35 / 221
the 7th day ご執心
しおりを挟む
ルイス・ポテンシアは帰国途中の馬車の中で、早速レナから託されたレモネードをワイングラスに少しだけ注いでいた。
「芳醇な香り、色も格別に美しい。彼女のようだね」
一口飲むと、今まで口にしたどんな果実酒よりも豊満な味わいが強烈で、驚愕した。
「素晴らしいな……。なんとしても、私のものにしたい……」
ルイスはポテンシアの第四王子として、これまで特に何かに執着したことも、何かを強烈に欲したこともなく生きてきた。
望めば手に入るものが多い環境で、王位だけは全く自分には関係がない。
いつしか、期待されずに適当にやり過ごして生きることが、ルイスらしさのようになっていた。
ただひとり、ルイスにはずっと気になっていた存在がいる。それは、農業国で豊かな自然に抱かれ、国民からも愛される、唯一の王女。
その王女が見合いを始めると、候補者が彼女に断られ脱落していくのを情報収集しながら、自分の登場機会を探っていた。
周辺の王侯貴族に人気の彼女のことだ、すぐに婚約者が決まるとは考え難かった。利用価値を感じてもらえなければ、自分もその他大勢になりかねない。
ルイスは、材料を探した。すると、ルリアーナの貴族に不審な動きが見られた。
(これを材料に、会いに行こう)
ルイスはそう決めると、優秀な部下を集めた上で、国王だけが持つ優秀な間諜を手配した。
国の陰謀に対抗するには、この手のことを理解して動ける人材がいるべきだということを、ルイスはよく知っている。王女の役に立てなければ、今回の計画は失敗に終わるのだ。
ルイスはルリアーナの第一王女を思い出す。彼女はどうしてこうも自分の心を掴むのだろうか。
10年近く前に初めて視界に入れた日の想いを、ゆっくり咀嚼するように噛み締めている。
遠い日、同盟国の第一王女だという彼女が、たった一人の王位継承者として生きていることを父親に聞いた。
自分とほとんど歳が変わらない、ただの少女にしか見えない王女は、国の代表だったのだ。国の犠牲になって幼い頃から仕事漬けだったに違いないのに、ルイスの兄たちには見られない情熱を感じさせた。ルイスには、それが不思議で仕方がなかった。
父親と共にいたレナを遠くから見たルイスは、あの王女の隣に立つには何をしたら良いのかという興味と、ルリアーナへの関心が生まれた。彼女がポテンシアを訪れる時、ルイスは部外者としてレナを眺めることしかできなかったからだ。
それがどうか。直接会うことが叶うと、凛とした態度を崩さない佇まいの割に、耳元で囁いただけでああも動揺してしまう女性だったのだ。
彼女こそ、自分が人生を懸けて探してきた運命の女性に違いないという確信がある。都合の良いことに、見合い相手として王族同士の話ができるだけでなく、同盟国の協力者として現れることができた。
どう動いたら彼女の特別になれるのだろう。
レモネードをゆっくり飲み干すと、ルイスはその酸味と苦みの余韻に暫く浸っていた。
「芳醇な香り、色も格別に美しい。彼女のようだね」
一口飲むと、今まで口にしたどんな果実酒よりも豊満な味わいが強烈で、驚愕した。
「素晴らしいな……。なんとしても、私のものにしたい……」
ルイスはポテンシアの第四王子として、これまで特に何かに執着したことも、何かを強烈に欲したこともなく生きてきた。
望めば手に入るものが多い環境で、王位だけは全く自分には関係がない。
いつしか、期待されずに適当にやり過ごして生きることが、ルイスらしさのようになっていた。
ただひとり、ルイスにはずっと気になっていた存在がいる。それは、農業国で豊かな自然に抱かれ、国民からも愛される、唯一の王女。
その王女が見合いを始めると、候補者が彼女に断られ脱落していくのを情報収集しながら、自分の登場機会を探っていた。
周辺の王侯貴族に人気の彼女のことだ、すぐに婚約者が決まるとは考え難かった。利用価値を感じてもらえなければ、自分もその他大勢になりかねない。
ルイスは、材料を探した。すると、ルリアーナの貴族に不審な動きが見られた。
(これを材料に、会いに行こう)
ルイスはそう決めると、優秀な部下を集めた上で、国王だけが持つ優秀な間諜を手配した。
国の陰謀に対抗するには、この手のことを理解して動ける人材がいるべきだということを、ルイスはよく知っている。王女の役に立てなければ、今回の計画は失敗に終わるのだ。
ルイスはルリアーナの第一王女を思い出す。彼女はどうしてこうも自分の心を掴むのだろうか。
10年近く前に初めて視界に入れた日の想いを、ゆっくり咀嚼するように噛み締めている。
遠い日、同盟国の第一王女だという彼女が、たった一人の王位継承者として生きていることを父親に聞いた。
自分とほとんど歳が変わらない、ただの少女にしか見えない王女は、国の代表だったのだ。国の犠牲になって幼い頃から仕事漬けだったに違いないのに、ルイスの兄たちには見られない情熱を感じさせた。ルイスには、それが不思議で仕方がなかった。
父親と共にいたレナを遠くから見たルイスは、あの王女の隣に立つには何をしたら良いのかという興味と、ルリアーナへの関心が生まれた。彼女がポテンシアを訪れる時、ルイスは部外者としてレナを眺めることしかできなかったからだ。
それがどうか。直接会うことが叶うと、凛とした態度を崩さない佇まいの割に、耳元で囁いただけでああも動揺してしまう女性だったのだ。
彼女こそ、自分が人生を懸けて探してきた運命の女性に違いないという確信がある。都合の良いことに、見合い相手として王族同士の話ができるだけでなく、同盟国の協力者として現れることができた。
どう動いたら彼女の特別になれるのだろう。
レモネードをゆっくり飲み干すと、ルイスはその酸味と苦みの余韻に暫く浸っていた。
0
お気に入りに追加
92
あなたにおすすめの小説
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
あなたが残した世界で
天海月
恋愛
「ロザリア様、あなたは俺が生涯をかけてお守りすると誓いましょう」王女であるロザリアに、そう約束した初恋の騎士アーロンは、ある事件の後、彼女との誓いを破り突然その姿を消してしまう。
八年後、生贄に選ばれてしまったロザリアは、最期に彼に一目会いたいとアーロンを探し、彼と再会を果たすが・・・。
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
幼女と執事が異世界で
天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。
当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった!
謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!?
おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。
オレの人生はまだ始まったばかりだ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる