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the 7th day 2日前 見合い後のポテンシア第四王子一行
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ポテンシア王国の第四王子ルイス・ポテンシアは、関所を通って自国に入国する際、ルリアーナの動きを鋭く観察していた。
問題を抱えているのは国境のある関所付近だけだと信じたいが、どうしてもそれだけではない気がしている。ルリアーナという国に長年執着していたせいか、違和感にも第六感のようなものがよく働いていた。
「王女は、ここの公爵を調査すると言っていたね……」
周りにいるルリアーナの人間は、公爵の手の内のものなのだろうか。鋭い視線を浴びせながら、おかしなところがないか見逃すまいと目を配る。
自国では大して重宝されていない第四王子だったが、同盟国への圧力をかけるには十分な権力を持っていた。護衛を18名も連れた同盟国の王子が、馬車をわざわざ降りて国境に入る関所の前に立っている。それだけで、異様な緊張感が漂っていた。
「さて、ここの責任者と会うことはできるのかな?」
ルイス・ポテンシアは、関所の門近くで書類を発行している一人のルリアーナ人に声を掛けた。
「責任者、ですか? 関所の責任者であれば、すぐ近くにおりますが………」
困ったように答えたその担当者は、門番として立つ従業員に責任者を呼びに行かせた。ルイス・ポテンシアはその様子を眺め、
「現場の人間は、あんまり分かってなさそうだね」
と護衛たちに聞こえるように呟いた。
「まあ、どちらにせよ、私の大切なルリアーナを内側から腐らせる者には、ちゃんとそれ相応の罰を受けてもらわないとなあ」
王子は笑いながら冷徹な口調で言うと、護衛に小声で囁いた。
「分かってるね………王女のためにここは穏便に済ませるつもりだけど、本当にどうしようも無いようなら置いてきた2人に始末させるのが狙いだよ」
普段のルイス・ポテンシアの様子とは明らかに違う姿に、主君の抱える強い怒りを護衛は理解した。目の前には、もう無気力な第四王子の姿はない。
「かしこまりました。王子に危険が及ばぬ限りは、こちらから攻撃したり手を出したりはいたしません」
護衛の兵士が少し緊張した様子で言うと、
「うん、その通りだよ」
と、王子は満足げに微笑んだ。
ルイス・ポテンシアは、関所までやってきた使いからの一報に顔をしかめた。
すぐ近くにいるらしい間諜のレオナルドが、関所まで報告書を寄越してきたのだ。
「へえ、王女に背いてポテンシアへの輸入を阻害しているとしたら不愉快だね。それにしても、更に不愉快なのはつい先日にぬけぬけと私と同じ立場の見合い相手として現れていたことと、彼女に手を掛けようとした過去だ………」
関所の責任者がルイス・ポテンシアの元に駆け付けるよりも前に、その知らせは届いた。
「許してやるものか………」
レオナルドからの報告書を力強く握りしめ、紙はくしゃっと音を立てる。その時、遠くから駆け付ける人物がいた。
「ポテンシアの第四王子がお呼びと聞きまして………」
関所の責任者は、慌てて呼ばれた人物のところへ急いでいた。何があったのか理解できないまま駆け付けたものの、ぞろぞろと迫力のある護衛を並べて佇む第四王子には、漏れ聞こえてくる放蕩息子の印象は全く感じられない。
「さて、ここで起きている輸入制限の責任を、問いただしに来てあげたんだ。まさか知らないとは言わないだろうね?」
美しい王子の顔が、少し歪んだように見えたとき、関所の責任者は彼の護衛にあっという間に抑え込まれていた。
「馬鹿にするなよ………彼女の手が届かないところでコソコソと………。彼女が力不足だと言って私に頭を下げた原因を作ったのは、一体どこのどいつだろうね………」
王子は怒りで震えていたが、
「さあ、元凶のところへ連れて行ってもらおうか」
と、地面に抑え込まれた男の頭上で不敵な笑みを浮かべた。
「さて、ルイス様も動いたころだろう。そろそろ行くか――」
ブラッドは2杯目の果実酒を飲み干すと、レオナルドに声を掛けた。
「そうですね」
