アメイジング・ナイト ―王女と騎士の35日―

碧井夢夏

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the 6th day 歓迎されない訪問者

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 朝のハウザー騎士団は慌ただしい。
 夜通しの護衛を終え、身支度をしながら1日の任務について確認し、朝食をとりながら話したいことを話す。その後すぐに各自の仕事に散って行くためだ。

「団長、本当に殿下がバールに行きたいと言ったんですか?」
 シンは城下町のお忍びコースを作る上で、カイがレナから言われたことを確認している。

「あの方は、俺にアルコールを取らせたいらしい。そういえば到着初日に言われていた」
 カイが答えると、
「庶民っぽくてお忍びには良いかもしれませんが、バールは人との距離が近いから会話で身バレしそうなのが怖いんですよね」
 とシンは難しそうな表情を浮かべた。

「その辺は、事前に打ち合わせでもして気をつけるしかないだろうな。架空の設定を作り、偽名で呼び合ったりはしないとマズイだろ」
 カイはサラッと言うが、
「役者でもないのに、ぶっつけ本番でそんなこと上手くできます? 俺、信用しますよ?」
 と部下のシンは疑い深い目でカイを見ている。

「団長は女性と一緒に夜のバールに訪れたら、どんな会話になるかご存知なんですか?」
 とロキが横から突っ込んだ。
「どんな会話だ?」
 カイが純粋に尋ねたので、
「あーもう、ダメダメじゃないですか! 金曜の夜! 恋人同士! お酒を飲むために寄るバール! と来れば!」
「その後のことを男女で駆け引きするんですよ。いわゆる、最後の一押しですね」
 と、2人は呆れながら言った。

「俺は、そんなことはしない」
 カイは頑なな態度で断った。人生で全く関わってこなかったやり取りを再現することなど不可能だ。

「分かってますよ。だから心配してるんじゃないですか。店内で浮きまくる美男美女って目立ちすぎるんですよ。頭が痛いなあ」
 シンは城下町の地図を広げながら難しい顔をした。

「周りを欺くために、わざと口説き文句とか言うのはどうですか?
 俺考えますよ?」
 ロキは親切心から言ったが、カイに軽く却下された。


 その日の見合いは、いつになくレナの対応がぎこちなかった。
 相手はルリアーナ国内の公爵らしい。先日の話からすると、見合いのためというよりは外交のための席だったはずである。
 任務を全うするために、仮面をかぶってでも愛想を良くするはずのレナは、笑顔が引きつる場面すらあった。

「レナ様、お見合い相手は広く受け付けているとのことですが、ルリアーナ内の婚姻には興味がないのでしょうか?」
 公爵の言葉を聞いてカイは違和感に眉をひそめた。

(なぜ、そんなことを気にする……?)

「ルリアーナ国内の方とも、ご縁があれば婚姻の意思はあります。広く募集をしたら、国外の方にも来て頂けているだけのことですから」
 レナはそう言うと、相手の視線から逃げるように下を向いた。

(公爵相手に、ここまで嫌そうにするのは何でだ?)

 カイはレナの態度が不思議でならない。
 次の瞬間、公爵は席を立ち、レナに向かって歩いていた。咄嗟にカイは自分の身を呈してレナの前に立つ。

「失礼ですが、それ以上は近づかないでいただきたい」
 カイの高い身長で完全にレナが隠れると、推定30歳位の公爵はカイに対し、
「無礼者が……!」
 と怒りをあらわにした。

「異国人に何が分かる?! ルリアーナ王女の血は、ルリアーナ国内で守らねばならない! レナ様にはその意味が分からないのだ!」
 公爵はカイを退けようと手を挙げて、その手を簡単に抑え込まれてしまった。

「異国人でも分かります。王女も同じ人ではないのか。あなたに人生を決められる筋合いはない」
 カイはそう言いながら公爵の手を捻ったため、ちいさな悲鳴が上がった。

「…………」
 その間も、レナは弱気に下を向いている。
「レナ様! 目をお覚ましください!」
 公爵は必死に叫んだ。

「公爵閣下、ごめんなさい、今日はお引き取りいただけますか」
 レナはそう言うと、カイに公爵を城の外まで連れ出すように告げた。

 カイは初めての対応に驚いたが、よほどの事情があると見て、公爵を連れて城外へ出る。

「貴様、こんなことをして許されると思うか!」

 まるで悪人の捨て台詞をカイに浴びせながら、公爵は関係者と共に城から追い出された。
 カイは門番に2度と通さないように注意をしておく。

「罰当たりな王女め、滅んでしまえ!」
 公爵はそう言って帰って行った。

(一体何なんだ……)
 一連のことが、まるで信じられない。レナの対応も、いつもとは別人だった。
 公爵の罵声を背に浴びながら、カイは応接室に急いだ。
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