メイソン公爵も例にもれず、手足が縛られて口枷が付けられる。公爵は剣で痛めつけられた時よりも強烈な屈辱を感じていた。
「じゃあ、僕たちはどうしましょうか」
レオナルドは鋭い目つきで屋敷の中を見回している。
「証拠が何か残っていると助かるんだけど」
メイソン公爵は、その言葉に息を飲んだ。
(そうか、こいつら……………)
口枷が付き言葉を発せない公爵は、そのままブラッドに持ち上げられて寝室に閉じ込められた。
屋敷の使用人たちには疲れの色が出始め、出血と怪我の影響でメイソン公爵は起き上がることもままならなくなっている。
「さて、今日のうちに誰か来るかな?」
ブラッドは屋敷の庭にある切り株に腰かけ、通りを眺めていた。
ルイスの考えは、公爵の元を訪れる者たちから芋づる式に情報を取っていこうというもので、賄賂を納めに来る者や、グルになっている者が釣れないかということらしい。
レオナルドはブラッドの隣で、
「そんな簡単に情報が取れるとは思えませんが、何かしら分かるといいですね。公爵あのままだと衰弱死しちゃいそうなんで」
と言って、どこからか入手したハムをかじっている。
「手に穴、空いてるもんなあ………」
ブラッドはしみじみしながら言った。
「ところで、ブラッドさん………僕たち2人、ルリアーナ直下で動いていることになってるじゃないですか。何かしら報告しないとまずいと思いますが、どうしましょうか」
レオナルドがブラッドに提案すると、
「『前略 ハウザー団長 こちら只今公爵家の屋敷の前にいます。どうやら賄賂を受け取っていることが分かりましたが、決定打にかけるため暫くこちらに潜伏しようと思います。 かしこ』って手紙飛ばしておいてくれるか?」
と、ブラッドはレオナルドに言った。
「はい、分かりました。じゃあ、それで報告を飛ばしますかね」
レオナルドは特に感情のこもらない口調でそう答えると、
「ま、手紙は速達便じゃなくていい。明日にでも届けば良いだろ。まさか出発したその日に騒動起こしてここまでやってるなんて、あの団長でも思ってないはずだ」
とブラッドは言った。
その日、メイソン公爵にはルリアーナ城での会議の予定が入っていた。パースの輸出入に関する報告で、公爵が問いただされる可能性が高い。
そんな日に、当のメイソン公爵は自宅の床で転がっていた。
自分の計画を阻害する者なら、見合いの最中に自分をつまみだした憎い護衛だけだと思っていたが、どうもポテンシアの第4王子というのはレナに対して何か強い執着があるらしい。様々なことを調査した中でも、抜け漏れていた事実だった。
メイソン公爵の左手は、いよいよ感覚がなくなってきている。第4王子に刺された手は、黒みを帯びた色に変色してきていた。
(いつも、あと一歩というところで……………)
思い出してみればレナが13歳の時、彼女を誘い出した際にも思わぬ邪魔が入ったのだ。
誰にも見られないように細心の注意を払い、庭園の陰にまで行くことができたのに、何者かに阻止された。しかも、不思議なことにそれが誰だったのか思い出そうとするとひどく頭が痛くなる。
それ以来、王女にずっと避けられ、折角見合いの機会を作ったというのに、今度は護衛の騎士につまみ出された。
パースもポテンシアも、ルリアーナとの貿易摩擦で簡単に国民感情が操作できるのだと分かったが、民衆からの反感と暴動は想定していたものの、王子の襲来は全く想定になかった。
(暴動が起きれば、やがて国民同士の争いになったものを………)
忌々しい王子は、一足早くポテンシアに帰国したようだ。それでも、ポテンシアの近衛兵に囲まれていては手も足も出ない。
(会議を無断欠席すれば、何者かが不審に思うだろう。さて、いつ誰がここに来るだろうな………)
公爵は自分たちを監視するポテンシア人の顔を記憶してやろうと思いながら、床からひとりひとりを眺める。ルリアーナにはポテンシアと対抗できるだけの軍隊はないが、復讐するためのつてに心当たりがあった。
「さて、公爵様はこっちですよ」
ポテンシアの近衛兵の中でも、ひと際異彩を放つ若者が公爵に声を掛けた。他の兵士たちに比べると決して体格の良くない細身の若者は、どういうわけか他の兵士よりも発言権があるようだった。
「レオナルド、どこに運べばいい?」
若者はレオナルドと呼ばれていた。体格の良い無骨な雰囲気の男がレオナルドの指示を仰ぎながら、使用人たちを寝室に閉じ込めている様子だ。メイソン公爵も例にもれず、手足が縛られて口枷が付けられる。公爵は剣で痛めつけられた時よりも強烈な屈辱を感じていた。
「じゃあ、僕たちはどうしましょうか」
レオナルドは鋭い目つきで屋敷の中を見回している。
「証拠が何か残っていると助かるんだけど」
メイソン公爵は、その言葉に息を飲んだ。
(そうか、こいつら……………)
口枷が付き言葉を発せない公爵は、そのままブラッドに持ち上げられて寝室に閉じ込められた。
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