レオナルドも、先ほど出した使いが恐らくルイスのところに到着し、メイソン公爵のもとへ向かい始める頃ではないかと思っていた。ただ、ブラッドが果実酒を飲み始めたのを見て一人で行くつもりでいたが、意外にも目の前の第四王子付の護衛は任務に向かうつもりだったようだ。
「ルイス様もレオナルドも、怒ると簡単に人を殺めそうだから、気を付けろよ」
ブラッドはそう言うと会計をして宿を出る。
「何をですか、気を付けるって………」
レオナルドは、自分のことは常に冷静で沈着だと思っている。ブラッドの指摘は心外だった。
「まーいーわ。行くぞ」
ブラッドはそう言って事前に確認したメイソン公爵の屋敷に向かって走り出した。
「大丈夫なんですか、あんな強いお酒飲んだ後で走ったりして」
レオナルドは今回の相棒は滅茶苦茶だなと思いながら、念のため心配をした。
「だからいつものことだって」
ブラッドは顔色を変えずに走っている。
(ふーん、やっぱり、腐っても王族の筆頭護衛か)
レオナルドはブラッドのペースに合わせながら、先を急いだ。
「殿下!」
ブラッドが息を切らしながらルイスの姿を見つけて声を掛けると、
「やあ、ご苦労」
と言いながら部下をねぎらいつつ、明らかに機嫌の悪い様子が見て取れた。
「さすが、動きに無駄が無くてこのチームは最高だね。さっきまで王女の甘い余韻に浸っていたのに、こんな短時間で憎らしい元凶と対峙することになっているよ」
ルイスはそう言うと、後ろに捕らえている人物を見せた。
「さっき聞いたら、この責任者は何も知らないんだって。そんなことあるかな? 輸出入関税が操作されているのに気づかないって、よっぽど無能みたいだ」
ルイスが静かにキレる様子に、レオナルドが、
「無理矢理吐かせるのと、人質として使うのと、どっちに決めたんですか?」
と平然と尋ねる。平和なルリアーナではなかなか聞くことができない物騒な言葉に、捕らえられている責任者は血の気が引いていた。
「決めかねているよ。何しろ私は王女が悲しむ姿は見たくない」
ルイスはそう言うと、
「私の個人的な意見としては、憎き公爵様とやらの一番嫌がる手段を取りたいね。指の1本や2本くらいは切り落としてもいいよって言いたいところだけど、王女が知ったら怖がりそうだから止めてあげる」
と穏やかな声で笑った。アルコールが入っているブラッドは、
「頭に血が上るのは分かりますが、ここから先は目撃者が出ますからね。見られていると思って行動してくださいよ」
と一番まともなことを言った。
問題を抱えているのは国境のある関所付近だけだと信じたいが、どうしてもそれだけではない気がしている。ルリアーナという国に長年執着していたせいか、違和感にも第六感のようなものがよく働いていた。
「王女は、ここの公爵を調査すると言っていたね……」
周りにいるルリアーナの人間は、公爵の手の内のものなのだろうか。鋭い視線を浴びせながら、おかしなところがないか見逃すまいと目を配る。
自国では大して重宝されていない第四王子だったが、同盟国への圧力をかけるには十分な権力を持っていた。護衛を18名も連れた同盟国の王子が、馬車をわざわざ降りて国境に入る関所の前に立っている。それだけで、異様な緊張感が漂っていた。
「さて、ここの責任者と会うことはできるのかな?」
ルイス・ポテンシアは、関所の門近くで書類を発行している一人のルリアーナ人に声を掛けた。
「責任者、ですか? 関所の責任者であれば、すぐ近くにおりますが………」
困ったように答えたその担当者は、門番として立つ従業員に責任者を呼びに行かせた。ルイス・ポテンシアはその様子を眺め、
「現場の人間は、あんまり分かってなさそうだね」
と護衛たちに聞こえるように呟いた。
「まあ、どちらにせよ、私の大切なルリアーナを内側から腐らせる者には、ちゃんとそれ相応の罰を受けてもらわないとなあ」
王子は笑いながら冷徹な口調で言うと、護衛に小声で囁いた。
「分かってるね………王女のためにここは穏便に済ませるつもりだけど、本当にどうしようも無いようなら置いてきた2人に始末させるのが狙いだよ」
普段のルイス・ポテンシアの様子とは明らかに違う姿に、主君の抱える強い怒りを護衛は理解した。目の前には、もう無気力な第四王子の姿はない。
「かしこまりました。王子に危険が及ばぬ限りは、こちらから攻撃したり手を出したりはいたしません」
護衛の兵士が少し緊張した様子で言うと、
