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the 7th day 敵か、味方か
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朝から忙しいハウザー騎士団の3人は、城内を並んで早足で歩いていた。
中心にカイ、半歩下がって向かって右側にシン、左側にロキがついている。
1人ずつでも華やかな若い騎士が、揃って足早に歩く。3人は歩くたびに城内の視線を釘付けにしていた。
団長のカイは他人の視線を全く気にせず歩いていたが、団員のシンとロキは注目される中で目が合った者に会釈を返していた。団長に比べ団員の2人は社交的である。
「団長、急な来客という情報だけで駆けつけて大丈夫なんですか?」
シンは少し心配そうに小声で聞く。
「誰が来たと言われなかった時点で事情があると読んでいるが」
カイは小声で前を見たまま答えた。ロキはやれやれと厄介ごとの気配を案じている。
中庭に向かって歩いていると、カイは聞き覚えのある声がするなと声の方に目を凝らした。
そこには、到着日に自分を批判した政治家の姿があった。
「騒ぎを聞いて駆けつけました。どうかされたのですか?」
カイが揉め事の起きている集団に向かって大きな声をかけると、騒ぎの中心にいたフィルリ7世が平民と思われる男性3人にもみくちゃにされながら、
「王女の護衛か! この国賊たちを捕らえるのだ! 今すぐに!」
と叫んだ。
「団長、どーします?」
シンの問いかけに、
「まぁ、助けるしかないだろうな」
とカイが答えると、シンとロキの2人は走り寄って輪の中に入り、掴みかかっている3人をあっという間に引き剥がし、フィルリ7世の前に立って身を挺した。
「さすが、国家予算を使っているだけあるな」
とフィルリ7世は自分の身を守った騎士の鮮やかな動きに素直に驚いてに言うと、掴みかかってきた3人に向かって、
「暴力は主張の正当性を損なう悪手だ。捕まりたくなければ今後はやめなさい」
と少し落ち着いた様子で言った。
「で、この3人はどうするんですか?」
カイはフィルリ7世に尋ねる。3人はその言葉を聞いて身構えた。
「本来ならすぐに裁判へかけるところだが、政治家の私と庶民のその者たちが法廷でそれぞれ主張したら私が圧勝するに決まっておろう。その者たちの名前や住まい、今回の行動に至った経緯などを細かく聴取し、釈放する」
フィルリ7世はそう言うと、何もなかったようにその場を去ろうとした。
「ちょっと待て、その細かい聴取とやらは、どこで誰に受けさせる」
カイは自分の範疇を超えた仕事は一切受けない主義だ。事情聴取など部下にも負わせるつもりはない。
「ああ、騎士殿は知らないのだな。城内にも裁判所があるので、そこに連れて行けば良い。法曹業務はそこで大体のことができる。なるほど? 城内に平民が入り込むことも滅多にないし、事態に慌てた誰かに大した説明もされず駆けつけさせられたのだな」
フィルリ7世はそう言うと、シンとロキを見て、
「ブリステ人らしい騎士も増員したのか。この国は幾多の欲望が蠢き、厄介が多い。心してかかれよ」
と言い、何か言いたげな顔で立ち去った。
先程まで暴れていた平民の3人は、到底力の及ばない騎士に捕らえられ、すっかり大人しくなっていた。
城に侵入し、政治家につかみかかるほどまで怒りを抱えていた者たちだとはとても思えない。
シンとロキは城内で紐を借りて来ると、3人を拘束し、裁判所へ向かうことにした。
「あとは任せた。俺は殿下のところへ報告に行く」
カイは、先日の会議で見た敵意むき出しのフィルリ7世とあまりに印象が違うことが気になっていたが、平民に取り囲まれる位には「狸」なのだろうな、と思い直し、レナの元に報告へ向かった。
中心にカイ、半歩下がって向かって右側にシン、左側にロキがついている。
1人ずつでも華やかな若い騎士が、揃って足早に歩く。3人は歩くたびに城内の視線を釘付けにしていた。
団長のカイは他人の視線を全く気にせず歩いていたが、団員のシンとロキは注目される中で目が合った者に会釈を返していた。団長に比べ団員の2人は社交的である。
「団長、急な来客という情報だけで駆けつけて大丈夫なんですか?」
シンは少し心配そうに小声で聞く。
「誰が来たと言われなかった時点で事情があると読んでいるが」
カイは小声で前を見たまま答えた。ロキはやれやれと厄介ごとの気配を案じている。
中庭に向かって歩いていると、カイは聞き覚えのある声がするなと声の方に目を凝らした。
そこには、到着日に自分を批判した政治家の姿があった。
「騒ぎを聞いて駆けつけました。どうかされたのですか?」
カイが揉め事の起きている集団に向かって大きな声をかけると、騒ぎの中心にいたフィルリ7世が平民と思われる男性3人にもみくちゃにされながら、
「王女の護衛か! この国賊たちを捕らえるのだ! 今すぐに!」
と叫んだ。
「団長、どーします?」
シンの問いかけに、
「まぁ、助けるしかないだろうな」
とカイが答えると、シンとロキの2人は走り寄って輪の中に入り、掴みかかっている3人をあっという間に引き剥がし、フィルリ7世の前に立って身を挺した。
「さすが、国家予算を使っているだけあるな」
とフィルリ7世は自分の身を守った騎士の鮮やかな動きに素直に驚いてに言うと、掴みかかってきた3人に向かって、
「暴力は主張の正当性を損なう悪手だ。捕まりたくなければ今後はやめなさい」
と少し落ち着いた様子で言った。
「で、この3人はどうするんですか?」
カイはフィルリ7世に尋ねる。3人はその言葉を聞いて身構えた。
「本来ならすぐに裁判へかけるところだが、政治家の私と庶民のその者たちが法廷でそれぞれ主張したら私が圧勝するに決まっておろう。その者たちの名前や住まい、今回の行動に至った経緯などを細かく聴取し、釈放する」
フィルリ7世はそう言うと、何もなかったようにその場を去ろうとした。
「ちょっと待て、その細かい聴取とやらは、どこで誰に受けさせる」
カイは自分の範疇を超えた仕事は一切受けない主義だ。事情聴取など部下にも負わせるつもりはない。
「ああ、騎士殿は知らないのだな。城内にも裁判所があるので、そこに連れて行けば良い。法曹業務はそこで大体のことができる。なるほど? 城内に平民が入り込むことも滅多にないし、事態に慌てた誰かに大した説明もされず駆けつけさせられたのだな」
フィルリ7世はそう言うと、シンとロキを見て、
「ブリステ人らしい騎士も増員したのか。この国は幾多の欲望が蠢き、厄介が多い。心してかかれよ」
と言い、何か言いたげな顔で立ち去った。
先程まで暴れていた平民の3人は、到底力の及ばない騎士に捕らえられ、すっかり大人しくなっていた。
城に侵入し、政治家につかみかかるほどまで怒りを抱えていた者たちだとはとても思えない。
シンとロキは城内で紐を借りて来ると、3人を拘束し、裁判所へ向かうことにした。
「あとは任せた。俺は殿下のところへ報告に行く」
カイは、先日の会議で見た敵意むき出しのフィルリ7世とあまりに印象が違うことが気になっていたが、平民に取り囲まれる位には「狸」なのだろうな、と思い直し、レナの元に報告へ向かった。
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