22 / 221
the 6th day 歓迎されない訪問者
しおりを挟む
朝のハウザー騎士団は慌ただしい。
夜通しの護衛を終え、身支度をしながら1日の任務について確認し、朝食をとりながら話したいことを話す。その後すぐに各自の仕事に散って行くためだ。
「団長、本当に殿下がバールに行きたいと言ったんですか?」
シンは城下町のお忍びコースを作る上で、カイがレナから言われたことを確認している。
「あの方は、俺にアルコールを取らせたいらしい。そういえば到着初日に言われていた」
カイが答えると、
「庶民っぽくてお忍びには良いかもしれませんが、バールは人との距離が近いから会話で身バレしそうなのが怖いんですよね」
とシンは難しそうな表情を浮かべた。
「その辺は、事前に打ち合わせでもして気をつけるしかないだろうな。架空の設定を作り、偽名で呼び合ったりはしないとマズイだろ」
カイはサラッと言うが、
「役者でもないのに、ぶっつけ本番でそんなこと上手くできます? 俺、信用しますよ?」
と部下のシンは疑い深い目でカイを見ている。
「団長は女性と一緒に夜のバールに訪れたら、どんな会話になるかご存知なんですか?」
とロキが横から突っ込んだ。
「どんな会話だ?」
カイが純粋に尋ねたので、
「あーもう、ダメダメじゃないですか! 金曜の夜! 恋人同士! お酒を飲むために寄るバール! と来れば!」
「その後のことを男女で駆け引きするんですよ。いわゆる、最後の一押しですね」
と、2人は呆れながら言った。
「俺は、そんなことはしない」
カイは頑なな態度で断った。人生で全く関わってこなかったやり取りを再現することなど不可能だ。
「分かってますよ。だから心配してるんじゃないですか。店内で浮きまくる美男美女って目立ちすぎるんですよ。頭が痛いなあ」
シンは城下町の地図を広げながら難しい顔をした。
「周りを欺くために、わざと口説き文句とか言うのはどうですか?
俺考えますよ?」
ロキは親切心から言ったが、カイに軽く却下された。
その日の見合いは、いつになくレナの対応がぎこちなかった。
相手はルリアーナ国内の公爵らしい。先日の話からすると、見合いのためというよりは外交のための席だったはずである。
任務を全うするために、仮面をかぶってでも愛想を良くするはずのレナは、笑顔が引きつる場面すらあった。
「レナ様、お見合い相手は広く受け付けているとのことですが、ルリアーナ内の婚姻には興味がないのでしょうか?」
公爵の言葉を聞いてカイは違和感に眉をひそめた。
(なぜ、そんなことを気にする……?)
「ルリアーナ国内の方とも、ご縁があれば婚姻の意思はあります。広く募集をしたら、国外の方にも来て頂けているだけのことですから」
レナはそう言うと、相手の視線から逃げるように下を向いた。
(公爵相手に、ここまで嫌そうにするのは何でだ?)
カイはレナの態度が不思議でならない。
次の瞬間、公爵は席を立ち、レナに向かって歩いていた。咄嗟にカイは自分の身を呈してレナの前に立つ。
「失礼ですが、それ以上は近づかないでいただきたい」
カイの高い身長で完全にレナが隠れると、推定30歳位の公爵はカイに対し、
「無礼者が……!」
と怒りをあらわにした。
「異国人に何が分かる?! ルリアーナ王女の血は、ルリアーナ国内で守らねばならない! レナ様にはその意味が分からないのだ!」
公爵はカイを退けようと手を挙げて、その手を簡単に抑え込まれてしまった。
「異国人でも分かります。王女も同じ人ではないのか。あなたに人生を決められる筋合いはない」
カイはそう言いながら公爵の手を捻ったため、ちいさな悲鳴が上がった。
「…………」
その間も、レナは弱気に下を向いている。
「レナ様! 目をお覚ましください!」
公爵は必死に叫んだ。
「公爵閣下、ごめんなさい、今日はお引き取りいただけますか」
レナはそう言うと、カイに公爵を城の外まで連れ出すように告げた。
カイは初めての対応に驚いたが、よほどの事情があると見て、公爵を連れて城外へ出る。
「貴様、こんなことをして許されると思うか!」
まるで悪人の捨て台詞をカイに浴びせながら、公爵は関係者と共に城から追い出された。
カイは門番に2度と通さないように注意をしておく。
「罰当たりな王女め、滅んでしまえ!」
公爵はそう言って帰って行った。
(一体何なんだ……)
一連のことが、まるで信じられない。レナの対応も、いつもとは別人だった。
公爵の罵声を背に浴びながら、カイは応接室に急いだ。
夜通しの護衛を終え、身支度をしながら1日の任務について確認し、朝食をとりながら話したいことを話す。その後すぐに各自の仕事に散って行くためだ。
「団長、本当に殿下がバールに行きたいと言ったんですか?」