「うん、その通りだよ」
と、王子は満足げに微笑んだ。
ルイス・ポテンシアは、関所までやってきた使いからの一報に顔をしかめた。
すぐ近くにいるらしい間諜のレオナルドが、関所まで報告書を寄越してきたのだ。
「へえ、王女に背いてポテンシアへの輸入を阻害しているとしたら不愉快だね。それにしても、更に不愉快なのはつい先日にぬけぬけと私と同じ立場の見合い相手として現れていたことと、彼女に手を掛けようとした過去だ………」
関所の責任者がルイス・ポテンシアの元に駆け付けるよりも前に、その知らせは届いた。
「許してやるものか………」
レオナルドからの報告書を力強く握りしめ、紙はくしゃっと音を立てる。その時、遠くから駆け付ける人物がいた。
「ポテンシアの第四王子がお呼びと聞きまして………」
関所の責任者は、慌てて呼ばれた人物のところへ急いでいた。何があったのか理解できないまま駆け付けたものの、ぞろぞろと迫力のある護衛を並べて佇む第四王子には、漏れ聞こえてくる放蕩息子の印象は全く感じられない。
「さて、ここで起きている輸入制限の責任を、問いただしに来てあげたんだ。まさか知らないとは言わないだろうね?」
美しい王子の顔が、少し歪んだように見えたとき、関所の責任者は彼の護衛にあっという間に抑え込まれていた。
「馬鹿にするなよ………彼女の手が届かないところでコソコソと………。彼女が力不足だと言って私に頭を下げた原因を作ったのは、一体どこのどいつだろうね………」
王子は怒りで震えていたが、
「さあ、元凶のところへ連れて行ってもらおうか」
と、地面に抑え込まれた男の頭上で不敵な笑みを浮かべた。
「さて、ルイス様も動いたころだろう。そろそろ行くか――」
ブラッドは2杯目の果実酒を飲み干すと、レオナルドに声を掛けた。
「そうですね」
レオナルドも、先ほど出した使いが恐らくルイスのところに到着し、メイソン公爵のもとへ向かい始める頃ではないかと思っていた。ただ、ブラッドが果実酒を飲み始めたのを見て一人で行くつもりでいたが、意外にも目の前の第四王子付の護衛は任務に向かうつもりだったようだ。
「ルイス様もレオナルドも、怒ると簡単に人を殺めそうだから、気を付けろよ」
ブラッドはそう言うと会計をして宿を出る。
「何をですか、気を付けるって………」
レオナルドは、自分のことは常に冷静で沈着だと思っている。ブラッドの指摘は心外だった。
「まーいーわ。行くぞ」
ブラッドはそう言って事前に確認したメイソン公爵の屋敷に向かって走り出した。
「大丈夫なんですか、あんな強いお酒飲んだ後で走ったりして」
レオナルドは今回の相棒は滅茶苦茶だなと思いながら、念のため心配をした。
「だからいつものことだって」
ブラッドは顔色を変えずに走っている。
(ふーん、やっぱり、腐っても王族の筆頭護衛か)
レオナルドはブラッドのペースに合わせながら、先を急いだ。
「殿下!」
ブラッドが息を切らしながらルイスの姿を見つけて声を掛けると、
「やあ、ご苦労」
と言いながら部下をねぎらいつつ、明らかに機嫌の悪い様子が見て取れた。
「さすが、動きに無駄が無くてこのチームは最高だね。さっきまで王女の甘い余韻に浸っていたのに、こんな短時間で憎らしい元凶と対峙することになっているよ」
ルイスはそう言うと、後ろに捕らえている人物を見せた。
「さっき聞いたら、この責任者は何も知らないんだって。そんなことあるかな? 輸出入関税が操作されているのに気づかないって、よっぽど無能みたいだ」
ルイスが静かにキレる様子に、レオナルドが、
「無理矢理吐かせるのと、人質として使うのと、どっちに決めたんですか?」
と平然と尋ねる。平和なルリアーナではなかなか聞くことができない物騒な言葉に、捕らえられている責任者は血の気が引いていた。
「決めかねているよ。何しろ私は王女が悲しむ姿は見たくない」
ルイスはそう言うと、
「私の個人的な意見としては、憎き公爵様とやらの一番嫌がる手段を取りたいね。指の1本や2本くらいは切り落としてもいいよって言いたいところだけど、王女が知ったら怖がりそうだから止めてあげる」
と穏やかな声で笑った。アルコールが入っているブラッドは、
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