アメイジング・ナイト ―王女と騎士の35日―

碧井夢夏

文字の大きさ
上 下
48 / 221

the 9th day 貿易摩擦と関係悪化

しおりを挟む
 パースの伯爵であるクリストファーは、前回と違い単身で見合いの席に参加している。前回は同席した父親が主に話をしていたので、クリストファーの印象はレナの中では薄かった。2回目の席で話してみると、育ちが良く穏やかな人間性が伝わってくる。

 栗毛のくせ毛に少し丸顔のクリストファーは、そばかすが少し目立つ素朴な顔をしていた。自分の事業の話をするときはしっかりした印象を与える。

「パースとルリアーナの貿易の件では、ルリアーナの貿易担当大臣からの通達があったということらしいです」
 クリストファーの話に、
「そんなことだろうと思ったわ」
 とレナは言ってメイソン公爵の所業に腹を立てている。情報を知ったのが、自国からの報告でなく他国の人間からだったことにも情けなくなった。

「この問題は、解決しそうなんでしょうか?」
 クリストファーは心配そうにレナに聞いた。
「今、貿易担当大臣のところに調査と監視を入れたところです。早くパースとの国交を正常にしなければ、多くの犠牲が出そうですね」
 とレナはクリストファーに頭を下げながら言った。

「王女殿下のせいだとは思っていませんが、パースの国民感情は反ルリアーナに傾いてきています。今ここでパースが反乱を起こせば、ルリアーナは無傷では済まないでしょう」
 クリストファーはそう言うと、
「急いでください。生活が懸かっているので、市民は何をするか分からない」
 と真剣にレナに忠告した。その表情には、レナに対する不満も見て取れる。
 その表情を見たハンが明らかに「大変だ」とでも言いたそうな顔でレナを見ていた。

「こんな状況なのに、わざわざこちらまで出向いてくださり、ありがとうございます」
 と、レナはクリストファーに深く礼をすると、
「私はこんな状況だから、なるべく急いで来たんです。正直に申し上げると、ルリアーナの国内政治には不信感を抱いていますから」
 と、クリストファーは突き放すように言った。


「パースの状況は、思った以上に深刻だな」
 見合いが終わって、そのまま応接室にハウザー騎士団の3人とレナが集まって話をしている。

 カイは、自分の仕事の範囲ではないとはいえ、このままではまずいと危機感を覚えていた。
 レナとカイはクリストファーの言葉を思い出しながら、ルリアーナの置かれている環境をどうするべきかと頭を抱えていた。

「まさか、あんなハッキリ言われるとはね。パースの伯爵はよっぽど事業上の不利益を被ったかな」
 ハンが初めての見合いで観た光景に、素直な感想を述べている。

「あたしが見てきたパースの状況は、まさにフラストレーションを溜め込み始めた感じだったわよ」
 と、サラも会話に加わった。やはり、パースとルリアーナの同盟国としての関係はかなり危うくなっているのだろう。

「貿易担当大臣のところにポテンシアの近衛兵が到着して、まだ1日程度かしらね。こうしている間にも、市民の生活に支障が出てきているんだわ……」
 と、レナは悔しそうな顔で焦っている。

「落ち着け。今ここで話していても何も解決しない。貿易担当大臣のところにはポテンシアの兵が、そして国内各地の情報収集にはシンとロキを向かわせた。俺は、あいつらを信じるしかない」
 カイはそう言うと普段よりも明らかに元気がないレナを見て、
「今日は、やはりいつもの調子が出ないようだな」
 とため息をついた。
 レナは大丈夫だと言いかけたが、カイはその返事を待たずにレナを部屋に戻らせることにする。

「少しは、休むことも覚えたらいい」
 カイはそう言いながら、レナをエスコートすると、それ以上は何も言わなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

あなたが残した世界で

天海月
恋愛
「ロザリア様、あなたは俺が生涯をかけてお守りすると誓いましょう」王女であるロザリアに、そう約束した初恋の騎士アーロンは、ある事件の後、彼女との誓いを破り突然その姿を消してしまう。 八年後、生贄に選ばれてしまったロザリアは、最期に彼に一目会いたいとアーロンを探し、彼と再会を果たすが・・・。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...