アメイジング・ナイト ―王女と騎士の35日―

碧井夢夏

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the 9th day 出発と到着と

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 まだ日も昇らない暗い早朝に、シンとロキは連れ立ってルリアーナ城を出発した。
「さて、いよいよだな」
 シンがそう言って努めて元気に振舞うが、ロキは浮かない顔をしている。

「おう、そこの美男はテンション低いね」
 シンに言われ、ロキは、
「ああ、今ちょっと話す気分じゃないから、少し頭の中が整理できたら改めてちゃんと話すってことで」
 と言って自分の殻に閉じこもってしまう。同僚のその姿は意外で、シンは何があったのか心配になった。

 ルリアーナ城に近いところから回っていくつもりで、シンは歩きのルートを作っている。元気がないロキを見て、長い時間の徒歩に耐えられるのか不安になった。
「体調が悪かったら早めに言えよ。山道とか通るからな」
 シンが言うと、
「そういうのは大丈夫。俺、歩くのとか登山とか得意」
 と、ロキは抜け殻のような姿で答える。

「あ、ああ」
 シンは調子が狂ったが、マイペースなロキのことなのでそのうち自分からちゃんと話してくれるだろうと思い直し、先を急いだ。
「結局、ハンとは入れ違いになっちゃったな。殿下、あのテンション大丈夫かなー……」
 シンが独り言のように言うと、ロキは何も答えることができなかった。


「おはよー! 揃ってる?!」
 ハウザー騎士団の朝に、賑やかなメンバーがやってきた。
「朝から元気だな……」
 カイは新聞を開きながら横目で良く知った人間の姿を確認すると、コーヒーを一口飲んだ。

「弟。久しぶりの兄に対してその反応はないんじゃない?」
 氾楊賢(ハン・ヨウケン)がサラに連れられて城に入って来たのを、カイは特に歓迎もせずに聞き流した。

「サラ姉さん、うちの弟、反抗期だったっけ」

 ハンは子ども時代を共に過ごしたカイをワザと「弟」と呼ぶ。実際はカイが上司で4歳年上のハンが部下にあたるが、ハンにとっては弟として可愛がってきたカイのままでいて欲しいらしい。

 遊牧民族の血をひくハンは、カイと同じ黄色人種で程よく日に焼けていた。髪の色も黒に近い茶色で、カイと兄弟だと言われれば瞳の色や体格も含め、そう見える程度には特徴が似ている。ただし、顔立ちは少しエラが張っている遊牧民族特有の顔つきをしたハンと、ブリステ人の血が濃く出ているカイは似ても似つかなかった。

「シンとロキが旅立ったばかりだから、親としては心配なのよ」
 サラがハンに説明すると、
「誰が親だ」
 とカイは冷静に否定した。

 サラはカイの父親である蒼劉淵の元部下で、ハンは蒼劉淵の部下の息子だった。
 この3人はカイが産まれた時から共に過ごした時期があり、家族のような関係だ。カイは2人の前だと気を使わない分、普段以上に口数が少なくなる。

「なあ、弟、ここの姫君は紹介してもらえないのかなあ?」
 ハンがそう言うと、
「こんな朝っぱらから、ハンのテンションに殿下を付き合わせるのか」
 と、カイは視線もやらずに言って新聞をめくった。

「いや、今日は昼過ぎからお姫様のお見合いに護衛に入るんだろう?」
 ハンが言うと、
「その前までには紹介するから安心してくれ」
 とカイは新聞を置いてコーヒーカップを持ち上げて言った。

「カイ、やっぱりハンが相手だと他の部下に比べて雑になるわね」
 サラは団長呼びも忘れて、昔のように家族水入らずのような感覚を思い出していた。
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