シンは城下町のお忍びコースを作る上で、カイがレナから言われたことを確認している。
「あの方は、俺にアルコールを取らせたいらしい。そういえば到着初日に言われていた」
カイが答えると、
「庶民っぽくてお忍びには良いかもしれませんが、バールは人との距離が近いから会話で身バレしそうなのが怖いんですよね」
とシンは難しそうな表情を浮かべた。
「その辺は、事前に打ち合わせでもして気をつけるしかないだろうな。架空の設定を作り、偽名で呼び合ったりはしないとマズイだろ」
カイはサラッと言うが、
「役者でもないのに、ぶっつけ本番でそんなこと上手くできます? 俺、信用しますよ?」
と部下のシンは疑い深い目でカイを見ている。
「団長は女性と一緒に夜のバールに訪れたら、どんな会話になるかご存知なんですか?」
とロキが横から突っ込んだ。
「どんな会話だ?」
カイが純粋に尋ねたので、
「あーもう、ダメダメじゃないですか! 金曜の夜! 恋人同士! お酒を飲むために寄るバール! と来れば!」
「その後のことを男女で駆け引きするんですよ。いわゆる、最後の一押しですね」
と、2人は呆れながら言った。
「俺は、そんなことはしない」
カイは頑なな態度で断った。人生で全く関わってこなかったやり取りを再現することなど不可能だ。
「分かってますよ。だから心配してるんじゃないですか。店内で浮きまくる美男美女って目立ちすぎるんですよ。頭が痛いなあ」
シンは城下町の地図を広げながら難しい顔をした。
「周りを欺くために、わざと口説き文句とか言うのはどうですか?
俺考えますよ?」
ロキは親切心から言ったが、カイに軽く却下された。
その日の見合いは、いつになくレナの対応がぎこちなかった。
相手はルリアーナ国内の公爵らしい。先日の話からすると、見合いのためというよりは外交のための席だったはずである。
任務を全うするために、仮面をかぶってでも愛想を良くするはずのレナは、笑顔が引きつる場面すらあった。
「レナ様、お見合い相手は広く受け付けているとのことですが、ルリアーナ内の婚姻には興味がないのでしょうか?」
公爵の言葉を聞いてカイは違和感に眉をひそめた。
(なぜ、そんなことを気にする……?)
「ルリアーナ国内の方とも、ご縁があれば婚姻の意思はあります。広く募集をしたら、国外の方にも来て頂けているだけのことですから」
レナはそう言うと、相手の視線から逃げるように下を向いた。
(公爵相手に、ここまで嫌そうにするのは何でだ?)
カイはレナの態度が不思議でならない。
次の瞬間、公爵は席を立ち、レナに向かって歩いていた。咄嗟にカイは自分の身を呈してレナの前に立つ。
「失礼ですが、それ以上は近づかないでいただきたい」
カイの高い身長で完全にレナが隠れると、推定30歳位の公爵はカイに対し、
「無礼者が……!」
と怒りをあらわにした。
「異国人に何が分かる?! ルリアーナ王女の血は、ルリアーナ国内で守らねばならない! レナ様にはその意味が分からないのだ!」
公爵はカイを退けようと手を挙げて、その手を簡単に抑え込まれてしまった。
「異国人でも分かります。王女も同じ人ではないのか。あなたに人生を決められる筋合いはない」
カイはそう言いながら公爵の手を捻ったため、ちいさな悲鳴が上がった。
「…………」
その間も、レナは弱気に下を向いている。
「レナ様! 目をお覚ましください!」
公爵は必死に叫んだ。
「公爵閣下、ごめんなさい、今日はお引き取りいただけますか」
レナはそう言うと、カイに公爵を城の外まで連れ出すように告げた。
カイは初めての対応に驚いたが、よほどの事情があると見て、公爵を連れて城外へ出る。
「貴様、こんなことをして許されると思うか!」
まるで悪人の捨て台詞をカイに浴びせながら、公爵は関係者と共に城から追い出された。
カイは門番に2度と通さないように注意をしておく。
「罰当たりな王女め、滅んでしまえ!」
公爵はそう言って帰って行った。
(一体何なんだ……)
一連のことが、まるで信じられない。レナの対応も、いつもとは別人だった。
公爵の罵声を背に浴びながら、カイは応接室に急いだ。
0
お気に入りに追加
92
あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
あなたが残した世界で
天海月
恋愛
「ロザリア様、あなたは俺が生涯をかけてお守りすると誓いましょう」王女であるロザリアに、そう約束した初恋の騎士アーロンは、ある事件の後、彼女との誓いを破り突然その姿を消してしまう。
八年後、生贄に選ばれてしまったロザリアは、最期に彼に一目会いたいとアーロンを探し、彼と再会を果たすが・・・。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる